トヨタ車両組立ラインのすごさ|元トヨタマンの目
新車が立ち上がる場合に決めなければならないことは山のようにある。
①何万点とある部品をどの工程でどういう順番に組み付けるか
②ライン側の部品棚にどの部品を入れるかを決め、棚の部品投入口と取り出し口にそれぞれ部品ラベルを添付する
③何千人という組立作業者の配置と作業手順を考え、1人ずつの標準作業票を作成する
トヨタの場合、月単位で生産台数が変動する。もし生産台数が増加するようなら、ラインスピードを上げるとともに、作業者数を増加させる。
この場合作業者1人あたりの作業範囲は狭くなる。
逆に生産台数が減少すれば、ラインスピードを落として作業者を減らす。この場合は、作業者1人あたりの作業範囲は広くなる。
このようにすれば、生産数量が増えても減っても作業者の作業密度は同じになる。
このように月単位で生産変動があるということは、月単位で部品を組み付ける位置が変わってしまうということだ。
したがって部品棚の位置を毎月変えなければならない。また作業者の守備範囲も変わるので標準作業の方も作り直さなければならない。
実際にこのラインレイアウトの変更は毎月末に休日出勤して行なっていた(幸い生産台数に変動がない場合も当然ある)。
このようなことは組立ラインの職制が中心になって行なっている。
この業務を処理できるまでに作業者を訓練して、職制に昇格させていくわけだ。
組立作業者は常に考えながら単調な組立作業をこなしている。
「この標準作業はちょっとやりにくい。部品の組み付け順を変えた方がいいのじゃないか」
「この部品は組み付けにくいので、なにか良い治具のようなものを工夫できないか」
「この班長は全ての作業のピンチヒッターができる実力だ。ここまでならないとライン編成業務はできないな。俺も頑張るぞ」
このように全作業者が改善を考えながら進めていくからこそ、ラインレイアウトの度重なる変更があっても、切り替え後ほどなくラインは安定して円滑に生産できるようになるのだ。
これこそ全員の力と知恵の結晶の結果だ。
ところでチャップリン氏の映画「モダンタイムス」には文句が言いたい。単純作業の部分だけクローズアップして揶揄している。
あなたの映画づくりもすごいけれど、組立作業者のラインづくりだってすごいのだ。
また、ある小学校が組立ラインの見学に来た。見学コースは組立ラインの上に設置されていた。
引率の先生が子供たちに向かって「お前たち勉強しないとこういう仕事をすることになるぞ」と言っていたのが、下の作業者に聞こえたそうだ。
われわれトヨタの工場従事者は山のような自負心を持っているからなんと言われても結構だ。
しかし教師たるもの、せっかくトヨタの工場へ勉強にきたのだから、物づくりの「すごさ」を習得し、その真実を子供たちに伝える努力をしてほしい。