トヨタの目標|元トヨタマンの目

トヨタの目標|元トヨタマンの目

<トヨタの目標>

不良=0

運搬=0

段取替え=0

1.運搬=0

機械を機種別配置にしているとロット生産しかできない。

これだと、ロット単位で機械間を移動させる運搬が発生する。

それなら機械を工程順にくっつけて並べて、そこを1個づつ加工して、手渡しで次の機械へ送れば、運搬=0が達成できる。

極論すれば、広大な工場を作って、その中で素材から完成品までの機械をすべて並べることができれば、本当に運搬=0が達成できる。

しかし現実にはそれは不可能で、物理的に、そのような理想のラインを分断させて、いろいろな工場や部品メーカーへ生産をお願いしている。

だからその分断された部分は、あたかもラインのように製品を移動させるのが理想と言える。

ならば1個ずつ運ぶのがベストだ。

しかしそのようなことをしてしまうと、運搬コストが膨大になってしまうので、ある程度まとめて運搬することになる。

したがって、運搬は「必要悪」だといえる。

もっとはっきり言えば、運搬は「ムダ」なのだ。

2.不良=0

不良を減らす品質管理ではだめで、不良=0にする品質管理でないとだめだ。

なぜなら、お客様は1台しか車を買わないからだ。

さらに、その1台はそのお客様の命を乗せるからだ。

従来は、抜取検査だった。

推測統計学という極めて高度の学問的な理論に裏付けられていたのだが、これだと不良の減少はできても、不良=0は無理だった。

それなら全数検査なのだが、工数がかかり過ぎてできない。

そこでポカヨケが工夫された。

たとえば、「不良品が流れてきたら、治具にセットできない」とか「誤寸法の不良品を作って、それがシュートを通って、次の工程へ流れていく時、つっかえ棒が邪魔して流れない」といったようなものだ。

こうして、工数をかけずに全数監査が可能になった。

3.段取替え=0

従来は、機械をすべて止めて段取替えを行なっていた。

それを「事前に準備できること(外段取り)」と「機械を止めなければできないこと(内段取り)」に分けて実施するようにした。

次に、内段取りから外段取りへ移行できるものはすべて移行させるようにした。

これにより、従来2~3時間も機械を止めて行なっていた段取替えが、機械を止める時間を10分未満にすることが可能になった(シングル段取り)。

現在では1分未満のワンタッチ段取りも可能になっている。

しかしプレスや鍛造や鋳造では、そのようなことはまだまだ不可能だが、段取替え=0の目標は脈々と生き続けているので、どんどん段取時間が短くなっているのは事実だ。

 

このような明確な目標があって、初めて組織全体がその方向に向かって動き出す。

トヨタ60年の歴史の中で、私は30年目に入社し、30年間仕事をした。

その間、上記の目標に向かって組織全体が動いていたのを実感できた。

上記の目標はまだまだ達成できていないが、後輩諸君が必ずさらに近づけてくれると確信している。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。