ビジネスの主役は人だから密接な人間関係を築く

ビジネスの主役は人だから密接な人間関係を築く

選択と集中化か?上流から下流まで全てか?

この選択は、自社製品が、市場から何を求められているのかそれ次第である。

客先の担当者との密接な人間関係で有利に仕事を進める、という話です。

 

1.即席麺製造プラントメーカーの富士製作所

株式会社富士製作所は、即席麺製造プラントを製造販売する国内最大手メーカーです。

本社は群馬県藤岡市にあります。

資本金3,000万円、従業員数約90名、16年2月期の売上高は約47億円です。

1963年に即席麺ライン用コンベヤ式フライヤーを開発。生産ラインの設備全般を手掛けるようになりました。

麺を揚げるフライヤーのほか、上流から下流まで一貫生産ラインを全て自社で開発しています。

国内即席麺メーカーの顧客は日清食品、東洋水産など大手5社を含めた約30社に上ります。

アジアを中心に顧客を持ち、世界シェアの約5割を握っています。

2014年には、経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれました。

 

即席めんの生産ラインは、多岐にわたる工程で構成されます。

原材料を混ぜ合わせるミキサーやカッターを始め、麺をカップに入れる装置など……。

全長は長いもので約100メートルです。

同社のHPの「製品案内」で、全て自社で製造している状況が理解できます。

  • ミキサー
  • 連続機
  • 多段式糊化機
  • カッター引き伸ばし
  • フライヤー
  • サイクロン
  • 乾燥機
  • アキュムレーター
  • 充填コンベア

の紹介がなされています。

 

競合先は一部工程を外注対応していますが、同社では全てを自社開発しています。

年間25ライン程度、製造していますが、そのすべてが特注生産です。

同社の桜沢誠社長は次のように語っています。

 

「どんな注文が来ても断らない。」

(出典:日本経済新聞社2016年12月19日)

 

2.全工程を自社で製造する強み

どちらが新たな付加価値を創出しやすいでしょうか?

  • 一部工程を外注で対応する競合先
  • 全ての工程を自社で製造する富士製作所

全工程を高付加価値化の対象とできる富士製作所の方が有利に事業展開できます。

 

製麺の製造プロセスは、業界内でおおよそ一緒であると推定されます。

よほど「スゴイ」麺でも登場すれば、製造プロセスで既存の概念をひっくり返すようなアイデアが出るかもしれません。

そうでなく、一般的な「フツウの」麺の製造。プロセスはある程度、決まっていると推測されます。

そうなると、その製造プロセスの一部で、極めて「汎用性」の高い工程が出てきます。

その工程の製造設備は、工夫の余地は少ないと判断されます。

ですから、そうした工程の設備製造を外注へ出す戦略は理にかなっています。

その代わり、工夫の余地がたくさんあって、付加価値をぐっと高められる見込みのある工程に経営資源を集中させる。

選択と集中。

 

しかし、製品仕様の多品種化が進んでいる昨今です。予想もしなかった工程で付加価値を生み出す可能性があります。

例えば……。

従来はA工程とB工程をつなぐことだけを考えていた搬送設備で構成された区間。

この区間の設備に新たな工夫入れると、イノベーションが生まれる可能性が出てきた……。

こうした変化へ迅速に対応できるのは、全ての工程を製造できる同社だけ。

全工程を自社開発、製造できる同社の体制は新たな付加価値を創出する時には圧倒的に有利です。

 

選択と集中か?上流から下流まで全てか?

経営者の戦略的な意思決定の結果です。

 

3.いつでも上流から下流まで全てか?

ではどんな場合でも、同社のような対応が正なのか?

全工程を自社開発、製造できる体制がいつも有利かというと、必ずしもそうではありません。

この選択は、自社製品次第です。自社製品が市場から何を求められているのか、それ次第です。

 

シャープの堺工場は「究極の垂直統合工場」です。

三重県・亀山工場で成功した、液晶ディスプレイからテレビまで一貫して生産する「垂直統合」モデルを更に進化させました。

亀山モデルはアクオスブランドを定着させることに成功しました。

しかし、それを拡大発展させた「堺モデル」はどうなったか……。ご存知の通りです。

 

大型サイズとなる60インチサイズに的を絞っていました。「技術の向上」に伴って、競争が激化した大型化の流れをたどった結果です。

美しい大画面のテレビは消費者に受けるはず。当時のシャープが思い込んでいた考えは、顧客視点というより、供給者視点でした。

自社製品での技術開発競争が「定量的」な指標で表現できる場合は要注意です。

供給者視点に陥りやすい技術開発にも要注意です。

競合先のひしめき具合を睨みながら、本当に上流から下流まで一貫でイイのか?とも考えねばなりません。

中小製造業が絶対に避けねばならないのは価格競争だからです。

 

一方、「麺」はどうでしょうか?麺に求められる仕様や要望は「定量的」な競争に陥ることはあるでしょうか?

食品ですから、「健康」というキーワードが浮かびます。

国内での人口減少という環境変化から「個食」という言葉も新たに生まれています。

「麺」であるならば、数字では表されない、多様な仕様や要望が市場から出されそうです。

そうであるならば、全工程を手の内に収めておくことは絶対に有利です。

「麺」には「液晶パネル」とは違って、定量的に表現できない要望事項がたくさんあります。

 

4.密接な人間関係で売る

工場の生産形態は大きく3つに分類できます。

1)見込生産

2)特注生産

3)規格品受注生産

 

富士製作所は2)の特注生産です。受注ごとに異なる顧客の要望に応えます。

桜沢誠社長は「どんな注文が来ても断らない。」と語っています。社長方針が明確です。

営業部隊は開発、設計、製造と連携し、顧客と密接な情報交換をしていると推測できます。

 

同社の顧客は、最終消費者へ、多様な「コト」を届けたいと考えています。

そこでは、予想もつかない要望が出てくることもあるでしょう。中には実現しがたい事もあるでしょう。

客の要望に最大限応えつつ、出来ないことは、できる範囲で最大限の調整する……。

顧客の本音も引き出しながらのやり取りになります。

ここでは、顧客との「密接な人間関係」の構築が、仕事を成功させるカギです。

 

加えて重要なのは、その顧客がリピーターになるか否かは、この要因が極めて大きいということです。

「密接な人間関係」を築いて、顧客から信頼を獲得する。

同じ成果を上げた発注先があるならば、どちらを選択するか?そう考えれば、理解できます。

 

これは、3)の規格品受注生産でもあり得る状況です。

特に、発注先にいくつか選択肢がある場合は特にそうです。

 

自動車メーカーや家電メーカーと部品会社との関係が代表的です。

競合を寄せ付けない圧倒的な水準の部品を供給しているなら別です。

技術水準で差のない競合先が存在しているケースでは密接な人間関係は受注のカギです。

担当者の裁量で発注先が決まってしまう現実があります。

 

かって所属した自動車部品工場で営業活動に一生懸命な仲間がいました。

その彼は、客先の担当者と個人的なつながりを重視していました。

客先の担当者も、自分のためにわざわざ一席設けてもらったりすること自体に悪い気はしません。

そうした「和んだ場」で、個人的な会話を交わし、関係を深めることも大切でした。

ビジネスの上で重要な情報を入手できたこともありました。

 

密接な人間関係の構築。

現場において、仲間との絆は、チームオペレーションを機能させるために重要な役割を果たします。

同様に、あるいはそれ以上に、重要なのが顧客と密接な人間関係を築くということです。

こうした密接な関係を構築した結果、外から自社がどう見える、客としてどうして欲しい、という生の声に触れられます。

 

シャープも、内向きのみではなく、液晶パネル販売で顧客となったソニーや東芝との関係をもっと密にしていれば、違った選択肢が生まれたかもしれません。

密接な関係があれば、顧客も正直に、本当のことを話してくれますから。

 

選択と集中化か?上流から下流まで全てか?

こうした戦略的意思決定の判断材料に、顧客の声、市場の要望を生かすことも必要です。

経営者の想いや技術シーズの観点は当然重要です。が、一方で、外部の「本音情報」も重要であることを忘れてなりません。

主観と客観のバランスです。そこでは、顧客や市場から本音を引き出す密接な人間関係も欠かせない武器となります。

 

富士製作所では工場や営業所を海外に設置する計画がありません。

コストパフォーマンスから判断した結果です。

それでも難しい故障が起きれば、社員を派遣して、きめ細かい対応を海外企業への提供します。

これが、同社が海外企業から支持を集める要因になっているとのことです。

(出典:日本経済新聞社2016年12月19日)

海外顧客の担当者と密接な人間関係を築いている成果です。

 

デジタル化がドンドン進んでいくビジネスの世界ですが、そのビジネスを展開している主役は人です。

人は頭ではなく、感情で動きます。アナログの対応が武器になります。

 

選択と集中化か、上流から下流まで全てかの判断基準はありますか?

客先との密接な人間関係を築いていますか?

 

まとめ。

選択と集中化か?上流から下流まで全てか?

この選択は、自社製品が、市場から何を求められているのかそれ次第。

客先の担当者との密接な人間関係で有利に仕事を進める。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)