トヨタ式能率評価制度
「一ヶ月単位の生産の変動により、一ヶ月単位で人を増減させよ」
これがトヨタ生産方式の根本思想だ。
しかし、クラウンが減ったのに、プリウスが増えたなどということは日常茶飯事だ。
従って、1つの製造課の中でも、忙しいラインと暇なラインがあったりする。
これでは人をどのように増減させていいのか現場は分からない。
そこで考えられたのがトヨタ式能率評価制度だ。
例えば、ある工程のある月の生産実績が640,000個で、それを640時間(4人×8時間/日×20日)で作ったとする。
そうすると1個あたりの工数は3.6秒(640時間×60分×60秒÷640,000個=3.6秒/個)となる。
翌月700,000個作りなさいという生産計画がきたとする。
3.6秒×700,000個÷60分÷60秒÷20日÷8時間=4.38人
0.38人だけ先月より多く投入しなければ、労働強化になってしまう。
そして1人を先月より多く投入するのだが、その人には近くの工程の仕事を0.62人分だけやってもらうことにする。
こうすれば、この増産に対して生産高VS人の比率指標である生産能率を落とすことなく増員することができる。
驚くべきことに、トヨタはこの指標を、すべての工場のすべての工程のすべての部品に対して作っている。
そして何十年も営々とその指標を作り続けている。
トヨタのOBとしてちょっと言い過ぎかもしれないが、これは奇跡に近い偉業である。
トヨタに入って、平準化仕掛けに則った生産現場を見てすごいと思ったが、本当に驚嘆させられたのはこのトヨタ式能率指標だ。
これも大野耐一氏が創意されて作られた。
トヨタのトップはこの指標の変化を見ているだけで、生産活動での人(工数)の投入状況が把握できる。
この指標は最小ミクロの「部品」がその最小単位のため、
組の能率指標
係の能率指標
課の能率指標
部の能率指標
工場の能率指標
全社の能率指標
のそれぞれが毎月提示される。
組は組長
係は工長
課は課長
部は部長
工場は工場長
全社は社長
がそれぞれの指標を見て管理活動を行うことになる。
もしこの指標が落ちれば、「なぜ落ちたんだ?」と下位の者に質問するだけで、問題点の把握が可能だ。
「モデルチェンジの立ち上がりがうまくいきませんでした」
「部品メーカーでトラブルが発生し、納入が大幅に遅れました」
などなどすべてこの指標が物語ってくれる。
逆にいうと、現場はこれらを隠せないのだ。
私はこの指標がある管理が当たり前で生きてきたが、トヨタ以外この指標はない。
そのような会社の経営者は、現場の状況をどのようにして把握しているのだろうか。
結局、管理ができず、現場任せの野放しにならざるを得ないと思う。
私がトヨタへ入社したころは特に「トヨタの現場はキツイ」という評判だった。
これはこのトヨタ式能率指標の運用を、当時の生産責任者たちがやりすぎたためだったと思う。
それもアメリカ進出などのグローバル化の進展に伴い、もとのあるべき姿に是正されてきたと思う。
トヨタ式能率指標の根本思想は、増産には増員し、逆に減産になったら減員するというもので、当たり前の発想である。
このような指標のない会社が、増産になっても人を増やさず、本当の意味の労働強化になる。
そうなると人は減産になると忙しいフリをするようになる。
これが高じて労使がいがみ合うようになる。
また、一ヶ月単位ですべての工程から、要員の増減要望が出るのだから、人事機能も大変だ。
トヨタの人事機能には、普通の会社の人事機能にプラスして、この月単位の要員調整機能もある。
トヨタを辞めて、トヨタを客観的に見れば見るほど、その凄さが分かる。
トヨタで工場実務を経験しない限り、これらをすべて作り上げた大野耐一氏の真の凄さは理解できないのではないかと思う。