トヨタ式能率管理の概要|元トヨタマンの目
●基準<5名投入>……1人1日8時間勤務
……所要工数(個当り)……生産数(日当り)……総工数(日当り)
A部品……1分……700個……700分
B部品……2分……400個……800分
C部品……3分……300個……900分
計……2400分(40.0時間)
●増産時<7.7名投入>……1人1日8時間勤務
……所要工数(個当り)……生産数(日当り)……総工数(日当り)
A部品……1分……800個……800分
B部品……2分……700個……1,400分
C部品……3分……500個……1,500分
計……3,700分(61.6時間)
●減産時<2.7名投入>……1人1日8時間勤務
……所要工数(個当り)……生産数(日当り)……総工数(日当り)
A部品……1分……300個……300分
B部品……2分……200個……400分
C部品……3分……200個……600分
計……1,300分(21.6時間)
大野耐一氏は「生産の増減に対応して人を増減できる工程作りをせよ」という指示を出した。
しかしトヨタの各工程は多種多様の部品を作っており、個々の部品の増減数だけ眺めていても、増産になり工数を増やすべきなのか、それとも減産になり工数を減らすべきなのか、現場としてはさっぱり分からない。
そこで、すべての部品の所要工数を計測し、あらかじめ決めることにより、予想工数を算出することを実現した。
これにより、増産時は7.7人必要になるということが分かる。
しかし人を70%だけ切断して持ってくることはできないため、8名投入することになる。
しかしそうなると1人の工数が30%分遊んでしまう。
その対策として、近くの工程で30%分の工数が足りない所をみつけて、そこの作業をさせる。
これを「少人化」という。
「省人化」というのは、単に「工数を少なくする」という意味だが、ここで説明した「少人化」とは端数工数を集めてきて1人工にして、実際に「少ない人員で運営する」という意味だ。
また、減産時もまったく同じことで、2.7人なんて無理だから、3名投入するが、最後の1人の工数の30%は遊んでしまうので、近くの工程の作業をさせて、1人工を追求するのだ。
このために現場は、工程と工程を簡単に移動できるようにしたり、人が滞りなくなくライン間を動けるようにしたり、いろいろな工夫をしている。
さらに、工場間の作業者の異動も頻繁に行なえる人事体制も整えている。
大野耐一氏は、ただやれやれと言っただけではなく、命令したことを万人が無理なくスムーズにできるような体制を作り上げたのだ。
このトヨタの能率管理制度は、それを維持するために膨大な工数をかけている。
その投入工数は大きく回収されているし、その投入工数自体も、常に改善を進めることにより日々少なくなってきていた。
このように、すべての部品に対して、すべての工程での投入工数を原単位化させて管理している企業など有史以来、トヨタ以外にはない。
トヨタ生産方式とは、この原単位管理まで含めた総称である。
ここまでの体制で日々の生産活動、管理活動を継続させているのだから、他のメーカーとの差は時間とともに広がることはあっても、狭まることはないと確信している。
私は、トヨタに入社して工場に異動させられたが、トヨタの現場管理を知るに及んで激しい衝撃を受けた。
確かに原価マンや生産管理マンの仕事は正直言って非常にきつかったが、「トヨタの奥義をなんとか自分のものにしてやろう」という気合だけで、なんとかもったような気がする。
今、トヨタを辞めて、世間の会社をいろいろ見ているが、日本の一流企業でさえ、トヨタとの差異は歴然だ。
変なプライドは捨てて、死に物狂いでトヨタの実態を知る努力をしてもらいたいものだ。
しかし中国の企業で、日本の一流メーカーのOBの方々と一緒に仕事をしたが、皆さんトヨタに対して反感を持っていた。
この感情は、OBの方々だけではなく、現役の方々にも共通な感情だと感じた。
仕方ないので、宗教と同じで、信じていただける方だけに布教していくしかない。