トヨタ生産方式における在庫の考え方|元トヨタマンの目
トヨタ生産方式の大前提は「平準化」生産だ。
トヨタの工場を見学に行かれた方は、組立ラインの上をいろいろな種類の車がバラバラな順番に流れていることに気づかれたと思う。
最終工程である組立ラインをこのように流すことによって、何万点というすべての部品もこの組立ラインではバラバラのタイミングで必要になってくる。
例えば、コップの中にいろいろな色の砂を順番に入れると色の層ができる。
これを箸でグチャグチャに掻き混ぜれば、すべての砂の粒までが混ざり合って単一の色になる。
これと同じことを、この組立ラインではやっている、と考えていただきたい。
このようにすることを、トヨタでは「平準化して車をラインに流す」というような表現をする。
さらに1ヵ月間はすべての車種が日当り同じ台数造られる。生産変動は1ヶ月単位に行なわれるということだ。
したがって1ヶ月間のうちに急にトヨタから「すぐに増産して部品持って来て」という要請はない。
その代わり、翌月1ヵ月間の日当り台数がドカッと上がることはある。
このように、トヨタの工場も部品メーカーの工場も1ヵ月間は日当り台数が一定ということを保証されるので、要員も1ヶ月間は一定でいいことになる。
このように1ヵ月間はトヨタの生産ピラミッド全体に「プール」のような安定した状態を作り出した上で、トヨタ生産方式の諸施策が運営可能となる。
その代表例がかんばんだ。
かんばんはこのようなプールのような状態がほんの少し崩れただけで滞留が発生する。
その滞留こそが、人間に「問題点」を与えてくれるものなのだ。
トヨタ系の部品メーカーでトヨタ以外の自動車メーカーへ納入しているところも多くある。
そのような自動車メーカーはトヨタのような平準化発注なんかしてくれない。それではどのように対応するかというと、完成品の在庫を持つしかないのだ。
ばらついた引取りにはその在庫で対応し、工程内はトヨタから発注があったのと同じようなプールの状態をつくりだして、生産活動をするのだ。
トヨタが成長して他のメーカーが成長しない理由はここにある。その差は開く一方だ。
トヨタのような体制では、後工程の気まぐれな納入指示がないため、それに備える在庫などまったく持つ必要はない。
このような体制の中での在庫とは、「自工程のトラブル発生の保険」という意味なのだ。だから大野氏は現場で在庫を見つけると捨てさせるぐらいの強行手段をとったのだ。
いくら大野氏でも、後工程の気まぐれな納入指示をさせたままそのようなことは言えない。
物理的に不可能だ。
そんなことを言ったところで現場がついてくるわけがない。
トヨタのような体制の中で在庫をもたなければ、自工程のトラブル発生が即、長大なトヨタ生産ピラミッドの停止につながり、そこに従事している何万という人達が遊んでしまい、会社は払わなくてもいい賃金を払わなければならなくなってしまう。
その恐怖感に打ち勝つために、設備故障しないように切子を掃除したり、予防保全をしたり、作業ミスや品質不良を発生させないために必死になるのだ。そのような緊張感が安全の向上にもつながっている。
あるコンサルタントの著書を今読んでいるが、彼は一般の製造会社へ行って「一般の会社は在庫に頼るが、トヨタは在庫に頼っていない。だから即在庫を減らせ。脱・常識だ!」と言って現場管理者と衝突の毎日だそうだ。
そんなひどいことを現場にやらせないで欲しい。
「平準化仕掛け」いわゆる石垣の部分からきちっと積み上げてからでないと、欠品だれけで大変なことになる。
今、日本の最終製品メーカーで平準化まで留意しているところは、トヨタ系を除いて数社しかないと思う。
したがってそれらへ納入するほとんどの企業群で、トヨタのような真の在庫低減活動やかんばんによる発注はうまくいかないであろう。