ホーロー鍋はどのような価値を顧客へ届けているのか?
技術開発で重要なのはターゲットである。顧客に届ける価値に焦点を当てる、という話です。
技術開発や製品開発のターゲットを顧客へ届ける価値に合わせていますか?
1.価値を届ける
自動車部品の開発に携わっていた頃、主要なテーマは軽量化でした。
顧客ニーズは燃費向上を目的とした車両重量の低減。その要望に応えるため、部品の軽量を目指すわけです。
軽量化によって顧客は燃費を向上させた商品を市場へ投入できます。そうして顧客は環境にやさしい商品を最終消費者へPRできます。
つまり、環境にやさしい企業イメージを創出するお手伝いをしているとも言えます。そうした価値を届けることが技術開発の狙いです。
軽量化を実現させる工学的なブレークスルーを起こす技術を開発することでした。
当時のコア技術であった解析技術や材料技術、加工技術を深堀していきました。
2.ホーロー鍋メーカー2社の話
ホーロー鍋は日頃、料理をする方々にとって手放せない道具かもしれません。
鉄やアルミなどの金属にガラス質のうわぐすりを被覆させ高温で焼き付けています。
通常の鍋と比較して、保温性が良い、焦げ付きにくい、煮物に適している、という「機能」があります。
その一方で、ガラスの光沢感があり見た目の美しさも兼ね備えています。
仏ルクルーゼというブランドは主婦の方々が憧れの的になっているようです。
憧れを生むほどのブランド力は、その商品が持つ大きな価値です。
強力なブランド力を有する自社製品があると経営戦略の選択肢が広がります。
ニッチな市場でも構いません。コア技術を生かして自社ブランドを構築することを目指します。
これは経営戦略上の大きな課題のひとつです。
逆に、競合他社が強力なブランド力を持つ製品・商品を市場に出していたらどうでしょうか?競合他社のブランド力にどう立ち向かいますか?
顧客に届ける価値を機能面から徹底的に検討します。
株式会社三条特殊鋳工所は新潟県三条市にある鋳物製造で創業した企業です。
その三条特殊鋳工所は数年前から鋳物ホーロー鍋に取り組んでいます。
機械部品で培った高い技術力を生かし、自社製品を開発する道を選択しました。下請けを脱却するためです。
ホーロー鍋市場では、競合他社の強力なブランドに対抗する必要があります。狙った機能は軽量化でした。
世界的に有名なブランド品と同等の保温機能を持ちながら、重さが半分の製品を開発しました。
2mmという従来にはない薄肉の鋳物ホーロ鍋を実現させたのです。
重さが半分となれば、ホーロー鍋が使われる場面が広がります。
高齢者や子供も道具として使いこなせるかもしれません。
また、調理の時、重さの負荷を感じずに持ち運びできれば、主婦の方々に受けるかもしれません。
肉厚2mmの鋳鉄鋳物を製造可能にしているのは材料や製法の技術の蓄積です。
工学的なブレークスルーの源泉です。
競合他社が簡単に模倣できることではありません。
材料や製法の技術の蓄積によるノウハウの体系はブラックボックスだからです。
軽いホーロー鍋なら同社の製品、となればニッチ市場でも強力なブランドになり得ます。
(出典:翼の王国ANAグループ機内誌2017年3月号)
愛知ドビー株式会社は産業機械部品の銑鉄鋳造や機械加工を事業の柱としています。
1936年に操業し、織機の一種であるドビー機を製造して発展してきました。
しかし、尾張地区の繊維産業の衰退とともに業績が低迷、2016年に鋳物ホーロー鍋の開発に着手しました。
鋳物の鍋本体とふたの接地部分を加工精度0.01mm以下で削り込みます。
鍋本体とふたとの密閉度を高めるためです。現場の匠の技が生きています。
現場の高い技術や技能に裏付けされた機能を競合他社は簡単にまねられません。
こうして開発された同社の鋳物ホーロー鍋は「バーミキュラ」というブランドで市場に投入されました。
国内市場では、入荷するまで数か月を要する程の人気商品に育ちました。
同社のコア技術である加工技術で、鋳物ホーロー鍋の機能を高めるだけ高めた結果です。
ホーロー鍋に期待される保温性を高水準で実現させました。
ところで同社の製品を海外市場(欧米)へ投入すると価格が問題となります。
匠の技で加工精度を追及しているだけに競合製品の2倍の価格になるのです。
そこで、同社は「バーミキュラ」に代わって、新たな商品を設計しました。
それは、火加減調整などの機能を持った炊飯器です。
センサーが鍋の中の温度を感知してボタン一つで火加減を調整できます。
国内向けに販売すること、これも入荷まで2~3か月待ちの人気商品になりました。
同社はこの商品を欧米市場へ投入しようとしています。
コメになじみがなくても、ローストや蒸し料理なら受け入れられると考えているからです。
新たな視点を持って、同社の鋳造技術から生み出される製品に特定の機能を加えました。
顧客へ届ける価値に合致していれば、加えられる機能が従来技術であっても十分に付加価値を生み出すのです。
従来技術+従来技術でも新たな価値を生み出します。
(出典:日本経済新聞2017年2月6日)
3.顧客に届ける価値から探る
製品に求められる機能は何でしょうか?その機能で顧客へどのような価値を届けられるでしょうか?
顧客に届ける価値を実現する製品に期待されている機能に注目します。
その機能を圧倒的に高めるための工学的な課題は何でしょうか?
コア技術を深耕、強化するとその工学的な課題を達成できるでしょうか?
技術開発で重要なのはターゲットです。顧客に届ける価値に焦点を当てます。
鋳物ホーロー鍋のような身近な製品にも、顧客へ届けたい価値が複数存在します。
その価値をしっかり届けるために、技術開発や商品開発を進めるのです。
1)コア技術を生かして圧倒的な価値を一点集中で生み出す。(軽量化、切削加工精度)
2)従来技術+従来技術。(従来製品へ火加減調整機能を加える)
「圧倒的な」と「組み合わせる」がキーワードです。
三条特殊鋳工所と愛知ビドーの事例は身近なホーロー鍋でそうしたことを教えてくれます。
顧客に届ける価値からコア技術の深耕、強化する方向性を探ってみませんか?
まとめ。
技術開発で重要なのはターゲットである。顧客に届ける価値に焦点を当てる。
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