デジタルものづくりと“三層分析”(1)

デジタルものづくりと“三層分析”(1)

IoT、AI、ディープラーニング、ビッグデータなど、ICTやデジタル化に関する言葉が巷間をにぎわす中、一部では、幾何級数的に進化するデジタルの世界で日本はすっかり後れをとっているとも言われます。

グーグル、アマゾン、アップルといったICT界を席巻する一部の企業はほとんど米国勢であり、ここでは日本企業の出る幕はなさそうに見えます。

しかし、社会・経済・産業のデジタル化は、そうした一部の米国企業が圧倒する、電子と論理で動く重さのないICTの世界ばかりがすべてではありません。

 

私たちは、結局は物理法則が働く重さのある世界、生身の人間が人生を送る世界に住んでいるのであり、そうした「重さのある世界」が持つ課題と、「重さのない世界」で大発展するICT層の潜在力をどうやって健全に結びつけていくかが21世紀的な課題だと考えます。

 
アメリカはインターネット、スマートフォン、情報サービスといった「重さのない世界」を席巻しているため、使う言葉がどうしてもインターネット寄りに偏っています。

そうした言葉を鵜呑みにすると、ここ数年と同様に過剰反応を繰り返して時間を浪費することになりかねません。

 

たとえば「IoT」ですが、確かにセンサー等を介して生活空間や工場や乗り物から大量のデータを採取し、高速処理してそれら現場現物の操作に役立てるというのは、現代の産業現場の多くで再重要課題となってきていますが、それらはすべてがインターネットに直接つながるというわけではありません。

「IoT(Internet of Things)」という言い方も、やはり米国的バイアスがかかった不正確な言葉に思えます。

私はその本質はIfT(Information from Things)、つまり「現物から良い情報を取れ」だと考えています。トヨタやコマツなど日本の先進企業が進めているのもこのIfTではないでしょうか。

 

また、やみくもにデータを取っても仕方がないのは言うまでもなく、ビッグデータも「大量の良いデータ」つまりBig and Good Dataでなければ意味がありません。またそのデータの利用も、多くは人の改善組織による活用、AIがそれを補助する自働化、自動化するがその進化に人が関わるなど、目的に合わせていろいろであり、全てが無人化・完全自動化ではないでしょう。

要は、重さのある世界とない世界、情報空間(サイバー)と現物空間(フィジカル)、ICT層とFA層、これらをバランスよくつなぎ、全体最適と全体進化を図るのが、企業に求められるデジタルものづくりのあるべき形であり、どちらか一方に偏った思考は判断を誤らせると思います。

以上を踏まえ、私は、ものづくりやサービスの世界の「デジタル化」を考える時、以下のような三層のアナロジーで考えるようにしています。

 

すなわち、

① 「上空」のICT(情報通信技術)層
② 「地上」のFA層(現場)
③ 以上の①と②をつなぐ「低空」のICT-FAインターフェイス層

次回は、これら三層の各々の層をみていきましょう。

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出典:『<藤本教授のコラム>“ものづくり考”』一般社団法人ものづくり改善ネットワーク

一般社団法人ものづくり改善ネットワーク


一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長◎略歴 1979 東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社  1984 ハーバード大学ビジネススクール博士課程入学 1989 博士号取得 1989 ハーバード大学研究員 1990 東京大学経済学部助教授 1996 リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員 1996 ハーバード大学ビジネススクール客員教授  1997 同大学上級研究員  1998 東京大学大学院経済学研究科教授 2002 日本学士院賞/恩賜賞受賞 2004 ものづくり経営研究センターセンター長 2013 一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事◎主要著書 『製品開+B1発力』キム・クラークと共著,ダイヤモンド社,1993/『生産システムの進化論』有斐閣,1997/『サプライヤーシステム』西口敏宏、伊藤秀史と共編著,有斐閣,1997/『成功する製品開発』安本雅典と共編著,有斐閣,2000/『トヨタシステムの原点』下川浩一と共著,文眞堂,2001/『ビジネス・アーキテクチャ』武石彰・青島矢一と共編著,有斐閣,2001/『生産マネジメント入門(I)(II)』日本経済新聞社,2001/『能力構築競争』中央公論新社,2003/『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004/『中国製造業のアーキテクチャ分析』新宅純二郎と共編著,東洋経済新報社,2005/『ものづくり経営学-製造業を超える生産思想-』東京大学ものづくり経営研究センターと共編著,光文社新書, 2007/『日本型プロセス産業』桑嶋健一と共著,有斐閣,2009/『ものづくりからの復活~円高・震災に現場は負けない』日本経済新聞出版社,2012/『「人工物」複雑化の時代』編著,有斐閣,2013/『ものづくり成長戦略――産・金・官・学の地域連携が日本を変える』柴田孝と共編著,光文社新書2013/『ホンダ生産システム』下川浩一らと共著,文眞堂,2013/『現場主義の競争戦略-次代への日本産業論-』新潮社新書2013/『ITを活かすものづくり』朴英元と共編著,日本経済出版社2015/『日本のものづくりの底力』新宅純二郎、青島矢一と共編著,東洋経済新報社2015/『建築ものづくり論』野城智也、安藤正雄、吉田敏と共編著,有斐閣2015/『ものづくりの反撃』中沢孝夫、新宅純二郎と共著,ちくま新書2016/『ものづくり改善入門』監修(一社)ものづくり改善ネットワーク編,中央経済社2017◎ものづくり改善ネットワーク