コンサルタントの依頼は相手を見て!

コンサルタントの依頼は相手を見て!

これはSさんの体験談です。

「あなたにコンサルタントを頼みたいから、すぐ相談に来て欲しい!」という中堅のF社からSさんに対する電話がこの話のスタートです。

しかし、結論は、「断る体制で簡単な提案書を出した」という内容です。

では、この話をもとに、コンサルタントの仕事のあり方を、依頼する立場と、依頼される立場から眺めて整理することにします。

 

Sさんはコンサルタント歴15年余りですが、Sさんは「昔からそうだが、悪質なコンサルタントが新聞をにぎわせている。

プロ野球選手に脱税を指導したコンサルタント、会社の首切りリストラを指導して世の中を騒がせているなどの例がある。

このためコンサルタントと聞くと、人を騙して金を稼ぐ商売ととらえるかたがいる。しかし私から見ると、この種のコンサルタントによく商売ができるものである! と思う。

 

コンサルタントという仕事は、『お客様の技術がない時に、有償ではあるが、短期間に技術を教えて一流の仕事をしてもらうために発足した』という歴史がある。

しかし、商売となると、儲けが目的となる。

そうすると、このような事例や悪徳コンサルタントが世に出てくるのかも知れない」という、お考えを持った方です。

 

では、Sさんのお話を紹介することにします。

「私ごとになって恐縮だが、私がコンサルタントの仕事を始めた年齢は48歳、海外赴任の仕事を終え、帰国直後のことでした。

コンサルタントとして仕事をする決心はその3年前、海外赴任前に決めていた。

 

その前には、私は自分の行く末を、管理職として人生を一企業で過ごすか? それとも、今まで、育ててきた改善技術を世の中のお役に立てて行くことができないだろうか? と思っていたわけだが、『自分が世の中のお役に立ち、自分の人生として自分に残るものは後者の仕事である。

また、諸先輩に教えられた内容を世に伝える使命も持っている』と考えた。

これこそが私に与えられた天命と感じたからだった。

 

このため、海外の仕事を最後に、現在の仕事に移ることを計画しながら、海外赴任となった。

当然、海外工場では、今まで諸先輩から教えられた技術知見を総動員して対応し、関係者と共に、海外工場では予定以上の成果をあげた。

なお、帰国と同時に私が退職する話は、海外赴任前に会社の仲間に話していたが、関係者は私の転職を信用していなかったようだった。

 

このような状況で帰国、幸いに今の企業から招待があり、円満退職、現在の仕事に就いた。なお、私はこれまで育てていただいた、関係者のご援助とお客様のご援助で何とか今日まで仕事が進んでいる。

また今、何とか進めているこの仕事の環境づくりは、とても一人の力では仕事が出来ない内容であることを今も強く感じながら仕事をしている。

要は、今もこの仕事に対し、多くの方々のご支援やご指導に感謝しながらの毎日です」

 

「私ごとはさておき、私が業としているコンサルタントの仕事について解説することにしたい。

この種の仕事、すなわち、企業の改革を支援して行く仕事は目に見えない、という欠点がある。

相手に技術がない時には驚異の目で見られ、『先生!』として大切にしていただけるが、一旦、相手の力量があがると仕事はお終りになる。

 

要は失業現象になるわけである。私は剣道をやっているが、この仕事は剣道に似ている。

弟子に技を教えると弟子は上手になり、指導者が打たれ現象である。

このようになった状況で教えた側の自慢話を弟子にしても、もはや弟子には興味がない。そこで、教える側はもっと伸びるための課題を見つけ練習が必要になる。

 

この状況は、正に、私が行う仕事と同じである。

『お前に教えたのはおれだ! 感謝を忘れるな!』と考えるのは、弱い指導者である。

また、技を隠したり、小刻みに教えていては生徒の進化を遅らせる姑息な指導者のやり方である。

 

弟子に打たれたくなければ、教師はその上の技を勉強すべきである。

コンサルタントの仕事も同じである。弟子に教え、弟子が成果をあげる状況は企業指導と同じで、企業が育ち、教えた企業が成果を出せば出すほど、弟子が指導者の基に習いに来る。

これに似たことが、私が関与するコンサルタント業界と企業の間でも行われている。

 

なお、我々のようなニッチな業界では“パイの大きさが決まっている”という言葉がある。

我々の業界では、新しい手法を開発しても、対象とする業界の大きさと習得者の数が限定されている。

このため、市場はすぐ枯渇する。新手法の登場もライフサイクルは大体2~3年である。

 

このことは、常に、産業界で強い技が技術革新と共に常に生まれ、過去のものと交代していることを示している。

だから、昔の名前で出ています! 式のコンサルタントにつくと、企業の革新スピードは大変に遅く、時代遅れの改善となるわけである。

コンサルタントの場合、剣道との違いは、技を教える先生の試合がない点である。

 

弟子が行った試合の結果はかなり遅れて出てくる。教えた先生が剣道のように、弟子に打たれれば問題の有無は明白である。

しかし、コンサルタントの世界はそうではない。

このことがこの仕事に対する評価を複雑化しているようである。

 

更に、売れるメニューをつくって世に出すと、すぐに真似する者が出てくる。

逆に、時代遅れのコンサルタントは飯を喰ってゆかねばならないため、相手企業に上手に取り入って、売れるメニューを真似る。

偽物をつくってでも教育指導メニューをつくり、長期間稼ぐために切り売りする者がいるわけである。

 

一見、この種の方の企業アプローチが企業に親切に見えることがある。しかし、改善を遅くしている内容までは、指導を受ける企業側には判らない。

この代表例は“気合い研修”や“掃除5S指導”に多く見ることができる。

ここでは、技を早く教えると失業する。

 

そこで“継続は力”と言い、技の教育の切り売りに走る方式を使っている。

しかし、この種の指導者を選択して活用する責任は選択する側にある。

剣道に“良き師を得ずば学ぶにしかず”という言葉がある。この言は道元禅師の教えだが、剣道では盛んに使われてきた(下図)教えである。

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これは、『ダメな教師を選択して悪いクセがついてしまうと、クセを取るためには習った時間と同じ時間と手間がかかる』という内容である。

例えば、ISO9001:1994規定4.20に、“統計の扱いの明確化”とあったが、統計は事前検討に使う手法である。

だが、あるQC指導者は発表会の後付資料作成用として、2泊3日の研修をしている。

 

統計資料を手で描かせて討論する方式である。本来、不良対策はヒヤット段階で対策すべきである。

QC手法は不良発生を防ぐ手法であって、不良をつくる状況を眺めていて統計にまとめる仕事ではない。

だから、この所作を『死亡診断書づくり』というわけである。

 

第一、今はエクセルを使えば1秒で図化は可能、だが、なぜ? QC研修を開催して手で描かせた後、ムダな討論(想定原因の列挙)をさせるのだろうか?

不良があるから統計資料になるわけで、不良を無くせば統計は不要となる。

このことを研修生に教えない。だから、生徒はハインリッヒの法則にあるヒヤット対策(1:29の関係)を進めないわけである。

 

ケガの対策にある予防対策KYT:危険予知段階を見れば問題を発生させてから討論する方式などあり得ないわけである。

問題は、この種のコンサルタントにコンタクトした企業の方々が、この種の問題に気がつかない点です。

これは、指導を選択する企業側の判断力問題です。

 

このような不良対策の場合、当然だが、不良対策は統計遊びと討論満杯の場となる。

従って、このムダに気づく頃には、ライバルと大きな品質格差がついてしまい、取り戻せない状況となる。

私は、ある意味、この現象も剣道でいう弟子の教師選びに似ているように思う。この種の状況では、弟子が早く教師を見捨て道場を去るべきである。

 

江戸時代の有名な剣豪、千葉周作はこの実践者だが、企業の場合、この種の選択は命取りになる危険をはらんでいる。

剣道の指導内容には隠し技やノウハウがある。この技は弟子が、その原理に気づくまで判らない。

だから、昔は、『技を盗め!』と言う行動が取られた。コンサルタントの仕事にも、時々、これに似た内容がある。

 

しかし、この多くは特殊な技ではないのに、内容を隠す。更に、お客に派手で興味をひく演出劇を演ずる方がいる。

江戸時代の剣道界には、この種、人を集める劇剣が盛んだったことが文献に紹介されている。産業界にも、これに似た内容がある。

一見、興味を引く方式で、目立つがムダが多い方式である。

 

例えば、部品棚群に人を放り込んで『モチベーション強化のセル生産』とか、『見える化対策』などと称して、ムダな催しやカンバンや資料づくり~研修などを行うことがあるが、これらはその種の例である。

化けの皮はがしは、言葉や考え方の珍しさや派手さではない。“実務に本当に役立っているか?”を科学的に分析すればすぐ判る。

企業によっては、早くこの判別能力を身につけないと、ムダな時間と費用を費やすだけになるからご注意! となる。

 

早く有効な手法を駆使した企業が大きな企業間格差をつくる。

そこで、企業が良いコンサルタントを求めるわけであるが、これはその見極めが企業側でも重要になる、という例である」

 

「以上、私の立場と考え方をご理解いただいた今、先にお話した“F社お断りの理由”を説明することにしたい。

F社は特殊な製品を生産する企業である。このため、ハッキリ言って、今までは改善手法を勉強しなくても充分に収益が出る企業だった。

一般に、企業が我々のような指導を必要としない場合に、次のような環境を持つ企業が多い。

 

1、製品が他社に対して群を抜いている特徴を持つ

価格設定も自由である。

ライバルはいても弱小であり、相手にならないケースでは、管理・改善手法などは必要ない。

 

2、既に、設備投資が先行して、高価な設備投資を行い、シェアーを確保している

このため、後から設備投資を行っても、投資負担が大きく、経営として成り立たないから、他社の参入がない(お醤油を製造するK社のケースなどがこれに当たる)。

 

3、公的な保護政策に守られ、省力や合理化などは全く考える必要がない企業

ここでは、もし赤字になっても税金や公的資金の投入などで保護されるため、社内には企業体質改善に努力する環境づくりや活動が全く無い。

 

このような企業に、我々のような企業体質改善を指導、援助するコンサルタントが参入するケースはほとんどない状況である。お声がかからないわけである。

そこで先のF社だが、この1と3番目の条件を持っていたわけだったが、要は儲かっていて、改善ニーズを口では話すが、本音は必要としていない企業だった。

このことは、私がF社と話す電話の内容で明らかになった。このため、私は断る腹を決めてF社に向かったわけである。

 

今までも、何度か? このような企業から相談を受けたことがあった。だが、お断りしてきた。

その理由は、決して感情的なものではなく、論理、経営的な内容である。

私のような厳しい環境で仕事をするものが、たとえ、その企業の環境改善を含め、親身になってそのお会社の各種の提案をしても、交渉に時間が掛かる割りに、話は進展しないからである。

 

F社様には失礼な言い方になるが、私が大金持ちのドラ息子の教育をするようなものである。

また、私のような力が足りないコンサルタントが、この種の方に対して、やる気を起こしていただく説得ノウハウを持たないためである。

要は、この種の対応に対して、私は指導者として不適当だから断ってきた。

 

そこでF社の例だが、その後、コンサルタントの交渉にはF社の社長様自らがご出馬されたようである。

事実、私にも訪問を依頼してきたため、お話を聞くためお邪魔した。

しかし、やはり部下の方の要求と社長様の要求は完全にズレが発生していた。

 

トップは将来の問題に対しての危機感打開の方策を依頼したい。

しかし、担当部長の方は、世の中に使われているカッコ良い手法を展開し、他社に自慢したいという内容だった。

すなわち、改善に当たっての経営数値目標が全くなく、ムード一色だったのである。

 

しかも、『楽に儲かる内容なら是非、何でもやって欲しい!』という内容だった。コンサルタントへ改善丸投げの要求だったわけである。

これでは、“この企業に経営管理者は必要がない”ということになる。

このため、私はF社へお邪魔した時、失礼がないように、打合せ時には、F社の方々が興味を持たれた内容だけを文章化して提案書を出しておいた。

 

しかし、“この時点でお断りする意志で対応した”というのが本音だった。

なお、訪問の時『コンサルタント提案を願っている企業は、実は、現時点で御社を入れ4社です!』というお話しまでお聞きした。

こうなると、提案はコンペ、当方を信頼した依頼ではない。

 

ここで負け惜しみを言うわけではないが、今は、依頼すべき講師の状況はインターネットなどで詳しく判る時代である。

しかも我が社のコンサルタント費用は他社に比較して多少高価である。

また、F社のようなところは、当方の提案を安価なコンサルタントに見せて、同じ方式の実施を要求する例が多い。

 

今回の打合せでは対処すべき内容が具体的ではなかったし、先の説明のように、アウトプットは具体的ではなく、お話される問題の対策も急
いではいない。

即ち、改善を早く進める危機感が全くない状況だった。

そこで、私はごく簡単な企画書を提出する程度で、当方からご辞退させていただくべきと考えたわけだった。

 

また、この1回だけの折衝で企画書を出し、こちらからの問い合わせや催促は一切しなかった。

その後もF社は、当社への指導内容の調査は緊急! ということで各種改善を依頼してきた。

放っておいた。

 

各社の検討に3カ月を要したのだろうか? 私が忘れた頃になって、1度、コンサルタント費用とともに、項目の一部詳細を再提案して欲しい旨の依頼があった。

このようなケースの場合、F社をかんぐるわけではないが、既に、決めているコンサルタントがある。

そのような企業は見積り内容を参考に当社よりノウハウを入手するために問い合わせを開始するわけだが、今回も、まさにそのようなことを感じさせる内容だった。

 

そこで、追加要求に対し、一般的なキーワードを羅列し、内容の詳細や実施すべきノウハウは隠した資料を送った。

なお、その件にも2~3回の追加問い合わせが事務局にはあったようである。

その時も、公開した資料をコピーして紹介する程度とした。

 

なお、F社を支援するコンサルタントの決定は、さらに、それから3カ月後のことであり、しかも『K社に決めましたが……』という返事だった。

この時、私は、コンサルタントを担当するK社がどこであれ、F社のためになることを指導していただきたいと願ったわけだった。

これは事後談だが、その後、ある関係からたまたまだがF社を訪問、私達はK社の指導内容を見る機会があった。

 

そこで知ったわけだが、K社の指導内容は現場管理者研修と5S対策だった。

しかも、指導を受けてから、もう、数カ月後のことだった。しかし、当然と言っては失礼かもしれないが、私は“あの企業対応では経営効果は何も出ない”と思っていた。

その通りだった。

 

改善テーマが経営効果を狙ってはいなかったし、“やる気づくり”という抽象的なテーマだったからだった。

この時、F社のトップは私に『3年はこのまま続けたい。一部ではあるが、気持ちが変わった現場管理者が出始めた!』というお自慢話をされた。

しかし、その職場を見ると、『壁に紙を貼ることで職場のムードが変わった』という評価基準であり、例えば、製品のボルト締めにモンキーを用いているため、製品のボルトの頭が完全に欠けている状況を、私は製造現場で目の当たりにしたわけだった。

 

5Sでは、現場でのモンキー、針金、ガムテープの使用を禁止する。

その理由は、モンキーなど、この種の機材はその場しのぎの道具であって、根本的な問題解決をする意志がない実態を示す行為だからである。

しかも、F社ではボルトの頭までいためていた。

 

本来、5S対策の場合、『必要なレンチを必要な場所に必要な時に揃えるべき』としている。

しかしレンチなど、他の道具を置く場所にはなく、派手な“ガンバロー式”の文書が貼られ、それに関する標語や研修教材が“ところ狭し状態”で貼られていた。

F社では、この種の行為に対し、『やる気が起きた』としているわけだが、ハッキリ言って、この種の行為は私が行う実践改善の結果、次なる改善にチャレンジして行くという産業界が常識としてきた“やる気”の実態とは、全く感覚が違っていたわけである。

 

すなわち、K社の指導内容は、私が行っている直接的、実践的な改善アプローチとは全く離れた異文化の改善手法だったわけである。

筆者は、一瞬だが、“この後、K社はF社にどのようにして改善を指導されるのであろうか?”と思った。

だが、私とは流派が違うので、これ以上興味を持つことを止めたわけである。私はK社のコンサルタントではない。

 

従って、問題を知って提案したくても、それは許されない場にいるため『よくやっておられます』として、『くだらないことを』という発言はカットした。

F社は満足げだったが、その後、K社の指導で、その後F社がどうなっているか? 私にはわからない。

しかし後で、再度の支援依頼が当社の事務局にきたそうである。

 

『K社ではダメだった。S先生にご出馬を!』ということだった。

しかし、当時は多忙な時期でもあり、お断りした。この種の依頼は今もある。

似た企業のご相談を受けると、つい、F社のことを思い出してしまうわけです…」というお話しがSさんの体験談です。

 

コメント

これは筆者の体験ですが、Sさんの体験に似た話は多い状況です。

筆者には毎年、決まったように、1年のある時期、提案書・企画書を求める企業で殺到することがあります。

しかし、実際にご支援を依頼される例は30社に1社程度です。

 

これに対し、筆者の活動をよく調べ、著書や文献、指導内容を調査され、意志決定の権限を持った方が、突然に訴える形でJMAを訪問される場合は100%に近い状況です。

この場合には、支援をご依頼される企業が抱える問題を詳細に説明された後、対処すべきアウトプットなどが事前に明示されます。

従って、数件ある対策法を示し、一番の近道をその理由と共に紹介すると、即断・即決で実施に向かう状況です。

 

この種の例の場合、多くは、

①前に指導した会社の内容を知って依頼となる場合

②他に問題解決を図る手段がなく、直接に筆者を訪れて来られ相談~その場で決められる場合や

③研修会にご出席になった生徒さんから状況を知り招待される例などです

 

このような内容から、筆者は、「提案書を盛んに取る企業は、企画書を基に会議を行い、討論を重ねる題材とするためか、勉強の教材か? 企業内で稟議書に添付するため」と思うわけですが、現在のように、各種の手法が公開され、改善の基本となるツールが満ちあふれている時代にあっては、多少の調査の後、企画書などの程度は自社でスタッフの方々が作成した後、外部講師やコンサルタントが必要なら、アウトプットと外部講師の使い方をあらかじめ決めた後に外部支援を受けるべきです。

一般に企業指導という業務は“コンサルタント”といいます。

この仕事は、専門的に企業に入り込み、持てる力を駆使して一つの方向に企業関係者を説得・指導・引率しながら成果創出へ導く方式です。

 

従って、企業の中に入り一定期間、企業の方々と共に活動する方式が採られます。

これに対し、JMAで専任講師を担当する、筆者が担当する企業支援の方式は、大きく異なります。

支援の場合、支援対象となる企業内には手法習得~駆使して行く体制と担当者がおられ、改善手法もほぼ知っておられます。

 

そうでないケースでも、問題解決の筋道を整理しておられるので、最短で問題解決になる手法の紹介をすれば具体的活動に移ることができる条件が準備されています。

従って、個々の企業課題に対して、必要な情報と手法の具体的利用法(コツ)を投入したり、やって見せる形で運用面の指導内容を紹介すれば、具体的な支援内容は打ち合わせの場で決まります。

このような対応なので、企業で行う支援も1~2日程度です。

 

また、この方式で企業支援を進めるため、1社に入り込んで多大な時間を使わずに、他の多くの企業に同種支援が図れるわけです。

この点は、コンサルタントの対処と運用が大きく異なるわけです。

要は、コンサルタントは1社に入り込み集中的に改善を指導するわけですが、専任講師という企業支援の場合、必要事項だけを教え、後は、企業にいるキーパーソンが企業内で習ったことを展開していかれる方式です。

 

では、筆者が関与する企業支援と、コンサルタントという仕事がどのように生まれ、どのように企業で活用すべきか? について、その生い立ちを整理していくことにします。

コンサルテ-ションという仕事は、優良・最新技術を依頼があった企業に投入することが目的ですが、この活動には次のような歴史があります。

日本企業は、戦後、鉄鋼メーカーが日本を支える柱として急速な発展をしてきました。

 

筆者も鉄鋼部門の一端をなす企業に勤務していたわけですが、この時、生産技術の仕事をする中で、鉄鋼連盟IE事例研究文化会に出席したとき、この種の仕事の存在を知りました。

まず、鉄鋼連盟がIEを導入しなければならなかった歴史には、次のような問題意識があったそうです。

かつて、鉄鋼メーカーが欧米産業を学び、追いつけ、追い越せの時代、海外に視察団が組まれたそうです。

 

この視察団の方々が学んだことは、「鉄をつくる設備と同じく、欧米の鉄鋼メーカーは操業の仕方に改善のメスをいれていて、それが生産性の高い鉄鋼業界をつくっていた」という内容です。

このため、「海外に1社固有の取り組みではとても勝てない!」という問題意識が生まれ、お互いに情報公開を行い、「設備以外の面でも事例を紹介しあって勉強しよう」という取り組みが始まったそうです。

これ以降、企業秘密に関するような内容が鉄鋼連盟IE事例研究会では発表され、各社が学び、また、先訓事例を乗り越える内容があると発表しあう方式が取られて行きました。

 

この時にシステム設計分科会というコンピュータ制御技術の研究会も発足しましたが、この研究会もこの面で同種の役割を果たしたわけでした。

ここには鉄鋼分野独特の環境があったかもしれません。

その理由は、他社に最新設備を見せても、次の時代にはそのコピーをつくっても仕方がない条件があるからです。

 

鉄鋼の設備は製作に多くの年数と投資を要します。

従って、技術研究が具体化して公開した段階では、次の技術のチャレンジが始まっていて、この時は秘密だが、出来上がった内容は過去の成果と
いう程度の意味しかない産物となるからです。

すなわち、「次世代技術は極秘である。しかし、出来上がったものは、もう、今後の研究の題材にしか過ぎない」という状況であったことも、この種の技術交流を高めた内容でした。

 

このような意味合いから、技術の公開と交流が盛んだったわけですが、逆に、少しでも技術面で遅れる企業が発生すると、国家的にまずいので、「体系的に技術を早急に学び、遅れる企業をつくらない」という目的から、鉄鋼界では教育と技術波及活動がなされて、これが、鉄鋼IE部門のコンサルタント業務として独立し、各社の現場指導に滞在し、一体となって、技術向上を図る取り組みがなされていったわけでした。

各種問題解決技法の伝授の例としては、管理者教育(TWI)や自主管理活動の名で有名な自主管理活動という小集団活動(JK)がありました。

要は、急進展する技術に対応するため、指導業を専門化した対策がコンサルテーションの始まりだったわけです。

 

技術は進歩する。そうなると課題は変化します。

この対応に対して、専門技術は陳腐化するものと、新たに導入・研究すべきものが次々と世代交代して行くわけですが、この対応に専門部署を設置しても仕事は時間と共に要らなくなる。

従って、必要な時に、必要な知識を導入し、その対策が終わったら解散するという対策にコンサルタントという存在が極めて便利だったわけです。

 

このため、専門集団がプロジェクト活動を推進する形で、その指導者にコンサルタントという内容が、鉄鋼業を始め、多くの企業で広まっていったわけです。

同じ時代、JMAでは、旧・通産省の指示で航空機関係を中心とした海外一流技術を導入~展開して各社のモノづくり力を高める目的で作成されました(ここには、全く天下りはありません)。

そのような環境で、電機・自動車・食品・物流など多くの企業・異種企業を相手に、モノづくりに一流の活動を進める諸外国から生産技術の導入を図り、鉄鋼業に見られた形態と同じ目的と活動で、コンサルタント業が構成され、日本企業の連携も取りながら技術革新が進みました。

 

この種の対応は、企業や業種などの性格や運営に多少の差があったわけですが、日科技連によるQC、産業能率大学を中心としたVEなどと共に産業界に広がってゆきました。

なお、当時、その種の機関や団体は、高度な手法を海外から入手して教育・普及~コンサルタント業を駆使して日本産業の生産性向上に力を尽くしていました。

しかし、1980年頃になると、もう海外から手法を入手して普及やコンサルテーションを進める対象が少なくなってきました。

 

以上が、この種の専門業が生まれた歴史です。

また、このような経緯から、コンサルタントの支援と企業の対応が下表のように整理されていったわけでした。

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このようにコンサルタントの仕事を整理すると、「指導内容の質の悪さや、スピードの遅い内容は、今の時代には、コンサルタントの基本に合わない」ということになります。

コンサルタントの本質は、企業が持つ問題を早急、かつ、効果的に解決する指導を図ることであり、エゴで金儲することではありません。

だが、技術の実態が判らない企業側が、時々、この種の「悪徳コンサルタントに騙される」という現象が出ます。

 

本来、コンサルタントが生まれた歴史から考えると、世の中に害毒を流すコンサルタントが存在するという状況は無いわけですが、コンサルタント自身、勉強して新しいニーズに対応できないものや、ある種、人をたぶらかす妖術を身につけて活動する者など、企業を騙す例が生まれました。

世間には「オレオレ詐欺」がいます。要は、人を騙すつもりで活動するやからです。

しかし、この種の存在とペテンに引っかからない技を市民が持つべき対策と同じように、企業でも悪徳コンサルタントを見破る企業対策が必要です。

 

ここまで、このように書くと、一般の方は「コンサルタントが早く仕事を済ましていては、早々に仕事が無くなるよ!」と思われるかもしれません。

これは一面の心理です。

しかし、この業界は、面白いことに、早く、良い仕事をすれば他社に招待がかかる。

 

また、終わりを早めつつ、真剣に多くの企業で仕事している中から、次の世代に必要なテ-マが発掘できるチャンスが生まれるという現象があります。

要は、コンサルテーションの基本を忠実に守ることが、コンサルタントの仕事のリフレッシュにつながる循環があります。

このような環境で仕事を進める方々が『コンサルタントのあるべき姿の追求』であり、本来的な『社会貢献業』というわけです。

 

コンサルタントの仕事と、筆者が行う専任講師という企業支援の仕事は、時々、テーマは同じです。

だが、先に説明したように、企業支援の仕方は異なります。

前提条件が異なるからです。

 

では筆者が担当してきた仕事の要点を簡単に紹介することにします。

JMA<(社)日本能率協会>は、社団法人という名が示すように、NPO的な性格が大きい場で仕事をする関係上、筆者も次のような形で仕事を進めてきました。

このため、主体的な仕事は次のような内容です。

 

① 研究会活動:

各社で大きく課題としている生産技術を中心としたテーマを抽出して、各社に参画を募り、研究会方式で技術開発を図り、理論と実践の形で問題解決手順や各種手法の活用体系化を図る。

この種の事例は、特許・リサイクル対策研究会、不良・クレームゼロ対策研究会、新製品開発段階からの不良・クレームゼロ対策研究会、チーム・マネジメント研究会、技術・技能伝承研究会があります。

 

② 普及研修活動:

①で作成された新規のニーズに基づくJMAにおける公開研修や、JMA・マネジメントレビュー誌、工場管理誌など産業誌への記事掲載~技術対策専門書籍発行活動など。

 

③ 企業支援:

テーマとアウトプットを定め、集中的に企業の方々の教育~実践展開を、一種の短期・社内研修の形で進め、企業内に①と②の波及を図りつつ、実務指導層の方々の増強を図る対策。

この活動の詳細はWebに掲載中ですが、現在は、各社が必要とする改善手法(例:不良ゼロ対策、工場レイアウト設計法、経営直結型5S など)を掲載中です。

 

この対策は、事前に改善手法を知っていただいていただくことが目的ですが、従来の公開研修の手続きを紹介すると、

①課題を持ち研修にご参加される

②改善に対する基本事項を研修会でご受講願う

③演習を通して手法の活用をご理解願う

④ご持参いただいた課題に対する解決策をつくる。または、講師に相談をかける

⑤会社へお帰りになり、関係者に報告して、実施に移す、となります

 

また、JMAの研修へご出席の方々は、以上、①~⑤のような手順の実施と問題解決を目的にご参加されるケースがほとんどです。

だが、Web活用により、その効率化を大きく変化させることができます。

各社で課題としてきた設問が研修前に、URL上で事前の入手可能であること、更に、先に紹介した改善手法が紹介された対象も、テキストに相当する資料をWebで掲載しています。

 

要は、研修をご受講される前に、改善手法の理解と適用例の入手までが可能になっているわけです。

このため、①と②の内容の習得~確認を簡単に済ませ、③~⑤の質が増す対策が図れます。

このような改善を図る理由は、ITの“ユビキタス”の言にあるように、現在のような情報化時代にあっては、必要な情報は短時間で手元に入手可能な環境の存在を意味します。

 

しかも、日本の産業界は、よりスピーディーに、より効果の高い改善を進める要求の度が益々増加中です。

筆者としても、このような時代の要求にお応えすべきです。

このため研修の方法も、事前教育から、研修の場では教育内容の実践指導の形とする。

 

すなわち、水泳にたとえるなら、プールに入って実際に泳ぐ、海や激流に面して習った泳ぎをどのように展開して行くか? という課題に対してシミュレーション的な教育を進める形態に変化させて行く方式に変更~努力を進めることにしたわけです。

加えて、研修後に習った手法の適用上の問題を持つ方に対しては、オンライン研修(⑥の研修後の支援に当たる内容)の形で、短時間で相談に乗る方式も展開中ですが、これも、より効果的な企業支援へのアプローチへの挑戦中のひとつとご覧願えると幸いです。

 


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/