トヨタの標準作業|元トヨタマンの目
トヨタの標準作業とは単なる作業手順書ではない。
作業者にサイクリックな作業をさせて、その1サイクルについて秒単位に作業内容を記入するものだ。この1サイクルごとに車が完成し、世の中に出発していく。
ここで重要なのが作業者にサイクリックな作業をさせることができる生産ラインづくりができているということだ。
当然、ロット生産のようなことをやっていれば、作業者は
製品を造る、
素材を探して持ってくる、
溜まった完了品を脇へどかす、
段取り替えをする、
など種々雑多な作業をその都度判断して行なわなければならず、標準作業どころではない。
作業者にサイクリックな作業をさせられるラインとは、当然製品は1個ずつ流れなければならならず、トヨタ生産方式の観点から見ても完成されたラインでなければならない。
この標準作業票通りに作業者に作業をさせるということは、言い換えると作業者のすべての動きを管理・監督者の管理下におけるということだ。
これにより管理・監督者の安全に関してのすべてのノウハウを標準作業票に盛り込むことができ、作業者の安全を確保できるとともに、管理・監督者の明確な責任が生ずる。
そしてこれにより管理・監督者の上位者(部長・役員)も、管理・監督者を指導する必要性が明確になる。
品質に関しても同じで、品質不良が発生しないような作業手順・品質チェックを実施させることができる。
ロット生産のような状態では、作業者が事故を起こした場合、管理・監督者は責任をどう取るのだろうか。
きっと推測するに、大まかな指示を与えておいて、「なんでお前は指示通りやらなかったんだ」と言って、責任回避するのであろう。
これでは信頼関係など生まれず、労使関係はうまく行くはずはないのではないか。
私は工場の部課長自主研で、ストップウォッチを持って作業者の作業をすべて計測し工程全体の標準作業票をよく作った。現場の係長や課長と一緒にやるのだが、非常に大変な作業だった。
ところで郵政民営化に先立ち、トヨタが郵便局の改善に乗り出した。
その際、まず作業者の作業実態を調べようと、私たちがいつもやっていたように、トヨタの担当者がストップウォッチで計りだしたそうだ。
そうすると視察に訪れた某党の国会議員が、「人の作業を後ろから、ストップウォッチで計るなんて、非人間的で失礼だ」と批判し、中止させられたそうだ。
私はこのことを報道で知って、暗澹たる気持ちになった。
これでは改善は一歩も進まない。
工場ではへたをすれば人が死ぬ。それを防止するためにも、ラインを清流化させ、サイクリックな作業を実現させ、標準作業を作って、作業者のすべての動きを管理・監督者の管理下において、作業者の安全を確保する。
この手順はトヨタでは当たり前だ。
トヨタが世界一になることで、今後は世界の常識になっていくはずだ。
書店にある多くのトヨタ批判本は、結局この某党国会議員と同じ知識レベルの人々が書いてる。
トヨタはトップ企業ゆえか、常に一言も言わず泰然と構えている。結局それでいいのだが、内情を知る者としては実に歯がゆい。
まあトヨタも退職し、自由の身となったのだから、大いにこのブログなりで真実を伝えて行きたい。