グローバルに頑張る中小モノづくり企業の事例
「ほんとうのコア技術」を生かしターゲットを絞れれば尖った高付加価値製品(サービス)の開発が可能である、という話です。
1.市場成熟化のもとで付加価値拡大を実現させるコア技術
存続と成長のためには付加価値の拡大が欠かせません。
付加価値拡大の原動力のひとつはコア技術です。
生産とは「素材など低い価値の経済財を投入して、より高い価値の財に変換する行為又は活動」です。
変換するためには、“技や道具”が必要です。
この“技や道具”に相当するのがコア技術です。
そして、コア技術は固有技術と管理技術の2つから構成されます。
つまり、コア技術 = 固有技術 + 管理技術
良いモノづくりは職人芸だけでは成り立たずチームワークも大切であるということです。
モノづくりで稼ぐ製造業ではこのコア技術をしっかり見極め、新たな市場や顧客を開拓します。
従来の下請型のモノづくりだけでは存続と成長は難しいです。
コア技術に焦点を当てて技術を磨き、取引先を多角化します。
こうした取り組みは、決して下請型の製造業に限ったものではありません。
自社ブランドを有しているメーカーでも同様です。
市場の成熟化へ対応するためです。
市場の成熟化が進む外部環境のもとで付加価値を拡大させねばなりません。
活用すべき経営資源はコア技術です。
2.作業工具メーカーのコア技術から生まれたものとは?
新潟県三条市のマルト長谷川工作所はペンチやニッパーなどの作業工具を製造している従業員128人、売上高は約14億円(2015年12月期)のメーカーです。
主力の作業工具は「KEIBA」ブランドで海外でも一定の知名度があり、すでに売上高の6割を海外で稼ぎ出しています。
ただし、売上高の8割を以上を占める工具は国内でも国外でも需要の拡大が見込みにくく、その一方でアジアの新興メーカーの進出が目覚ましいそうです。
自社ブランドを持って市場に直接向き合って頑張っているメーカーも安泰ではありません。
成熟化した市場でも存続と成長を果たせなければなりません。
付加価値の拡大です。
そこで、社長の長谷川直哉氏は爪のケアの専門家であるネイリスト向け新商品を開発しました。
その新商品とは高級爪切りです。
高級路線で欧州を中心に市場開拓を目指しています。
2013年に新ブランド「MARUTO」を立ち上げたそうです。
市販されている爪切りとは違ってニッパー型の爪切りで、2015年にグッドデザイン賞を受賞をしています。
この「MARUTO」の爪切りは力を入れなくてもサクッと切れます。
職人が刃先に隙間ができないようにひとつづつ手作業で刃付けしているからだそうです。
ニッパーやハサミの切れ味が刃先の隙間の有無にあることを初めて知りましたが、ハサミの切れ味のキモはここにあるということです。
このキモを実現できる技術がマルト長谷川工作所のコア技術(固有技術)です。
職人さんの持っているノウハウです。
また、新たにターゲットにした顧客が振るっています。
工具といえば合理的で、機能優先、実践向けというイメージです。
それに対して、ネイリスト向けという美容分野は真逆のイメージではないでしょうか。
感覚的、感性が求められ、主観が幅を利かせる分野と思います。
このネイリスト向け爪切りの価格は数千円~3万円です。
そもそも、爪切りとしては一般顧客にはなかなか手の出ない価格です。
そこで、よく切れるという機能性に加えて、デザインも凝ることで付加価値を高め、ネイリストの心に響く商品に仕上げています。
コア技術を顧客の多角化へ生かし、価格競争を回避する戦略とのことです。
長谷川社長の着眼点になるほどです。
さらに、商品は一旦販売すると終わりですが、購入客との関係を強化することで、継続的なファンを獲得する努力もされています。
標的としている欧州向けに刃の研直しなどのアフターケアの体制を構築しています。
ブルガリアの刃物職人を地元の三条工場へ招いて日本流の刃付けを伝授し、欧州での補修サービスを委託しています。
マルト長谷川工作所の製品の良さが、日本に招かれたブルガリアの刃物職人の口コミで欧州へ伝わることも期待できそうです。
(出典:『日本経済新聞』2016年3月7日 地域発世界へ)
ネイリストという一見狭そうな標的顧客ですが、グローバルで見れば事業を成立させる規模が確保できそうです。
コア技術(固有技術)を文字通り事業の中心に据え、ターゲットを設定し直し、サービスも加えて付加価値を高める。
「ほんとうのコア技術」を生かしターゲットを絞れれば尖った高付加価値製品(サービス)の開発が可能です。
「ほんとうのコア技術」は事業発展の可能性を広げてくれます。
また、従来顧客の真逆の性質を持つ顧客でもコア技術を生かすことができることが分かります。
特色を持って標的顧客を絞ることは、見込客を少なくすることではなく、逆にコア技術の強みを活かした独自性を目立たせる機会にもなる。
地域でグローバルに頑張っている中小モノづくり企業の事例です。
まとめ。
「ほんとうのコア技術」を生かしターゲットを絞れれば尖った高付加価値製品(サービス)の開発が可能である。