トランプ大統領でどうなる日本の製造業?メーカー各社のコメントまとめ

トランプ大統領でどうなる日本の製造業?メーカー各社のコメントまとめ

shutterstock_493027405写真:George Sheldon / Shutterstock.com

 アメリカの次期大統領がトランプ氏に決まりました。アメリカは中国と並んで最も大きな貿易相手国であり、その経済政策は日本の製造業に大きな影響力を与えます。特に日本の輸出拡大の追い風となるTPPに対してトランプ氏は反対の立場で、その動向からは目が離せません。製造業トップは今回の大統領選挙の結果をどう感じたのか?財界・製造業トップのコメントをまとめました。

経団連、経済同友会、日本商工会議所のトップは。。。

「TPPの早期実現の重要性について理解していただけることを期待したい」

経団連の 榊原定征会長はトランプ氏が選出されたことに対し「変化を期待する米国民の期待の声を受けてのこと」とし、TPPに関しては「日米両国をはじめとする参加国の経済的な繁栄に寄与するだけでなく、アジア太平洋地域の平和と安定にも重要な役割を果たすものであることを踏まえ、その早期実現の重要性について、改めて理解していただけることを期待したい」と強調しました。
※参考:米国大統領選挙に関する榊原会長コメント

「政権の大勢が決まっていく中で軌道修正が図られていくことに期待」

 経済同友会 小林喜光代表幹事もトランプ氏の選出に驚きつつ、 「既存の政治に対する米国国民の怒りや反発が想像以上に高まっていることを肌で感じたが、今回の結果はその表れである。グローバル化やデジタル化が不可逆的な流れである一方、その中で取り残される人々も増え、経済格差も拡大している。たとえトランプ氏が大統領に就任したとしても、トランプ現象の背景にある根本的な原因に対処するには、相当の時間がかかるだろう」と分析しています。
 また日米関係の影響は不透明で、トランプ政権との円滑なコミュニケーションを当面の課題とし、経済政策等は「実際に政権の大勢が決まっていく中で、軌道修正が図られていくことも考えられ、それを期待したい」と静観の構えを見せています。
※参考:経済同友会、米国大統領選の結果について

保護主義や反グローバリズムの台頭は、世界の経済活動の停滞を招くことになりかねない

 日本商工会議所の三村明夫会頭はTPPについて触れ、「米国経済の成長は世界経済の持続的な成長に不可欠であり、とりわけ経済政策においてTPP協定は日米両国のみならず、アジア太平洋地域の成長と繁栄にとって極めて重要な枠組みである。保護主義や反グローバリズムの台頭は、世界の経済活動の停滞を招くことになりかねない。TPPの発効のためには日米の批准が不可欠であることを踏まえ、トランプ新大統領が現実的な判断をされることを期待したい」とTPP発行を強く促しています。
※参考:日本商工会議所、米国大統領選挙結果に対する三村会頭コメント

自動車と関連業界はNAFTAの動向を注視 トヨタ、マツダ、パイオニア、新日鉄など

北米市場の戦略に変更はない

 いま自動車各社はNAFTA(北米自由貿易協定)によってメキシコやカナダで生産した自動車を関税ゼロでアメリカに輸出できています。トランプ氏はTPPともにNAFTAの見直しも検討しているとされ、それが実行されるとアメリカとメキシコの国境周辺に工場を構えている自動車とその関連メーカーが大打撃を受けると予想されています。

  NHKニュースウェブによると、マツダ・小飼雅道社長は「アメリカが大事な市場であることは変わりなく、北米市場の戦略に変更はない」とし、 また為替の影響についても、商品価値を上げて収益性を向上させることが大事としながら、円高ドル安への耐性もあり、現時点での影響はないと話しています。
 メキシコで新工場を稼働させる予定のパイオニアは「メキシコの新しい工場はアメリカ向けの生産拠点としても位置づけており、トランプ氏がメキシコに対する関税などの政策をどうするのかや日本の自動車メーカーがそれにどう対応するかなど、どのような影響が出るのかを注意して見ていきたい」と述べているそうです。
 鉄鋼など素材を扱う岡谷鋼機もメキシコに工場と現地法人を持っていて、NAFTA見直しによって価格が上昇した際の米国市場の反応などを懸念しています。
  トヨタ自動車も2019年にメキシコでアメリカ市場向けの工場を新設する計画があり、日産やホンダなど各社が生産拠点を持っています。
出典:NHKニュースウェブ、マツダ社長 トランプ氏の具体的政策を注視

アメリカの国内産業だけで需要をまかなえる構造になっていない。NAFTA離脱は簡単ではない

 ロイターは新日鉄住金の栄敏治副社長を取材し、同社がトランプ氏の保護貿易主義的な動きが強まることを懸念していることを伝えています。
 同社はメキシコに拠点を持っていて、メキシコに工場を持つ日系自動車メーカーを対象に鋼材を販売しています。対米輸出量は少なく、直接的な影響は限定的としながら、ユーザーへの間接的な影響があると予想し、さらにNAFTA離脱となればメキシコ事業に大きな影響がでるとしています。ただその一方で、アメリカの国内産業だけで需要をまかなえる構造になっていないので、離脱はそう容易ではないと指摘したと伝えています。
出典:ロイター、米がNAFTA離脱なら、メキシコ事業に影響大=新日鉄住金副社長

地方企業も戦々恐々 動向に注目

様子を見る日本ペイント、アメリカ事業を強化するダイキン工業

産経WESTは関西企業の反応を紹介
自動車メーカーに塗料を販売している日本ペイントは「様子を見ないと分からない」とし、バンドー化学は将来的なメキシコ工場の計画を一旦白紙に。帝人の子会社の帝人フロンティアは「TPPの動向によって生産拠点の置き場が変わってくるかもしれない」とし、アメリカのエアコン大手を買収したダイキン工業はアメリカ事業強化の方向性を示したとしています。
※産経WEST、「経済への影響を把握」「メキシコ生産拠点設置は様子見る」 関西企業反応

日経新聞は九州経済界の動きを伝え、福岡商工会議所の磯山誠二会頭のコメントで、九州は自動車産業など対米輸出の比率が高いとし、今後の影響を心配するとのコメントを紹介しました。
※日本経済新聞、「車輸出への影響懸念」 トランプ氏勝利で 九州経済界

「TPPがなくなることを前提に動かなければならない」

このほか信毎webは長野県企業のコメントを紹介。
「TPPがなくなることを前提に動かかなければならない」(光学機器メーカーでアメリカにライフルスコープなどを輸出しているライト光機製作所)「自国製品優先の政策に傾くのが心配」(長野計器)など
※信毎web、県内に広がる警戒感 米大統領にトランプ氏

TPPに期待。保護政策の強化ではなく、経済協力を

中日新聞は静岡県の有力企業の談話を発表。
海外輸出比率が7割と高い浜松ホトニクスはTPPなど経済政策と外交政策の影響を注視するとし、売上の22%が北米向けのヤマハ発動機はトランプ氏に対し「地位にふさわしい政策推進を期待したい」とコメントしたことを伝えています。またアメリカ向けにチップソーを輸出している天竜製鋸はTPPへの期待は高く、保護政策の強化ではなく各国との経済協力への要望のコメントを紹介しています。
※中日新聞静岡、《経済》 トランプ・ショックを注視

 注目のアメリカ大統領選挙は、蓋を開けてみればまさかのトランプ新大統領。製造業各社は、従来とはまったく違う路線になるであろうことに対して右往左往しているかと思いきや、意外にも製造業では冷静に受け止めている節が見られます。トランプ氏自身も選挙後は「暴言」と言われた過激な言動は姿を潜めており、まずは様子見といったところでしょうか。

トランプ新大統領の就任式は来年1月20日。ものづくりニュースでもその様子を追っていきたいと思います。

◆今回参照・引用したメディア一覧
経団連、米国大統領選挙に関する榊原会長コメント

経済同友会、米国大統領選の結果について

※参考:日本商工会議所、米国大統領選挙結果に対する三村会頭コメント

NHKニュースウェブ、マツダ社長 トランプ氏の具体的政策を注視

ロイター、米がNAFTA離脱なら、メキシコ事業に影響大=新日鉄住金副社長

産経WEST、「経済への影響を把握」「メキシコ生産拠点設置は様子見る」 関西企業反応

日本経済新聞、「車輸出への影響懸念」 トランプ氏勝利で 九州経済界

信毎web、県内に広がる警戒感 米大統領にトランプ氏

中日新聞静岡、《経済》 トランプ・ショックを注視

※ちなみに、
アップルやマイクロソフト、フェイスブック等のアメリカのインターネット企業のトップの反応はこちら
ITmediaニュース、Apple、Microsoft、Facebook、TwitterのCEO、それぞれの“トランプ当選後”コメント


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。