クルマでできて、ウチの製品でできない理由はない

クルマでできて、ウチの製品でできない理由はない

マスカスタマイゼーションでは、特注生産でありながら大量生産の効果を狙う。不良品ゼロを目指す、という話です。

 

1.マツダの「計画順序生産」

中小モノづくり企業が新たな付加価値の創出を目指して取り組みべきテーマは、マスカスタマイゼーションと超短納期です。

顧客視点のテーマです。自分にあったものを短時間で手にいれたい。個人でも法人でも、これが究極の要望です。

この要望の中に、「安く」は入っていないことに注目です。

自分の要望に合うならば、お金を出してでも購入する顧客がターゲットです。

 

ですから最大公約数的なイイものを安く造るという発想を捨てます。

多品種少量から変種変量、そしてマスカスタマイゼーション。柔軟なモノづくり力が問われます。

 

自動車メーカーのマツダが、大手に対抗するために磨いてきたのが柔軟なモノづくりの力です。

クルマでできて、ウチの製品でできない理由はない

マツダで最も古い車両工場である宇品第1工場(広島市南区)。

ここの組み立てラインには、「ロードスター」「CX―3」など8車種が流れています。

オープンカーからミニバンまで多様な車種が同じラインを流れてくるのに、作業はスムーズです。

この混流生産を完璧にこなすために、マツダが採用している手法が「計画順序生産」です。

次のような特徴があります。

  • 1台単位で生産する順番を決める。
  • 工場では、実際にその通りにクルマを作る。
  • 部品メーカーもそれに同期して順番に部品を納入する。

1台単位で流しています。

同種の車種をまとめて生産するイメージではありません。ラインを流れてくる車が車種や色で皆、違っているのです。

マツダの地道な取り組みの成果です。

 

さて、これを現場で実践するため、絶対に必要となる前提条件があります。それは何でしょうか?

そうです、不製造の品質を高めることです。

具合が発生して、ラインからはじかれることがないようにしなければなりません。1台でもラインからはじかれると、即、順番が狂うからです。

原材料や加工技術、組み立て作業等、生産活動へ投入される経営資源の品質(クオリティー)を徹底的に上げないとできません。

当然、部品の品質もです。

その結果、生産計画の順守率は00年に34%だったのが15年にはほぼ100%に向上。

生産リードタイムは、00年に平均5直(1直は約8時間)だったのが15年は同3.75直に短縮しました。

当初部品メーカーには、疑心暗鬼もあったようです。それをラインを止めても生産順序を守ると言って信頼を得ながら取り組みました。

そうした地道な取り組みの成果です。

 

現行4代目の小型車「デミオ」は、00年当時の初代デミオに比べ、使う部品は1.59倍に、クルマの仕様の種類も1.54倍に増えています。

にもかかわらず、生産リードタイム、納期順守率ともに向上させることができています。

(出典:日刊工業新聞 ニュースイッチ 2016年12月20日 大量個別生産の時代を見据える)

 

2.クルマでできて、ウチの製品でできない理由はない

クルマの部品点数は2万点とも3万点とも言われています。

そうした製品を組み立てる生産ラインで、原則、不具合品ゼロを維持しているのがマツダでの話です。

 

では、自社工場で製造している製品の構成部品はいくつでしょうか?クルマでできていることが、自社製品でできないわけはありません。

マスカスタマイゼーションを実現させる時に直面するのが不具合品、不良品、手直し品の発生問題。仕様が多岐にわたっています。

したがって一定の不良率を認めると、余分に持たねばならない部品や原材料が膨大になります。

マスカスタマイゼーションでは、色、形、厚み、重さ、などの組み合わせが無数です。

特注生産でありながら大量生産の効果をいかに出すかがカギとなります。

 

不具合品、不良品、手直し品の発生を前提としていると、儲ける話には絶対につながりません。

究極の1個流し生産を安定して実現させるとともに、生産リードタイムの短縮も考えます。

すると、不良品ゼロが必達事項です。ですから、不良品ゼロを目指す。

現状のやり方や発想をしている限りは、おそらく「できない理由」ばかりが出てくるでしょう。

現状のやり方や発想を全部捨てることが求められるのです。

ですから、不良品ゼロの取り組みはイノベーションです。

 

以前、自動車部品の製造ラインをゼロから設計検討したことがあります。

既存ラインでの実績をベースに考えたところ……。スペースが全く足りなくなりました。

生産ラインの本流から無数の枝ラインを出しその先に、手直し作業をするスペースを確保したからでした。

前工程から順に不具合品が発生したら、その場で手直しして即流す。

コンセプトとしては悪くはないのですが、工程毎に手直し品をはじくコンベアとその先には作業スペースが必要となります。

貴重なスペースが、そうしたところにドンドン「浸食」されてスペースが足りなくなったわけです。

 

その時、不良品ゼロの発想までには至りませんでした。上司からは工夫はないか?とも問われました。

しかし、当時の私も「できるわけがない」との思い込みがあったようです。それ以上、深い議論はやりませんでした。

今、思えば、思い込みを排除して、新たな発想を展開すべきでした。

ただ、毎日、既存技術の限界を見ていると、新たな発想になかなか至らないのかもしれません。

そこで、今後のイノベーションのために、「怖いもの知らず」の若手人財に自由な発想をしてもらう「場」の設定なども重要な仕事です。

既存技術にとらわれずに、自由な発想ができる訓練も欠かせません。

 

マスカスタマイゼーションを目指すならば不良品ゼロの発想が求められます。

できない理由ではなく、できるためには何をどうするのか、アイデアが出せるようにします。

 

既存の技術にとらわれれずに新たな発想が展開できますか?

マスカスタマイゼーションを実現するとき直面する問題を把握できていますか?

 

まとめ。

マスカスタマイゼーションでは、特注生産でありながら大量生産の効果を狙います。不良品ゼロを目指します。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)