バーコードの課題と将来展望
はじめに
『月刊自動認識(旧月刊バーコード)』が発刊されて20年になると聞き、発刊当時のことを思い出す。
当時、物流標準バーコードITFがJIS化され、日本電子機械協業界EIAJがEDIにCode39を採用し、小売業界から物流業界に市場が拡大していたバーコードの発展期であった。
そして、業界団体として国際自動認識工業会(AIMジャパン)が発足したことを受けての発刊だったと思う。
それから2次元シンボル、RFID、バイオメトリックスと新しい技術が次々と登場し、また、製造業界、サービス業界、医療業界、インターネット等へと急速に広がってきた。
この自動認識業界の発展に本誌が果たした役割は非常に大きく、これからも業界の発展のためにいっそうの活躍をお願いしたい。
POSにおけるセブンイレブンの果たした役割
バーコードは、チェックアウトの合理化のために開発され、1984年、セブンイレブンのPOS導入により一気に普及が加速した。
導入初期は、ペンスキャナを使用していたためにビニル袋製品の読み取りが難しく、レジ待ちを解消するためにバーコード読み取りを放棄した店舗もあった。
しかし、本部の指導とCCDスキャナへのリプレースの決断によりレジの混乱は解消され、在庫切れ商品の削減のために他のコンビニも次々と導入していった。
セブンイレブンは、膨大な投資と多くの苦労からPOSシステムの価値を証明し、小売業の発展をもたらし、同時に、食品雑貨のソースマーキング比率を一気に高めることになった。
あのバイイングパワーなくしては、ソースマーキングは伸びず、したがってPOSの普及は大きく遅れていたに違いない。
国際化に遅れた物流標準バーコード
1987年にJIS化された標準物流シンボルITFは、日本の複雑な梱包形態を反映させ国際標準のITF14の他にITF16も規格化した。
当時、JISは、日本の産業界の育成と保護のために日本の実情の合わせて規格化することが当然であった。
しかし、物流の国際化に伴いITF16が表示された製品が輸出されるようになり、海外で読み取りできないという問題に発展した。
ITF16が禁止になったのは、国際EAN協会と米国コードセンタUCCが統合されGS1になった2005年のことで、18年間も混乱が続いたことになる。
標準流通シンボルJANは、当初から国際協調を図って導入されたが、物流シンボルは日本独自色を出したことが問題となった。
しかし、これは、それだけ物流バーコードが広く普及したことの証であり、業界にとって決して悪いことではなかったと思う。
一方、Codabar(NW7)は、宅配便業界の中で独自の物流バーコードとして普及している。
Codabarは、海外では殆ど使用されなくなっているにも関わらず、日本で独自の発展を遂げた実に面白い例である。
日本独自のコンビニ料金代理収納バーコード
コンビニ料金代理収納バーコードGS1-128は、日本独自の仕様で2002年から使用されている。
アプリケーション識別子に自由使用の(91)を採用しているが、これは、国際規格では最大桁数30桁と決められている。
しかし、従来のJANコード4段からデータを移行するために、44桁を表示せざるを得なかった。
日本の振込み用紙を海外のコンビニから振り込むことはないので、運用上の問題は生じることはないが、バーコード検証機でチェックするとフォーマットエラーになってしまう。
このように、バーコードの国際標準化は、経済がグローバル化するなかで不可欠であるが、一方では、各国の事情をどのように反映していくかが課題である。
コンビニ料金代理収納バーコード(下図)は、支払期限や支払金額などのデータを持っている。
医薬品、医療材料標準バーコードは、有効期限やロット番号などのデータを持っている。
このようにGS1-128は、従来の企業コードや商品コードばかりでなく、変数データを持つことができ、これがバーコードの利用範囲を拡大させている。
そして、QR CodeやPDF417などの2次元シンボルにより、更に高度な利用を実現させている。その代表が、自動車業界で使用されているカンバンのQR Codeである。
バーチャル世界で使用されるバーコード
バーコードは、商品コードなどのIDから有効期限などの変数データまで利用され、現在は、URLにも利用されている。
インターネットでのバーコード利用であるe-Barcodeは、カメラ付Web対応の携帯電話の普及により一般化した。
従来、バーコードは、物や人を管理するためのツールであったが、今では、インターネットのWebサイトにリンクするツールとなっている。
URLをQR Codeにして印刷しておけば、それを読み取るだけでそのサイトに繋がるので、キー入力が面倒な携帯電話にとって極めて便利である。
また、飛行機のチケットは、携帯電話に配信されてくるQR Codeで代用できるようになった。
チケットを発行し郵送する手間と時間が省けるので、航空会社にとってもユーザにとってもメリットがある。
携帯電話の画面に表示するバーコードは、紙に印刷するバーコードと異なり、何回でも書き換えができる。
したがって、将来、電子ペーパーが普及すれば、書き換え可能なバーコードアプリケーションが広がっていくだろう。
さらに広がるバーコードメディア
液晶画面などのリライタブルの要求は、環境対策からもニーズが高まっている。
近年話題になっているリライタブルペーパーは、約1000回の書き換えができるので、カンバンシステムや生産指示書などに有効である。
従来、バーコードは紙に印刷するものであったが、近年、紙以外のメディアが増加している。
例えば、ダイレクトパーツマーキング(DPM)は、金属や樹脂等に2次元シンボルを直接マーキングする技術であり、トレーサビリティ、生産管理、品質管理、在庫管理等に利用されている。
2次元シンボルをダイレクトマーキングすることは、多くの情報を小さいスペースに表示できると供に、油、薬品、熱などの厳しい環境でも使用できる特長がある。
しかも、直接マーキングするのでランニングコストがほとんど無く、長期間にわたって利用できる。
自動認識インフラとしてのバーコード
近年、小売においてRFIDの利用が検討され、決済カードとしての普及は見込めるようになったが、商品タグの普及の可能性は殆どみられない。
100%の読取保証とコスト負担方法が解決できない限り実用化は不可能であるという見方が主流になりつつある。
小売に限らずどの分野でも、コストをかけてバーコードからRFIDに変更する大きな事由を見出すのは難しい。
バーコード読取回数の多い生産ラインでのハンドフリー読取やゲート一括読取など、バーコードではできない場面ではRFIDが使用されるが、RFIDがバーコードに代わってインフラになることは考え難い。
一方バーコードは、GS1 Databar(RSS)が、2006年から医薬品に採用され、2010年から小売で使用されることがGS1で承認されるなど、30年ぶりの新バーコードに期待が高まっている。
Databarは、商品コードのみであればJANコードの数分の一のサイズになり、賞味期限やロット番号などの情報を入れることができる。
現在、賞味期限やロット番号は、GS1-128が広く使用されているが、これより大幅に小さくできることから、Databarは、バーコードの中心的なシンボルになっていくかもしれない。
バーコードがインフラとして適しているのは、既に広く普及し、印刷によりコスト負担が少ないことばかりでない。
何よりも一つ一つ読み取ることの安心感も重要だと思う。
一括読取の技術が確立したとしても、それを信頼するにはある程度の期間が必要であり、バーコードにしても信頼を勝ち取るために多くの宣伝と実証が必要であったからである。
次世代のバーコード
バーコードは、バーの幅で情報化する技術であるため、寸法精度が重要であった。
次の2次元シンボルでは、マトリックスの歪みが重要になったが、いずれも印刷精度が課題である。
そして今、カラーの組み合わせで情報化するカラーバーコード時代が始まろうとしている。
カラーバーコードは、情報化密度を高めるために昔から検討されているが、情報化密度であれば2次元シンボルで殆ど解決しているので、カラー化する意味がない。
そこで考案されたカラービットコードは、色の配列でコード化するために、印刷精度が問題でなく、また、直線配列である必要がないため曲線にすることができる。
また、3原色を使用しているので変色にも強い。情報化密度は高くないが、非常にラフな印刷ができること、一括読取がし易いことが特長である。
プリント基板やガラス基盤の管理、カラフルなPOP広告など期待されている。