シャープは「ほんとうのコア技術」を見誤ったのかも

シャープは「ほんとうのコア技術」を見誤ったのかも

付加価値を拡大させる時には固有技術+サービスのように組み合わせで成立する事業を構築するべきである、という話です。

特定の市場へ打って出ようと考えた際には、強みを単純に数値で説明するだけの事業は避けます。

競合からは見えないブラックボックスを含む事業を構築します。

1.選択と集中のためには強みの把握が欠かせない

経営者の方はモノづくり事業の存続と成長のために日夜、知恵を絞っています。

まずはコア技術に着目し、モノづくりでの強みを把握します。

そしてコア技術は、4つのステップで考えます。

 

1.お客様が評価している利便性やコトは?

2.やっぱりこだわりたい工場の要素技術を見極める。

3.意外と受けているウチの会社の仕組み(システム)はあるのか?

4.「お客様が評価している利便性やコト」へひも付ける。

 

加工を主業としている生産現場の管理者をやっていた頃、自分たちが考えていた加工技術の方ではなく、エンジニアリング的な対応にお客様が価値を見出していたことがありました。

これは4つのステップのうちの1のステップに相当します。

当然、加工技術も当時の現場の固有技術としてお客様のニーズにこたえる水準を満たしていたので、当時の現場におけるモノづくりでの強みは「加工技術+エンジニアリング力」であったといえます。

 

これがもしエンジニアリング力なしで、加工技術単独であったなら、強みにはならなかったと思われます。

自社工場の強みを把握して付加価値の拡大を図りたい時に、この強みの見極めはとても大切です。

経営の方針として度々「選択と集中」が語られます。

 

この「選択と集中」を成功させる前提条件は経営者が自社に残すべき、あるいは自社で強化すべき強みを正確に把握していることです。

“正確に”とは言い換えれば、“お客様視点で的確に”ということです。

お客様が、“これはイイ、高く買おう!!”と言ってくれるような商品を実現できる強みを「選択と集中」の対象にしなければなりません。

 

そうでなければ、誤った「選択と集中」はかえって苦しくなります。

2.選択と集中をあやまったシャープ

日本最大の総合電機メーカー日立製作所はリーマンショック後の2009年度決算で国内製造業では過去最高となる8000億円近くの最終赤字を出しました。

そこで、テレビやHDD等、市場で強くない事業は撤退をしました。

そして、強みである技術力を生かし、情報通信と社会インフラを中心としたビジネスモデルへ転換し、みごとに復活を遂げています。

 

米ゼネラル・エレクトリック(GE)もかっての稼ぎ頭であった金融事業、伝統ある白物家電から撤退し、デジタル化で製造業の生産性を高めるサービスを強化する方針を掲げました。

インダストリアル・インターネットです。

東芝も現在、事業の再編を行っている真っ最中です。

 

半導体分野での強みであるフラッシュメモリーと重電部門で勝負しようとしています。

こうした選択と集中はトップによる戦略的な意思決定によって進められます。

判断に誤りがあってはならない重い経営判断です。

 

一方で、台湾のホンハイ精密工業に買収されるシャープは、独自技術を単独で生かすことができなかった事例として歴史に残りそうです。

シャープの技術力を存続させるという意味では成功なのでしょうが、やぱり日本発の独自技術が国内企業で生かすことができなかったのは、やはり残念……。

なぜ、買収という状況に陥ったのか?

 

奈良天理市に同社の歩みをたどる「シャープミュージアム」がある。

館内を歩いてわかるのはシャープの歴史がある時期から一変することだ。

創業から2000年代前半まではシャープペンシル、鉱石ラジオ、電卓と「国産初」や「世界初」がいくつもあった。

 

だが、05年ごろからは展示内容が液晶の「サイズ」「画素数」に変わる。

経営モデルの進化は停滞し、世界の速さ、規模についていけない経営体質を引きずりながらも、背伸びをして台湾や中国、韓国と取っ組み合いを続けた。

(出典:『日本経済新聞』2016年3月7日)

 

シャープの技術開発と製品開発に変化があったのが理解できます。

3.選択と集中で強みを発揮する時は「組み合わせ」で

社運をかけた事業の強みが単純に定量的に表現できるものであってはダメ。

そうした事業は早晩、競合が現れ、価格競争に陥ります。

勝ち負けの判断基準が分かりやすく、競合も対応しやすいからです。

 

やれ大きい、小さい、重い、軽い、厚い、薄い、という性能/仕様競争を続けているうちに顧客へとどけるべき「コト」を忘れます。

開発者は理解し易い開発目標へ邁進しますが、ドンドン、顧客から離れていく。

やればどこでも作れる液晶技術に巨額の投資を行ったシャープは、結局は、価格下落で投資した資金を回収できず、苦境に陥ったわけです。

 

我々、中小企業もモノづくり工場で強みを構築し、市場へ打って出ようと考えた際には強みを単純に数値で説明するだけの事業は避けます。

日立やGEと同様に、固有技術+サービスのような組み合わせで成立する事業を構築するべきです。

サービスのところに現場や営業部隊のノウハウが生かされます。

 

問題解決型のビジネスは、これからの中小企業モノづくり工場で目指すべきビジネスモデルのひとつです。

競合からは見えないブラックボックスを構成するので強みが継続します。

そのブラックボックスを強化し続けることで当面安泰の事業を構築できます。

 

もしかしたら、シャープは「ほんとうのコア技術」を見誤ったのかもしれません。

もともと、「日本初」や「世界初」があったということは、「企画力」は間違いなくあったと思われます。

顧客が気が付いていないニーズに着目した商品を企画するノウハウもあったかもしれません。

 

そのシャープがなぜか、液晶のサイズや画素数の競争世界に没入してしまった……。

シャープの事例を他山の石としたいです。

経営者は会社を従業員や家族のため、地域のため、企業を未来永劫、存続・成長させねばなりませんから。

まとめ。

市場へ打って出ようと考えた際には、強みを単純に数値で説明するだけの事業は避けるべき。

競合からは見えないブラックボックスを含む事業を構築する。

付加価値を拡大させる時には固有技術+サービスのような組み合わせで成立する事業を構築するべきである。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)