トヨタの生産台数確定手法|元トヨタマンの目
トヨタ車の生産は、トヨタ工場、1次下請け、2次下請け、3次下請け……町工場まで、裾野が非常に広くなっており、まさにピラミッド構造になっているといえる。
この生産ピラミッド全体が、てっぺんに位置するトヨタ工場とまったく同じ生産行動をとることで、トヨタ車としての品質や原価を達成させることができる。
トヨタ工場だけがひとりよがりの儲かるような行動をとって、1次下請け以下を翻弄させても、コストアップを招くだけで何にもならない。
トヨタはこの生産ピラミッドが同一行動ができるために次のような方法を考えた。
①1ヶ月単位で生産を変動させる。
1ヶ月間は毎日同じ種類と量を作り続ける。月が変われば、種類と量は変更される(同じ場合もある)。
②1日の生産順序はすべての種類をバラバラの順番にする。
たとえば1日8時間稼働として、1日に8個生産するものは、1時間に1個生産するようにする。
1日に16個ならば、30分に1個流れてくることになる。
③部品の発注にはかんばんを使用することにした。
かんばん枚数は生産量が変われば、変更しなければならないため、毎月かんばん枚数の変更を実施しなければならない。
かんばんは上記の①②の体制の上でないと回転しない。
1ヶ月も生産を固定させるためにもっともいいのは、お客様からの発注オーダーを生産月の前月末に締め切ってしまうことだ。
しかしこれでは発注オーダーをしてから納車までのリードタイムが長くなってしまう。
販売店もお客様を引き止めるために、完成車在庫を持って商売しなければならなくなってしまう。
販売サイドからみれば、やはり発注オーダーの締め切りは生産日からなるべく近い方がいいのだ。
ところでトヨタ工場の生産リードタイムは「ボデー→塗装→組立」の工程で3日だ。
したがって、完成日の3日前が、お客様からの発注オーダー締め切りのギリギリの線である。
トヨタは実際にその日を発注オーダーの締切日としている。
そうなると
生産サイド……1ヶ月間は生産の種類、量とも固定
販売サイド……発注オーダーの締め切りは完成日の3日前
この両方を満足させなければならなくなる。
そこでトヨタが考えたのは、選挙の場合によく報道される「当選確実」を毎月発表することだ。
具体的には、トヨタ販売部が、生産月の前月末に、生産月の予想台数を発表するのだ。
「過去の販売実績」「全国販売店からの受注予想」「経済動向」など総合的に判断して、できる限り精度の高いものをつくる努力をする。
生産サイドはその予想台数に従って、生産量が減って要員が余ってしまう部署から、生産量が増えて前月より多くの人が必要な部署に応援に出すようにする。
また素材など生産に必要なものの手配も行なう。
こうして生産ピラミッドの体制を調え、その月の生産活動に入る。
お客様からの発注オーダーは日々入ってくるが、それを予想台数に順次当て嵌めていく。
予想に反して、作りきれないオーダーが入った場合は、来月回しにするしかない。
なぜなら、生産ピラミッド全体が要員など配置してしまった後なので、そこへ「もっと作れ!」といっても、それこそ「労働強化」になるだけだ。
またそこまで予想が外れてしまえば、「販売部は向う1ヶ月間の予想もまっとうにできないのか!」ということになる。
世の多くの企業はお客様からのオーダーを生のまま工場へぶつけてきて、「さあ、すぐ作れ!」とすごんでくる場合が多いようだ。
そんなことをされれたら、生産の効率はまったく上げられない。
やはりトヨタのように、「生産サイドの効率運営」「販売サイドのニーズ」の両方をぶつけて全体効率を維持させる方策を必死で考えることが重要だ。
ところで世間へ出ると、生オーダー工場ぶっつけ企業が、「トヨタ生産方式」を導入したいというから、こちらも困ってしまう。