チ-ム・デザイン方式をやれば、必ず良い案がつくれるか?
一般に、チ-ムで物事を検討すると、多くの意見が出て、知恵も集まるため、良い案が出るだろうとされ、多くの企業で利用されてきました。
ですが、時に集団で物事を検討する場合に注意しなければいけないことがあります。単にチ-ムをつくって討論をしても、必ずしも良い結論が得られるとは限らないのです。
このような相談を、S社がBさんにしました。その時の対話を紹介することにします。
S社に対するBさんの対応例
S社の問題は次のようなものでした。
「当社では集団活動が盛んです。人が集まり意見を出すのでそれなりに良いのですが、いつも良い意見を出す人が決まっています。
そのため他の人は聞く側にまわってしまい、結局人がたくさん集まって会議しても、一部の意見に引っ張られてしまいます。
逆に、そうでなければ、時間がかかって仕方がないのです。
Bさん、このような状況をどのように判断しますか?
また、改善点はどのようにすべきだと思いますか?
このようなご経験を多くお持ちとのことなので、ぜひ教えてください」
「そうですね、集団で物事を進める方式は盛んです。
①多くの見方で物事が検討される
②個々人の持つアイデアが生かされ、思った以上に良い対策案を得るチャンスが増える
③何か良い案が創出されたとき、そのマイナス影響をいろいろな角度から検討できるので、失敗が少ない
このように、集団討議で企業が持つ課題や問題を検討するのに有効なため、各社で使われてきました。
お互いに親睦を図る集団の運営は別にして、今回のご相談は問題解決を集団、すなわちチーム・デザインという方式を使って有効かつ早期に信頼性の高い解を求めたいということですよね。
そこで、この点に絞って、私の知っているお役に立つだろう方法を紹介させていただくことにします。
これでよろしいでしょうか?」
「まさに、そういうものを求めています。お願いします」
「では、原点的ですが、NASAで開発された集団討論ゲ-ムを用いて、十分な技術知識が無い方々が、不確定な未来に向けて、何とか良い結論を導くためには何をすべきかを結論づけていく研修を紹介することにします。
この研修は、ゲーム式に進めていきます。
ゲームといっても、ここから多くが理解され、実施すべき多くの注意点を学び取ることができます。
『月面危機テスト』は、NASAでチーム・デザインを学ぶための基本に使われてきた手法です。
このゲームを発端に、船が沈没して残った数名がボートで生き延びるための『遭難~危機脱出テスト』『砂漠で数名の遭難者が助けあってオアシスを持つ部落へ渡りきるテスト』などといったゲームも開発されています。
このようなものを総合して、産業界では『教育訓練ゲーム』とよばれています。
どれも似た形態ですが、今回は『月面危機テスト』を紹介したいと思います。
このゲームは、ある条件下で危機や遭難の状態から脱出するためにチ-ムが持参すべき物、すなわち水、食料……などを15品目の中から選び、取るべき対策の優先順序を決めるゲームです。
30分程度でグループをいくつか作って進めていただきますが、いずれもすでに専門家が作成した正解があります。
ですが、正解を知らない方々はそれなりに討論を進めます。
その結果、このテストを実施してみると、チームの討論の方法や持っている知識・情報によって、結果に大きな差が発生することが認識されます。
点数でチーム討論の評価がなされるわけですが、面白いのは、既に良い答えと正しい理由を共に持っている方がグループの中にいるにもかかわらず、チームで討論すると、返って悪い結果になる場合が発生することです。
間違えの少ない方の意見を拾い上げれば良いのに、何らかの理由、たとえば口ベタ、歳が若い、他の仕事ですが過去の経歴を持たない、チーム・リーダーやまわりに気を遣う……などが関与して、不要な討論に参加しているうちに正しい答えと理由が無視され、点数を落とすのです。
ですが、ここにひとつの手法を投入すると、素人でも正解に近い答えになるということが、このゲームの教訓でもあります。
その手法とは、
①GTという類似のにまとめる手法を使う
②目で見て討論を確認する
③チ-ム・デサインに定められた会議方式をメンバーが知った上で、守りながら討論を進める
というものです。
①のGT(グループ・テクノロジー)は、類似でまとめる手法です。
この場合、
(1)生命維持に不可欠
(2)方向確認
(3)障害やリスク発生時に必要な部材
という3分類に分けることが有効です。
会議やプロジェクト活動の場合、目的・目標・制約条件などと共に、アウトプットを先に定めて、討論で出たアイデアを整理する方針を決めているのと同じことです。
②の具体策は、カードに15件の持参対象の部材名を書き、並べ替えをして、討論で得た理由を判定しながら順位づける方式です。
さらに③は、会議の進め方をチェックしながら進めるという方式です。適用法は下に示します。
この3つの手法を使わない場合、討論は楽しいでしょうが、間違った話に発展することが多く発生します。
たとえば、マッチなどは、
“生命の危険にさらされている時、たばこを吸うだけの空気があったら、生き残る方へまわせ、空気がもったいない”
となるのですが、
“磁石はなぜ必要か”といったテーマは、時には磁界がある地球と、自転していない月に磁界が発生しないことさえも討論しない。
また、誰かが意見を出しても、無視するといったことが発生します。
さらに、項目の中にピストルがあるのですが、“自殺用かな?”と笑って済ませるなど、やがては本論から脱線する場合も発生します。
このゲームを体験されると、集団討論だけで良い討論結果が得られるという信仰的な対処はいけないということを、目前で体験するわけです」
「なるほど、お話をお聞きすると反省点ばかりです。まず、その『月面危機テスト』でご指導をお願いします」
ということで、S社では対策が進みました。
チーム・デザインに定められた会議方式とは
①チ-ムと個人の行動の関係
皆に気を遣うあまり正しい意見を曲げてしまい、結果として個人の討論結果よりチームの討論結果の失点が高くなるケ-スがある。
この場合、正しい意見を持った人が周りを説得し、引っ張る行動が必要になる。
②討論の方式
討論を効率的に行うためには、会話すべき手法と手順を決めて行うことが必要です。
例えば、遭難時の脱出対策にあたって、「生命維持に絶対に必要なもの」「進むべき方向を正しく知るための道具」「危険時などに緊急に役立つもの」に分け、カードを用いたり、模造紙の上に描きながら討論をしたりする方式を取ることにより、効率良い結論に導かれる。
全体の意見と討論の結果を評価しつつ前へ進めると、素人集団でも専門家ほどではないが、ある程度の良い結論が得られます。
目で見て話す会話形式です。
小集団活動、VEによるプロジェクト活動など多くのケ-スでこの討論方式を規制する理由は、この項目のような条件を満足させる目的があります
③高い専門知識と条件を克服するデ-タ・情報の準備
昔、天動説がありました。
地球は平たい板、天が回転して夜と昼がくる。両端は滝のようになっていて、水は地獄に落ちる。板の下には地獄があるという説です。
このことを今話したら、子供に笑われます。
ですが、当時の専門家が出したこの考えが、長い年月信じられてきたことは有名な話です。
このように、
「正しい結論を得るためには、正しく質の高い情報を収集して行いなさい」
というガイドを与えてくれるのが、このゲームの特徴です。
どんなに人柄、声が良く、人格が高く、異分野の経験が多い人が集まっても、質の高い事実情報が集まらなければ、結論を誤ることを示唆しているのです。
コメント
筆者も、Bさんから指導を受けた後、『月面機器テスト』を多くの場で用いてきました。
このゲームは効果的な会議開催に何が必要かを関係者に知っていただくために、極めて有効な方式です。
このゲームを何回か行った中でわかったのは、その道の権威者がいると5~6点という驚異的な失点になるということでした。
筆者の体験では、宇宙の正しい情報を持った専門家がいたことがありました。
その方は、日本の「火星に飛行機を飛ばそう」という研究チームの一員で、そのチームというのは体育館で手作りの飛行機を作成しながら飛行を研究する方々の集まりで、宇宙について詳しく研究して飛行競技を争うそうです。
ちなみに、ひとつの競技では体育館を借りて飛行機を飛ばすそうです。
その飛行機というのが、プロペラは1秒に2~3回ほど回転し、人がこの飛行機の下に立つと、その体温による気流で上昇するという微妙な環境でつくられているそうです。
このような専門家がいる場合、Bさんが紹介した手法より失点は極端に小さくなります。
したがって、チーム活動で良い結論を得るためには、下に示した条件が必要ということが明確になります。
①不明確な技術分野の問題解決に当たっては、その道の専門家に教えを請い、学ぶ集団活動が必要である。
②次に、正しく質の良い情報を集め、集団討論の効率良い手法を用いて、質の高い討論を進めることが、結論に至る時間を短縮する。
③烏合の集会議は危険、討論すれども結論は危うしとなる。したがって、『船頭多くして船山に登る』方式を含め、集団討論方式を進める前に、各調査が必要となる。
なお、S社の場合、①は満たされていたようです。
このため、②の指導を中心に、Bさんが『月面危機ゲーム』を通してチーム・デザイン対策の改良を指導されたのでした。
では、間接部門にどのような会議や打ち合わせがあり、どのように進める手順が効果的かという課題に説明を移すことにします。
NASAでアポロ計画時代に調査・研究された中に、KT法というものがあります。
この手法は、筆者も企業在勤時代に使ってきました。
なお、KT法にはアイデア発想と要求や課題を処理して行く手順がないため、現在、改良を加えて次の表のようにまとめました。
では、簡単に解説することにします。
表中の「区分の観点」に示したように、企業の中で行う打ち合わせや会議は、何らかの結論を得るために行うものです。
また、そのためには効率の良い手順化が必要になります。
なお、期待する結論を得るためには、表の「問題解決の手順」の欄に記載した番号に従って進めることが有効です。
その一例を図に示すことにします。
▼ひとつのプロジェクトを進めるためのPPA対策(PotentialProblemAnalysis)
この表は、これからプロジェクトを進める際にリスク対策を図るための検討を進める様式です。
まず、表題に「何をいつまでに行うか?」を明示し、スケジュールを検討したものを表の左側の枠内に設けます。
その後、討論すべき内容現在感じる問題を、手順化の対象とするため、『リスクの項目』欄に列挙します。
つぎに、その理由や現実に問題になりそうな『考え得る原因』を記載した後、予防策を考えます。
しかし、火事にたとえると、十分に予防したが小火が発生したということもあります。
そこで、このようなケースに備えて緊急時対策を準備し、いざという時に発動する準備を進めます。
このように検討を進めると、目的とする「リスクを減らし、管理下に置く」というアウトプットが得られます。
この問題解決手順はIEやQC、VEといった改善手法と同じです。
これは、過去に多くの方々が実施した結果、問題解決に最も効果的な手順を体系化したものです。
自己流でチーム・デザイン対策を進めるより、この会議検討方式をその道の研究者の成果として使うことをお勧めしたいです。
ちなみに、利用効率の差が15~20倍あると聞くと、その差がご理解いただけるのでないかと思います。