トヨタ式以前の状態からいかにして進めるか|元トヨタマンの目

トヨタ式以前の状態からいかにして進めるか|元トヨタマンの目

それを最初に機械現場を例にとってご説明します。

機械現場の現状は、機械の機種別に配置されています。
これを次のような手順で改善を進めます。

1.ABC分析を行なって生産数量の多い部品を把握します。

2.その生産数量の多い部品に重点指向し、それらの部品がどの機械を、どの順番で加工していくかを一覧表にまとめます。

3.それらの部品のすべてについて運搬の難しさを指標化します。たとえば、重量が重かったり、形が大きかったりしたら、たとえ運搬数量は少なくても、運搬の難易度は高くなります。このようにして、どの機械とどの機械が運搬が難しいのか、簡単なのかを明らかにします。

4.運搬の難しい機械と機械の設置距離を近接させます。このようにすれば自ずから機械工場全体のレイアウトが決まってきます。

5.それが出来た上で、近接された機械の間を部品を1個ずつ流すようにします。現状はすべての機械がロット生産をしていますが、新しいこのやり方は、今まで通りロット自体は変わりませんが、近接された機械間のみ1個加工したらすぐ次の機械に手渡しして加工してもらうというもので、加工し終わったら加工完了品を手元に置いておかずに、次の機械へ送ってやるというだけです。これだけで加工リードタイムは最短となり、品質もポカヨケや順次検査を導入し、1個ずつ検査できるばかりでなく、不良が発生した場合、すぐに発生者の加工を中止させることができます。

6.段取り改善を徹底的に進めます。日本ではシングル段取りどころかゼロ段取りも普通の状態になっています。これは現状の機械を停止させて行なう段取り替え(内段取り)100%を、段取り替えの専門チームを編成させて、段取り替え作業の中で機械を停止させる前に準備できることはしてしまうようにします(外段取り)。次に内段取り作業の中で外段取り作業に転化できるものを探して徹底的に転化させます。

 

次に溶接ラインを例にとってご説明します。

溶接ラインの現状は、各工程の標準作業時間が極端に長く、かつ、その時間の長さもバラバラです。
このような状態だと工程への仕掛け待ちで、多くの製品が工程内で長い時間停滞してしまっていて、これが生産リードタイムを長時間にしている元凶です。

この溶接ラインでは次のような手順で改善を進めます。

<工程待ちゼロへの手順>

①工程の分業
工程を細分化したり、併合したりして「工程の分業」を進めます。
(最終的にラインバランスをとるための下準備と言えます)

②質の分業
作業難易度のABC分析を行ない、これに対して作業者の技量のABC分析を行なって、両者のバランスをとります。

③各工程の同期化
各工程の所要時間をバランスさせます。

以上の具体的作業に関する基本コンセプトは「工程に流れをつくり、生産リードタイムを最短化する」ということです。そのために次の諸条件が必要となります。

<流れ作業化の条件>

①加工を分業によって効率的に行なう

②不良率=0になるように、自主検査、順次検査、ポカヨケを行なう

③運搬=0になるように、レイアウトを改善する

④工程待ち=0になるように、同期化をタイミングの適正化を行なう

⑤ロット待ち=0になるように、運搬ロット=1にする

またこれらを実施できる前提条件は、前述した通り、段取り時間の圧倒的短縮ですから、これらに平衡して強力に実施しなければならないことは言うまでもありません。

 

以上の諸事項はトヨタ生産方式導入の前段階でしかありません。
トヨタ生産方式はこれらの地盤固めがあって初めて、その導入作業に着手することが可能となります。
その導入手順を次に示します。

<トヨタ生産方式導入手順>

1.平準化生産→1ヶ月単位で日当り生産量を変動させる(逆に言うと一ヶ月間は日当り生産量は変わらない)

2.要員の1ヶ月単位の応援受援の実施

3.ニンベンのついた自働化→あんどんの設置

4.労務費の変動予算管理(工程ごとの毎月の必要人員を会社が提示)……これはトヨタが世界で唯一実施している

5.その他の全費目の変動予算管理実施

6.トヨタマン全員に問題解決教育実施

このようにトヨタ生産方式の導入は並大抵の努力では導入できません。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。