トヨタの製造予算管理体制と創意くふう提案制度の関係|元トヨタマンの目
自動車の燃費を計測する手順を述べる。
①ガソリンタンクを満タンにして、距離メーターをゼロにする
②ガソリンタンクが空近くになるまで走行する
③ガソリンタンクを満タンにして、その給油量(L)を把握する
④距離メーターで走行距離(km)を把握する
⑤給油量(L)÷走行距離(km)=1kmあたり何リットルのガソリンを消費したか
このような段取りをして、いざ走行するとなると、やはり良い結果を得たいがために、誰もが慎重にやさしく運転をするように心がけるようになるであろう。
トヨタ工場の製造原価管理は、まさにこのような段取りを、工場で使用される潤滑油、補助材料、重油、電力料などすべての品目に施す。
一人一人の「もったいない」の気持が減少させる、ほんの少しのムダのくい止めも何千人、何万人分を合計すれば大変な効果になる。
ここで重要なことは、「自分の過去半年間の実績」と比較させるということだ。
過去半年間ぐらいの自分の行動なら現場作業者も覚えていることができる。
それに対して当月の結果が、何がどのように良くて、何がどのように悪かったのか反省させ、良かったことは横展し、悪かったことは再発防止を考えさせる。
このことを実施するために、トヨタは大変な工数を投入している。すべての製造部に専門の原価マンを配置しているのだ。私もこの業務を長年経験したが、非常に大変な作業であったが、その効果は絶大だった。
毎月、原価会議前に現場の工長(係長)に結果を持っていく。そうするとある工長が次のように言った。
「青木、お前は毎月毎月、こんなもんを持って来て、俺らを蹴ったくってきやがる。そしてもう死んだかなって、顔を覗いてきて、まだ息をしていると、今度は首を絞めてくる」
そして、その資料を受け取った工長は、すべての作業者から提出された多くの「創意くふう提案書」などを参考に、どのようなことで黒字になったのか、また赤字になったのかその原因を徹底的に追求する。
各作業者の実施する改善活動はすべて創意くふうで報告されるが、その際予想効果が記載される。
その予想効果で賞金が支払われるが、その効果はあくまで予想であり、その裏付けはこの製造予算体制の効果金額で確認されなければならない。
たとえば、労務費低減を狙った改善で実際に労務費に改善効果が確認できても、その行為によりエネルギー費に同額の赤字が出てしまうこともあるのだ。
まさに改善活動とは試行錯誤の連続だ。だからやり出すと面白くてたまらなくなる(原価マンとしては)。
トヨタは現場作業者にしつこいほど創意くふうの提出をお願いするが、苦労して提出された提案書を、上記のように上司が徹底的に活用する。
だから作業者も提出する気になるのだ。
創意くふう1つとっても、トヨタ生産方式は非常に深い意味があることがお分かり頂けると思う。
創意くふうを出させて、賞金をあげてそれで終わりというのなら、お金がもったいないし、作業者も出す気がしないであろう。