トヨタと駅伝|元トヨタマンの目
私は昭和53年4月にトヨタ自動車工業に入社し、工場実習・販売実習・座学などの研修を7ヶ月間やったあと、11月に人事部に配属された。
配属の日の終業後、人事部へ配属された同期10名が会議室に召集された。
何事かと思って行ってみると、若いエリートトヨタマンといった感じの人がいて、次のように言った。
「来年の全社駅伝大会に出場してもらうから、全員明日から毎日マラソンのトレーニングをしてもらいます。あと3ヶ月しかないから、気合を入れてやるように」
トヨタは、自社のスポーツ施設であるトヨタスポーツセンターで毎年冬に「全社駅伝大会」を開催している。
これがものすごいイベントで、東富士、九州、東京など全国のトヨタの拠点が一堂に会して開催される。
独身寮へ帰って、他の部の連中に聞いても同じ宣告を受けたという。
現場の方では本当に速い人しか選手になれないが、事務職場では参加することに意義があるといった感じで、ビリにならないように頑張るといったレベルで参加する。
トヨタ本社に用件があって初めて訪問される方は、昼休みにトヨタ本社周辺がマラソンランナーだらけになることを非常に驚かれる。
多くのトヨタマンは昼休みになったらすぐに速攻でトレーニングウェアに着替え、本社周辺を30分程度マラソンして、そのあと食事をして、また速攻で着替えて午後の仕事に就く。
まさにトヨタマンは何をやらしても、本当に機敏に素早く行なう。
新入社員の我々も、先輩等のこの機敏な行動を見てそれをまねる。そして新たなトヨタマンが増殖されていく。
トヨタ自工とトヨタ自販が合併した時、私は経理部にいて自販の名古屋ビルに異動になった。
その際、他の部署からも名古屋に異動になった人が多くいた。その中にやはりこの昼休みマラソン習慣がどうしてもやめられない人がいて、名古屋の栄のど真ん中を走っていた旧自工マンが多くいた。
旧自販マンは「あいつらおかしいんじゃねえか」と言っていたが、やはり一般社会からみれば、おかしいやつらなのかも知れない。
さて、この全社駅伝大会の話だが、トヨタ社内では本当に盛り上がる。
各製造部や各工場単位で予選としての駅伝大会が開催され、そこで勝ち残ってきたチームが全社大会に出場できる。本社部門のいいころ加減のヘナチョコ選手とはわけが違う。
全社大会に出場できる選手は本当に職場代表で非常に栄誉なのだ。
毎年、どこの工場のどのチームが優勝するか、はたまた前年優勝チームの連覇なるか? といった話題でもちきりになる。
もしトヨタマンと商談になって、話題に困ったら、「トヨタさんは駅伝大会で盛り上がるそうですね」と話をしてみて欲しい。きっと乗ってくると思う。
そうそう、私の初出場の話だ。
私もその気になって結構一生懸命練習し、栄えある人事部の代表に選ばれた。
そして本番当日、私はどきどきして前の走者が来るのを待っていたが、なかなか来ない。おかしいなと思い始めた時に、前の走者が足が攣ってしまって棄権してしまったという連絡が入った。
このスポーツセンターは山を切り崩して作ってあるためアップダウンの激しいコースになっている。やはり付け焼刃の練習では厳しいのだ。
その後、私もトヨタ式の昼休みマラソンが病みつきになってしまい、身も心もトヨタマンになっていった。その後、2回ほど大会には参加させてもらった。
トヨタの新入社員時代は、仕事を覚えるのは当然だが、それ以外に「新入社員の問題解決テーマ」の実行と役員発表さらに駅伝出場と本当に大変だった。
もしタイムマシンが発明されても、もう2度とあの時代にだけは戻りたくない。