トヨタの段取り改善
トヨタでは、昭和43年(1968年)当時、1,000tプレスの段取替えに4時間を要していた。
ところが、西ドイツのVW社では2時間ですめせている、というので、これを追い越そうということになり、新郷重夫氏にご協力をいただいて改善に取り組んだ。
その結果、半年間を要して、1時間30分に改善したのである。
ところが役員の大野耐一氏から「あの1000tプレスの段取替えを3分にせよ!」という指令が下された。
新郷重夫氏はこれを聞いた瞬間、「それは不可能だ」と感じたそうだ。
しかし、その時、ハッとインスピレーションがひらめいた。
「そうだ!今どうしても内段取りでやらなければならないと思い込んでいたことを、外段取りへ追い出せばいいんだ!」
そして3ヶ月後に、「3分間」に改善してしまったのである。
このことに関して、新郷重夫氏は次のように語られている。
「この時、大野耐一氏の無茶ともいえる『3分にせよ!』という厳命の言葉がなかったら、この世の中に、決して『シングル段取り』は生まれなかったであろう」
大野耐一氏は、当時、ジャスト・イン・タイム生産を実現させるために努力を続けていたのだが、「段取り替え時間の圧倒的短縮なくして、その実現はない」という考えにいきついていた。
段取り替えの問題で、行き詰っていたのである。
それに関して、大野耐一氏の言葉がある。
「わが社においても、十数年前まで、時間中になるべく物を作り、カッターやドリルの交換は、昼休みや夕方定時を終えてからやっていた。
ここ十数年の増産期でも、『50個やったらカッターを取り替える』などと言いながらも、交換の時間を惜しんで、結局ある時間まで持たせてしまうということが多かった。
トランスファーマシンなどは、カッターやドリルの数が多く、これを全部替えるには相当の時間を要する。
特にマルチグラインダーとなると、半日ぐらいかかる。
これを水曜日に替えると、その日の午後の生産が止まるので、日曜日に臨時出勤をしてやるというようなことをやっていた。
半日かけて段取り替えをやり、10分間物を作るという具合だった。
段取替えに半日かけたのだから、せめて半日物を作りたい、などといえば、売れないものをたくさん作ってしまうことになる。
それで、こんな不経済なことはいかん。
また保全は時間中にやるものだ、というので、みんなが段取替えを非常に短い時間でやることを勉強したのである。
そこで、元日本能率協会におられた新郷重夫さんが段取替えの短縮に取り組まれているということで、コンサルタントをお願いし、一緒に取り組むことにした。
今、私どもでは、秒単位の段取替えを研究してもらっているが、言うは易く、実際には非常に困難なことである。
しかし何としても段取り替えの時間を短縮しなければならない」
*日本能率協会刊「マネジメント」(昭和51年6月号)より抜粋
この強烈な体験は、トヨタにDNAとして深く刻み込まれた。
私は昭和53年(1978年)にトヨタに入社したが、いろいろな社内教育を受けた。
その中のトヨタ式問題解決手法の目標設定の考え方に、そのことが表現されていた(今となって、復習してみて気付いたことだが・・・復習するだけエライでしょ!)。
明らかになった問題に対して、ズバリ目標を決めてチェレンジしなければなりません。
目標設定については、次のことに注意します。
●目標は必要性からズバリと決める
できるかできないかの可能性を先に考えるのではなく、必要性からズバリ目標を決めて、そのあとで可能性を考えることです。
また、他社・他部署と同類の目標(不良率・災害率など)は、Aクラスを狙います。
達成してもBクラスという目標はダメです。
大事なことは、高い目標を掲げて、その目標達成のために何をしなければならないかを真剣に考え、知恵を振り絞ることです。