トヨタ生産方式に「グローバルスタンダード」は違反する!|元トヨタマンの目
私が生産管理の仕事をしていたトヨタの機械加工工場は粗材の投入から加工完成まで、完全自動搬送ラインだった。
そこにはトヨタが培ってきたトヨタ生産方式の粋が結集されいた。
私は生産管理の専門知識をバックボーンにして技術的な部分への理解を深めていった。
現場で疑問に思ったことは、子分のように手なずけてある若い技術員になんでもかんでも質問した。
そして自分が習得した知識は、絵や言葉で全て紙に書き、自分の担当の仕事に日々走り回っていて、狭い範囲しか分かっていない部下のメンバーに教育した。
工場とは物を造り出すため、製造技能、製造技術、生産管理、品質管理、設計技術、要員管理、原価管理などのバックボーンを持った技能職、技術屋、事務屋等が入り混じって顔を突き合わせながら、日々仕事を進めている。
このような環境にあっても、ただ自分の仕事をこなすだけでは、まわりの人は何も教えてくれない。
それでは何年そこにいても自分の仕事だけ覚えておしまいということになってしまう。
しかし一転、自分が疑問に思ったことを誰彼となく質問する姿勢に転じれば、何でもかんでも進んで教えてくれる。
まわりにいる全ての人が世界最高の工場を運営している最高のノウハウを持った連中だからたまらない。給料をもらいながら、世界最高の教育機関で勉強できるのだからこんなすばらしいことはなかった。
しかしそれは担当者の時代に生産管理、原価管理を習得した上で、管理職として工場運営に参加できたからこそ可能であったと言える。
担当者では自分の仕事を覚え、こなすことで必死であり、自分の仕事への疑問や質問で頭の中は一杯だ。
ところでこの完全自動搬送ラインは、当然のように機械だらけである。
そして機械はよく故障する。しかしその故障に対して、機械保全マンが急行しすぐに復旧させてしまう。
まさに神業だ。
このような対応は日本国内だから可能なのだ。
海外工場となるとスタッフの陣容が貧弱にならざるを得ず、一度設備が故障するとなかなか復旧ができず、ひどい場合は日本からスタッフが駆けつけるといったこともあった。
そこで海外工場の機械設備は完全自動搬送ラインはやめ、搬送の多くについては人が行なうように簡素化された。
その頃から「グローバルスタンダード」なる言葉がトヨタ内でも聞かれるようになった。
それは国内の新規工場へ海外仕様の簡素化したラインを敷設するというものだ。完全自働搬送ラインの特に搬送系は、人の判断を全て機械に置き換える「人偏のついた自働化」の宝庫だった。
リードタイム8時間の長大なラインが、工夫いっぱいの各種の制御のおかげで製品がその上を滞りなく進んでいくのだ。
それがまた人に返されてしまった。
簡素化ラインは確かに設備投資額は格段に安いが、長い稼動期間全てに日本の高い労務費が発生してしまう。
本当に原価企画を通ったのだろうか。
またいろんな局面で「グローバルスタンダード」品を使えといわれ、技術員が思い描く所に製品が出てこないような場合もあり、技術員が困っていた。
トヨタ生産方式は全ての作業を「標準化」しなければならない。そしてその標準は常に改善により変更され続けなければならない。
長期間変更がされないと、サボっているということで上司からどやされる。生産技術スタッフは現場に言われた通りの機械ラインを作るのが使命だった。
考えるに、近年の急速なグローバル化で生産技術の仕事が追いつかず、「グローバルスタンダード」という耳障りのいい言葉でサボっているとしか思えない。
このグローバルスタンダードとは次のように訳すのであろう。
グローバル・・・・世界中が使うんだから変更なんかできないよ
スタンダード・・・決められた規格品
これではトヨタ生産方式は死んでしまう。ちょっとグローバル化を急ぎすぎてないか。