トヨタで教えられた先達の教訓1.2.3.4|元トヨタマンの目
1.自らの手で製作せよ(豊田佐吉翁)
創造的なものは、まず、自ら製作に従事し、深甚の注意を払い、幾多の実験を重ねたのちにあらざれば、到底完成に値せず。
この製作を他へ託するがごときものは、決して世に問うべからず。
必ず失敗のもとをなし、悔いを残す。
おおいに戒むべきことなりと信ずるものなり。
(解説)
明治38年、佐吉翁が直接製作を手掛けず、試験も他人任せにした自動織機が、欧米の新鋭織機との性能比較試験で成績が振るわなかった。
2.失敗にくじけるな(豊田佐吉翁)
正直いうてワシは目が覚めた思いだった。
広大な国土いっぱいに展開する工場設備、それを動かすアメリカ人の貪欲さを知ったとき、「ああ、ワシはなんという愚か者」とつくずく自責の念にかられたものだ。
たかだか、一度や二度の失敗ぐらいで、何もかも投げ出そうとした自分が恥ずかしい。
このままだったら、日本は欧米の属国になってしまう。
(解説)
明治43年、豊田式織機をやめた佐吉翁はかってない悲嘆の底にあった。その年の5月から半年間、全米各地の工場を見てまわった。
3.誠とは言うことを成す(豊田佐吉翁)
ワシの今日あるのも天の心というものだ。
それなら、こちらも社会に奉仕せにゃいかん道理だ。
誠を尽くすということだ。その字を見ろ。言うことを成せという意味なんだ。
4.誠で心は安らか(豊田佐吉翁)
世間には、あるいは才をもって、あるいは弁舌をもって、世を渡っていく人がいる。
才や弁舌では、上には上があるものだ。常に油断ができず、骨の折れることだと思う。
その点、「誠」には上がない。心はいつも安らかだ。
5.実物をもって答える(豊田佐吉翁)
黙シテ答ヘザリシ部下ハ、今ヤ口ニテ答エズ、実物ヲモッテ答ヘタルナリ。
予ハタダ感謝スルノミ。
(解説)
大正13年11月25日に出願した杼換(ひかえ)式自動織機は、佐吉翁の部下たちが献身的な苦労の末、完成させたものであった。それは今までの佐吉翁自身のものをはるかに上回る性能であった。これは佐吉翁がその時のことを記したものである。
現在のトヨタマンにも「言によらず、行動で示せ」という強烈な思想が色濃く伝播していると思う。
あのかんばん方式にしても当初世間には「トヨタは好きな時に勝手にかんばんを振り出して部品をすぐ持ってこい、と下請けイジメをやっている」と誤解されていた。(その実像は「すべての部品を日当りても時間当りでも均等に使用するような平準化された生産計画を提示した上で、実行段階でかんばんを振り出す」という極めて合理的なもの)
大野氏が国会にまで呼ばれて説明させられた。しかし世間の誤解もすぐには消えなかった。
当時、トヨタ社内では「我々は信念に基づいて正しいことをやっているのだから、もう、分からんやつはほっとけ」といった感じだった。
このことも何十年かたってやっと世間の人々に理解されたと思う。
まさに「男は黙ってサッポロビール」ではなくて「男は黙ってトヨタ自動車」といった感じだ。
しかしながら、トヨタ生産方式自体が高度化してしまって、他のメーカーがほとんど導入できない状態になってしまっている。トヨタも才や弁舌にもう少し注力し、この普及に努力しなければいけない状況になっていると思う。
私もトヨタOBとして微力ながら協力していきたい。