チョコ停止対策|元トヨタマンの目

チョコ停止対策|元トヨタマンの目

トヨタ生産方式の究極の目標は、「生産の増減に応じて、要員の増減ができるよう工程づくりをせよ」ということだ。

生産が増減しても、要員が一定ならば、常に最大生産に対応できる要員を抱え込まなければならなくなる。

そうすれば、生産量が減った場合、要員に遊びが発生してしまう。よって経営者は要員を減らす。

しかし、程なくして、また増産が来る。すぐには要員を増やすことが出来ず、少ない要員でこなすしかなくなる。

ここに労働強化が起こる。

 

そこでトヨタは次のような行動を起こした。

ロット生産をしていると、工程内に在庫が多くて、組立ラインの増減がその在庫に隠れて、前工程まで伝わらなくなってしまう。

したがって、ロット生産は打破しなければならなくなる。

その方法は、機械を工程順に並べて、そこを1個ずつ流すようにする。

 

段取替えで機械を停止させる時間が長いと、その時間分の在庫を持たなければならなくなる。

これも、組立ラインの増減を隠してしまうので、なんとかしなければならない。

そして長い期間をかけて、機械停止時間を10分未満にするシングル段取化、さらに1分未満にするワンタッチ段取化を実現させた。

 

せっかく機械化しても、自動加工中のトラブル発生が怖いので、作業者がジッと立ってそれを見ているようなら、彼はそこの「定員」となってしまう。

そうなると増産の場合はいいが、減産になっても「定員」のままで人が減らせない。

そこで機械が自動加工中にトラブルを発生させたら、機械自体がそれを感知して加工を停止させるようにした。

そしてあんどんを点灯させ人を呼ぶのである。

 

機械加工ラインはどんどん進化していき、加工した製品がオートメーションで次の機械へ移送されるようになる。

オートメーションといっても、やはり機械のやることなので、いろいろなトラブルが発生する。

それは長時間停止してしまうような大きなものから、製品が搬送コンベアで引っ掛かって動かないといった小さなものまで種々雑多だ。

しかしどんな小さなトラブルでも、人がわざわざそこまで来なければならないため、それに対策を打たなければならないということになる。

なぜなら、そうしなければ生産の増減に応じて人を増減させるという目標を達成できないからだ。

 

トヨタでは、長時間停止してしまうような大きなトラブルを「ドカ停」といい、小さなトラブルを「チョコ停」といった。

そしてすべてを問題点と捉えて、日々全員でその問題解決を行ってきた。

その効果があって、チョコ停はまったくなくなり、ドカ停も非常に少なくなっていった。

 

以前、三重県にある、あるエンジン部品メーカーへ行ったことがある。

そこでは、トヨタの機械加工ラインと同じ製品を作っており、オートメーション機械もトヨタ系列の工作機械メーカーから購入しており、トヨタとまったく同じ条件だった。

しかし、そこの工程をみると「あんどん」が設置されておらず、作業員が張り付いていた。

トヨタでは「あんどん」が、機械トラブル、刃具交換、品質チェックなど人の作業が必要な場合にのみ、あんどんが点灯して人を呼ぶようになっているから、常平生はまったく無人である。

そこですぐに社長に「あんどん」の意味をお教えして、作ってもらうことにした。

 

1ヶ月たってまた訪問した。

もうあんどんは設置されていると思って、現場に行ったがまだ設置されていなかった。

そうすると社長が次のように言われた。

「うちはチョコ停を問題とは認識せず、人に対応させたままにしてきました。

そのうち刃具交換や品質チェックなども必要になるため、『チョコ停・刃具交換・品質チェック等』で1人区になってしまい、そのまま定員を配置したまま今日まできてしまいました。

チョコ停対策を一からやらなければ、あんどんなど設置しても人は抜けないのです。」

 

すごい衝撃だった。

トヨタでは当たり前でやってきたことが、普通の会社ではやられていない。

それゆえ人が抜けないままで21世紀の今日まで来てしまっている。

GMがNUMMIをそっくりゲットしてTPSの導入を試みたが失敗して倒産に至ったのは、このあたりに真因があったのではないかとフト思った。

 

何を問題として着眼するかで、ここまで差が開いてしまうのだ。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。