トヨタ生産方式は3人の天才から生まれた。そしていかに進展したか|元トヨ...

トヨタ生産方式は3人の天才から生まれた。そしていかに進展したか|元トヨタマンの目

トヨタ生産方式の真の源流

①豊田佐吉 「人偏のついた自働化」の着想と実現
②豊田喜一郎「ジャスト・イン・タイム」の着想
③大野耐一 「ジャスト・イン・タイム」の実現

 

①豊田佐吉「人偏のついた自働化」の着想と実現

機械が作動している時に、何かトラブルが発生したらすぐに停止ボタンを押してワークや機械が破損することを防ぐために人がずーっと監視している。
人が何もせずただ監視しているのはもったいない。
「機械自体が、トラブルが発生した場合に自動的に感知して、稼動を止める」ような機能を取り付けることはできないだろうか。
そして稼動を止めると同時に、天井に取り付けた「行灯」が点灯するようにすれば、人がそれに気づいてすぐに急行できる。
こうすれば人はたくさんの機械を扱うことができる。

佐吉翁は豊田式自動織機でこれを実現させた。
従来の織機は糸が切れたら、人がすぐに停止させなければ、織機が作動し続け不良品ができてしまった。
したがって、1織機に1人女工さんがついていた。
それを糸が切れれば、織機は自動的に停止するので不良品はできない。さらに、行灯が点灯するので、すぐに女工さんが駆けつける。
このように機械が自動的に不具合を判断して停止するようにすることを「自働化」と名づけた(働は人偏がある字)。
この「自働化」の考え方はそのまま自動車製造に引き継がれた。

 

②豊田喜一郎「ジャスト・イン・タイム」の着想

今日の自動車の組立に必要な部品だけライン側に置きなさい。
今日使わない部品はいらないんだから置いてはいけない。
このことを人海戦術でやっていても儲からない。
上流のつくりの方から必要なものだけ造って持って来るといったようなうまい流れができないものか。

 

③大野耐一「ジャスト・イン・タイム」の実現

従来は、前工程は生産計画に従って製品を造り、出来次第、後工程に届けていた。
この場合、もしも後工程にトラブルが発生していると製品が溜まってしまっていた。
それをまったく逆の発想で、後工程が前工程に必要なものを引き取りにいき(後工程引取り)、前工程は引き取られた物を、引き取られた順番で造るように変えた(後補充方式)。

2. トヨタ生産方式の進化順序

日々の生産必要数にバラツキがあると一番忙しい日を乗り切れるだけの人員を確保しなければならず、暇な日は遊んでしまうことになる。
日々の生産のバラツキをなくすにはどうしたらいいのだろうか?

トヨタ車の生産はトヨタ本体、1次下請けメーカー、2次下請けメーカー、3次下請けメーカー……といった巨大な生産ピラミッドから成り立っている。
トヨタ本体だけのバラツキがなくなっただけではだめで、生産ピラミッド全体が等しくバラツキがなくならなければならない。

そのための対策として画期的なことが考えられた。
それは、「最終工程である車両組立ラインでの仕掛け順序を車種ごとにバラバラにすれば、すべての部品の使用がバラバラになる」ということだ。
これはノーベル賞並みの発見だと思う。

 

すべての前工程が、この車両組立ラインの仕掛け順序と同じ順番で1個ずつ生産できれば、全工程内に中間在庫がゼロになり究極の姿だといえる。
しかしその大きな阻害要因が「段取り時間」だ。

トヨタはこの段取り時間の短縮を最優先対策事項と位置づけ、徹底的な縮小にチャレンジした。
すべての作業者に、「ラインストップ等で手待ちが発生したら、その時間はすべて段取り改善に振り向けよ」という命令まで出した。
その結果、段取り時間はいろいろな工程で驚異的に短縮されていった。
現在は車両の塗装まで1台ずつ色を変えて行なっているそうだ(私が退職した時はまだロットで色塗りをしていた)。

3. 体制整備を進行させつつ、各作業者へは「在庫を減らせ」と言い続ける

仏教には「南無妙法蓮華経」「南無阿弥陀仏」などという念仏がある。
トヨタ生産方式では「在庫を減らせ」が念仏になっていた。

念仏とはそれを唱えれば御利益があるため、民衆はひたすらそれを唱える。
実はこの「在庫を減らせ」という念仏にもものすごい御利益があるのだ。

今ここに必要以上の在庫がある。
実はこの在庫が以下のような驚くべきムダを誘発してくるのだ。

 

①工場だけに入りきらなくなり倉庫を建てる
②倉庫まで運ぶ運搬作業者を雇う
③彼らに1台ずつフォークリフトを買って渡す
④防錆や在庫管理の作業者を雇う
⑤しかしどうしても錆やキズが発生してしまうので手直し作業者を雇う
⑥在庫量が増え、在庫管理用のコンピュータを購入する
⑦在庫が多く、何がいくつあるのか把握が不十分となり、仕掛けの優先順序を間違え欠品が発生する
⑧欠品の原因が能力不足と誤解され、次年度の設備投資案の中に増強計画が入れられる
⑨この設備が導入されるともっと在庫が増えてくる

 

何度もうるさく「在庫を減らせ」という念仏が唱えられるので、作業者は仕方なしに在庫を減らす改善に取り組み、それが成功し実際に在庫が大きく減少したとしよう。
そうすると①〜⑨が一瞬にして消滅してしまうのだ。
この作業者はこの事実を神的な現象と捉えるかもしれない。
まさに念仏に御利益だ。

元トヨタマンの目
トヨタ生産コンサルティング株式会社


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。