トヨタのプリウスのリコール問題|元トヨタマンの目

トヨタのプリウスのリコール問題|元トヨタマンの目

数年間準備して、新型車が立ち上がる。

その新型車のモデル期間が5年あるとすると、その5年間の間、いろいろ部品の原価低減活動や品質向上活動が行なわれる。

多くの提案がいろいろな部署からあり、それらの提案が通ると設計変更されて、部品の形状などが変わる。

 

工場の生産管理の仕事の中で、その設計変更に伴なって部品を入れ替える仕事が非常に大変だ。

車の部品は何万点、何十万点とある。

「毎日どれかの部品は設計変更が行なわれている」といっても過言ではないほどだ。

そのように盛んに設計変更がなされて、車の原価が低減され、品質もより向上していく。

 

私も生産管理を行なったが、その仕事はつぎのような手順で行なわれる。

設計部から「設計変更依頼書」が送られてくる。

その指示内容を確認して、該当の部品メーカーと切替期日を確認する。

コンピューターの内容を変更し、新設部品の必要数がアウトプットできるようにする。

その切り替え内容を現場や品質管理に連絡する。

そしてその切替期日に、うまく廃止部品と新設部品のかんばんの差し替えを行なう。

これが1点や2点なら簡単だが、非常に多くの「設計変更依頼書」が回ってくるのだ。

本当に大変な仕事だった。

 

それらの部品の変更は、現状より、よりよくしようというもので、現状が悪いというわけではない。

したがって、新たに作り出される車に適用され、販売済みの車には適用されない。

ゆえに、モデル末期の車を買えば、すべての原価低減活動や品質向上活動の成果が盛り込まれていることになる。

 

今回のプリウスのブレーキの件も、品質の向上ということで新生産車に適応したのであろう。

しかし、現状でも安全上問題はないと判断して、当初リコールまでは考えなかったのだと思う。

 

そもそもABSは、無理やりブレーキの利きを緩めて、急ブレーキによる事故を食い止めようというものだ。

その緩め方が強ければ、ブレーキの利きは悪くなる。

逆に、その緩め方が甘ければ、ブレーキの利きは良いが、ABS機能が効かなくなる。

トヨタの言っていた「感覚の問題」というのも全否定はできないような気がする。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。