コア技術の見極めを工場でやってはイケナイ理由とは

コア技術の見極めを工場でやってはイケナイ理由とは

「ほんとうのコア技術」を把握するためには顧客が評価している利便性や「コト」に焦点を当てる、と言う話です。

コア技術は、4つのステップで考えます。

 


1)お客様が評価している利便性やコトは?

2)やっぱりこだわりたい工場の要素技術を見極める。

3)意外と受けているウチの会社の仕組み(システム)はあるのか?

4)「お客様が評価している利便性やコト」へひも付ける。

 

しかし、やっぱり、それ以上に経営者の想いが大切です。

1.中小の工場ではコア技術を意識した工場経営がピッタリ

付加価値拡大の原動力のひとつはコア技術です。

生産とは「素材など低い価値の経済財を投入して、より高い価値の財に変換する行為又は活動」です。

変換するためには、“技や道具”が必要です。

 

この“技や道具”に相当するのがコア技術です。

ウチの会社ではどのような技や道具を通じて顧客へ価値を提供しているのだろうか? と考えます。

将来目指すべき状態を設定するためには、自社のコア技術の見極めが必要です。

 

コア技術は文字通りモノづくり工場での「核」です。

この核を中心にしてビジネスを構築するイメージを膨らませます。

コア技術を意識した戦略を描くと、2つの方向でポテンシャルを高められます。

 

1)核を中心に多くの方向を向いた矢印のイメージ

2)核の内部へ向かう矢印のイメージ

 

ひとつは核を中心にして多くの方向を向いた矢印のイメージです。

核に関連しそうな多くの方向へ、ビジネスを広げられる可能性があります。

核をブラシュアップ、高度化していくことで、独自性を獲得しながら、様々な関連する製品へビジネスを展開することが可能となります。

 

例えば、板金加工技術は自動車業界のみならず、航空産業業界やエネルギー業界へのビジネス展開も可能とします。

核を意識すれば、経営資源の投入を集中させることが可能である一方で、そこから得られた成果を広く市場に問うことができます。

リスクを抑え、新規事業へ挑戦しやすいです。

 

もうひとつは核の内部へ向かう矢印のイメージです。

コア技術を多種多様な製品へ展開することにより、技術の知識が深まり、フィードバックすることで技術自体が鍛錬されます。

コア技術の体系化が進み、質的にも深耕が図られ、独自の強みに磨きがかかります。

 

限られた経営資源を最大限に生かしたい中小のモノづくり工場では、コア技術を意識した工場経営がピッタリです。

効率的な経営資源の投入と成果の最大化を実現できます。

実現したい将来の姿を描くために、会社を支えている「ほんとうのコア技術」を、見極めることが重要です。

 

ウチのコア技術はなんだ? となります。

2.自社のコア技術はお客様に探してもらう

「ほんとうのコア技術」を見極めるのが大切です。

「ほんとうの」とあるのは、「ほんとうではないコア技術」もあるからです。

 

加工を主業としている生産現場の管理者をやっていた頃の話です。

その現場は、月~金あるいは土で昼間8時間稼働、個別受注生産の形態でした。

現場の方針として、夜間でも休みでも、突発で依頼があったらお客様へ対応することにしていました。

 

夜中でも、受注窓口役の担当者へ連絡が入ることもありました。

連絡を受けた担当者は、夜間でも現場の作業者へ指示し、可能な限りお客様の要望へ応えます。

仕事とはいえ、こうした対応を実現してくれた現場の頑張りには、当時、感謝、感謝でした。

 

ですから、こうした対応を可能にしている現場力こそが強みであろうと考えていました。

あるとき、お客様のところを訪ねた際に、ウチのどんなところがイイですか? という話になりました。

当然、先のような対応を、一番に評価しているのではと考えていました。

 

ところが、担当者の方が語ったところでは、少々違っていました。

「お宅へ仕事をお願いする時に、図面とか依頼内容が曖昧でも、しっかりと対応してくれるので、とても助かっています」。」

当然、突発対応への感謝の言葉もありましたが、こうしたエンジニアリング的な対応にこそ、そのお客様は価値を見出してくれていたわけです。

 

こちらとしては、こうした対応が前提で仕事をいただいている、という感覚でしたから、少々、意外でした。

また、その現場には、その地域では他に有していない機種の加工機がありました。

したがって、特定の形状の加工依頼に対しては、とても有利であったので、その加工技術を有していることも強みではなかろうか? と考えていました。

 

が、意外にも、そうではありませんでした。

その加工技術に対する評価のコメントもあったものの、いの一番に評価してもらった、というわけではありませんでした。

当事者が考えている強みと、顧客が評価しているコトとは一致しないモノだなぁ、と強く感じた次第です。

 

工場内の関係者で「自社のコア技術は?」について議論すると、自分たちが関わっている要素技術が上がりやすいです。

切削加工技術がイイ。

金型設計技術に特徴がある。

 

プレス加工なら任せて。

溶接技術にこだわりをもっている。

多様な塗装に対応できる。……等々。

 

そもそも、技能者、技術者というのは自分の技術にはプライドを持っている人種。

以前、自動車部品工場に所属していた時、「ウチの金型の冷却技術は世界一だ」と本気で考えていました。

それは事実であったかもしれませんが、顧客目線で考えれば、そんなコトはどうでもイイことです。

 

お客様が望んでいるのは、自分の要望を形にしてくれた製品であり、それから得られる利便性やコトです。

工場の人間はついつい、日々向き合っている個別の要素技術に目がいってしまうもの。

工場の人間が、はりきって自社のコア技術を見極めようとすると、「ほんとうではないコア技術」を探り出してしまう恐れがある、ということです。

 

巷でもよく言われます、「自分の良さは、自分では分からない」と。

そんな背景もあってか、昨今「自分探しセミナー」の類も活況を呈しています。

ですから、自社のコア技術はお客様に探してもらうのが一番です。

3.自社のコア技術の探り方

将来目指すべき状態を設定するためには、自社のコア技術の見極めが必要です。

したがって、「ほんとうの」コア技術を見極めることはとても大切です。

ここでコア技術の見極めを誤ると、間違った方向へ行ってしまうからです。

 

商売では、顧客はどのような利便性を受け取ったのかとか、どれだけ幸せを感じたのかとか、そのような「コト」へ焦点を当てます。

モノづくりも、結局のところ、誰のためにやっているのかを考えれば、同じような思考プロセスが必要だ、と言うことに気が付きます。

 

高度成長期や80年代末の不動産バブル前頃なら、工場が有する様々な要素技術、個別技術を「コア技術」として、自社工場の強みを発揮できる機会はたくさんあった。

なにせ作れば売れる時代でした。

かいた汗の分だけ報われ、大量生産技術が主役になりました。

 

したがって、供給者目線、モノを造る側目線でコア技術を評価できました。

しかし、今、時代はかわりました。

顧客ニーズが多様化している昨今、まずは、お客様に選んでもらわねばなりません。

 

こちらの事情で勝手に製品を沢山造っても、選んでもらわねば商売になりません。

今は、そういう時代です。

ですから、自分たちのコア技術について、素直にお客様に聞いてしまいます。

 

そこで、メンバーを選抜し、検討を進めます。

工場のチームオペレーションを機能させている現場リーダーと各工程のキーパーソン、設計担当、営業担当、管理部門担当等々。

工場のみならず、会社を機能させている主要メンバーが対象です。

 

経営者の方は検討の過程を常に「鳥の目」で俯瞰する感じで見守ります。

そして、下記の4段階で、「ほんとうのコア技術」を見極めます。

 

1)お客様が評価している利便性やコトは?

2)やっぱりこだわりたい工場の要素技術を見極める。

3)意外と受けているウチの会社の仕組み(システム)はあるのか?

4)「お客様が評価している利便性やコト」へひも付ける。

 

1)お客様が評価している利便性やコトとは?

まず、営業部隊と連携して、お客様からの評価情報を集めます。

客観的な評価です。

・ウチの何がイイですか?

・製品でもなんでも、ウチのイイところを教えて下さい。

 

そして、多種多様なお客様のいろいろな情報が集まったら、以下の問いかけに対する答えをメンバーで考えます。

「顧客はなぜウチと付き合ったら幸せな気分を感じる、あるいは便利さを感じるのだろうか?」

つまり「コト」を探ります。

 

2)やっぱりこだわりたい工場の要素技術を見極める

モノづくりの会社ですから、やっぱり技術にはこだわりたいです。

技術的な判断基準で、強みとなり得る要素技術、個別技術を選びます。

 

3)意外と受けているウチの仕組み(システム)はあるのか?

営業スタイル、納品時の対応等、お客様目線で評価が高い仕組み(システム)をお客様の声を基に探ります。

 

4)「お客様が評価している利便性やコト」へひも付ける

最後に、2)と3)で挙げた項目と「お客様が評価している利便性やコト」とをひも付け、どのようにつながっているのか整理します。

最後の4)の段階まで至れば、見えてくるものがあります。

4.とは言ってもやっぱり経営者の想いがイチバン

・今の時代、ウチにしかできないモノなど存在はしない。

・顧客は必要ならモノなら、世界中から手にできる環境にある。

・だから「コト」に注目する。

 

「ほんとうのコア技術」を見極めるにあたっては、上記のように考えるのが重要です。

造る側、モノから考えるのではなく、とにかくお客様目線です。

ただし、もっと大きな判断基準があります。

 

経営者の想いです。

「コア技術」を探る手順や手法がありますが、経営者の想いに沿って「コア技術」を創出することも忘れてはなりません。

こちらの方が“熱い”仕事ができます。

 

市場に向き合う姿勢も大切ですが、自ら市場を創り出す積極性は、それ以上に価値があり、会社、現場を活気づけます。

モノづくりの会社はそのようなものです。

 

まとめ。

コア技術は、4つのステップで考える。

 

1)お客様が評価している利便性やコトは?

2)やっぱりこだわりたい工場の要素技術を見極める。

3)意外と受けているウチの会社の仕組み(システム)はあるのか?

4)「お客様が評価している利便性やコト」へひも付ける。

 

しかし、やっぱり、それ以上に経営者の想いが大切である。

「ほんとうのコア技術」を把握するためには顧客が評価している利便性や「コト」に焦点を当てる。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)