カイゼン活動で3Dプリンターを生かせるの!?
新技術を導入するにあたって十分に“今”を調べ尽くしましたか?
現場が“あったら便利だから”と言っているので、導入したら役に立つとは思っているけど。
導入してから現場と使い方を考えようか……。
3Dプリンターを現場へ導入しようとする場合、どのようなことを考えればイイだろうか?
製品の高付加価値化と改善活動の加速化の視点で、できそうなことを考えます。
現場の改善活動では、制約条件のために、できないことからあげてみます。
新技術導入にあたって事前の検討は不可欠です。
1.昔はラピッドプロトタイピングといっていた
モノづくりの業界では今後3Dプリンターがイノベーションを引き起こすキッカケになるのは確実です。
3Dプリンティングは草創期を過ぎて、現在、活用面が広がり始めていると考えられています。
実用段階突入です。
3Dプリンティングは1990年代にラピッドプロトタイピング(RP)とよばれていました。
自動車部品の工場に勤務していた時、社内でRP装置を購入し、試作用途に活用したことがあります。
私の勤務していた工場で扱う自動車部品の試作品を作ってみました。
図面で表現された形状では、よほど想像力がたくましい方でもないかぎり、その形状を正確に思い描くことは不可能です。
ですからこうした装置で、短時間で手に取って形状を実感できる試作品が出来上がるなら、とても便利であろうなと感じたことを思い出します。
ただその装置は200×200×200程度の立方体の空間内で成形可能なモノという寸法上の制約条件があり、本格的に使う機会はその後ありませんでした。
研究目的でした。
さて、今でもそうだと思いますが、一般的には試作で木型(モックアップ)を作製します。
ただし、この方法では当然、時間がかかりコストも高い。なにせ職人が手作りで、仕上げる部分が多いから。
2.3Dプリンティング・イノベーションによって得られもの
いよいよ、試作目的には本格的に適用され、さらに最終製品を造るための手段にもなりそうなのが、この3Dプリンティングです。
『日経ものづくり』でも2014年、2015年にそれぞれ1回ずつ特集を組んでいるほどですから、それだけ注目されている技術です。
2014年時点では、試作品の製作が中心で、最終製品への適用はまだまだ、という雰囲気でした。
それが、1年後の2015年時点では、既に最終製品に適用し始めた事例が出ています。
最終製品の製造にどのように活用できるのだろうか? というのが議論の中心になっています。
3Dプリンティング・イノベーションによって得られものとして『日経ものづくり』2015年6月号では以下の5点をあげています。
1)1個ずつ製造でき、バリエーションも造りやすい。
在庫を持たずに済み、マス・カスタマイゼーションに対応できる。
2)伝統工芸や既存技術と組み合わせ可能。
従来にない付加価値を実現できる
3)データを送ればどこでも同じものが造れる。
開発のオープンソース化が進む。
4)既知の工法では簡単にできないものが造れる。
これまで不可能だった設計が可能になる。
5)既存の工法より生産性向上やコスト削減の可能性。
QCDの向上。
工場の存続と成長のためには付加価値の拡大が欠かせません。
そのために取り組むべき方向性は次の2つです。
1.マス・カスタマイゼーション
2.超短納期化
自社製品や自社が持つ固有技術へ、この2の方向性を適用したらどうなるでしょう。
将来構想を考える時の切り口になります。
さて、我々中小企業モノづくり工場が3Dプリンティングを活用するとして、次の2つを狙いに、イノベーションを達成できないか考えます。
(1)既存技術と組み合わせて既存製品の高付加価値化を狙う
(2)治工具類へ適用し現場のカイゼン活動を加速させることを狙う
既存技術と組み合わせて既存製品の高付加価値化を狙う
いきなり製品丸ごと全部へ3Dプリンティングを適用するのではなく、製造プロセスの一部をこの装置で置換する、製造プロセスへ付加することで、既存製品の高付加価値化を狙います。
3Dプリンティングを最終製品へ適用する場合、次の3つがあります。
ここで既存製品として、部品A+部品B+部品Cの3部品の組立品を想定します。
これに3Dプリンティングを適用する
既存製品 部品A+部品B+部品C
案1 部品A+部品B+(部品C)
案2 部品A+(部品B+部品C)
案3 (部品A+部品B+部品C)
※( )で括った部品を3Dプリンティングに適用します。
案3は製品全部丸ごと3Dプリンティングです。
トランペットの練習用消音器やヨーヨーの製造販売事例がありました。
究極のカスタマイズ化です。
1個ずつ顧客別に製造可能です。
我々はまず、案1と案2から検討を開始したいです。
案1は、部品単独で付加価値を高められないかという視点です。
製造上の制約があってどうしてもできなかった形状を、“この部品”に適用すれば、機能アップによって付加価値アップ間違いなし! というケースです。
板金加工でのR形状や鋳鍛造加工での抜け勾配やアンダーカット形状等。
従来製法ではありえない形状を適用すると顧客がそれ欲しい! となるかどうかです。
さらに、案2は、案1と同様な考え方ですが、部品と部品を一体化形状にしたうえで特殊形状を実現させることで、機能がムチャクチャ向上しないかという視点です。
どちらもポイントは機能がムチャクチャアップするか否かです。
案2の場合、部品の一体化のみではコスト削減程度の効果しか得られず、インパクトは小さいです。
狙いは、あくまで高付加価値化です。
この考え方は、日本が得意とする、摺り合わせ型のモノづくりをベースにします。
既存の製造プロセスをトコトン使いこなしていることが前提です。
また、自社製品のことをトコトン知りつくしていなければなりません。
特にその製品を使用するユーザー目線が必要です。
治工具類へ適用し現場のカイゼン活動を加速させることを狙う
もしこんな形状の段取り治具があったら能率があがるよなぁ、とか
こんな検査治具があったら検査が早く精度よくできるよなぁ、とか。
従来はコストや納期の制約上のため、実現できないとあきらめていた希望を叶えられるかも、ということです。
現場としては、こちらの方が考えやすいです。
3Dプリンターの特性を知ることで、カイゼン活動の幅も広がります。
例えばこんなことが以前ありました。
塗装工程でマスキングが必要な製品がありました。
マスキングは外部に製造をお願いしていました。
生産上、マスキングは数万個準備します。
樹脂製マスキングなので、金型が必要でしたら、いつ金型の製作にゴーをかけるか、これがいつも問題になっていました。
生産開始のかなり早い時点から、金型製作を指示して準備を開始していれば、生産開始までには時間がたっぷりあり、準備は間に合いますが、その途中でマスキング形状の不具合が見つかったりしたら、もう大変です。
マスキング形状修正のための金型修正等の影響で、その後の計画が綱渡りです。
また、逆に、じっくり試作を通じて最適なマスキング形状を見極め、それから金型製作のゴーをかけていては、生産管理担当者から、オソイ!! の一言となります。
意外と扱いが面倒な治工具でした。
ここで、もし3Dプリンターがあれば、担当者はこのストレスから解放されます。
つまり、使っている治工具の改造、あるいは従来にない視点で新規治工具へイメージを膨らませます。
リコーでは、大型プリンターの組立工程の部品配膳トレーに適用しています。
大型プリンターは生産台数が少ないが仕様が多く、多品種少量生産。
手作業の組立てで対応しなくてはならない。
部品の付け間違いや付け忘れは、最も避けなければならないコト。
従来は単純に仕切りで区分した配膳トレー(おせち料理の重箱のイメージ)だった。
区分されたエリアに所定の部品を入れていた。
ただ、仕切りで区分していただけだったので、区分箇所へ誤った部品を入れることが物理的に可能な状態であった。
そこで、その部品のみしか入らないように形状にフィットした収納形状とした。
その仕様専用の部品トレーを、3Dプリンターで都度製作するようにしたわけです。治工具のカスタマイズ化といえます。
おそらく、装置の価格を考慮すると、現時点での購入はないかもしれません。
ただし、今後、機能がアップした上に手頃な価格の装置が出てくることは期待できます。
競合が使い始めたようだからとか、なんとなく周りから勧められたからとかではなく、今から計画的に考えて、導入の時期を探ってみたいものです。
常に導入の狙い・目的・効果を明確にしておくことで、その時に至れば、即、成果が出ます。
新設備を導入する際に欠かせないことは、“今”を知り尽くしていることです。
まとめ
3Dプリンターを現場へ導入しようとする場合、どのようなことを考えればイイだろうか?
製品の高付加価値化と改善活動の加速化の視点で、できそうなことを考えます。
現場の改善活動では、制約条件のために、できないことからあげる。
新技術導入にあたって事前の検討は不可欠。
3Dプリンターを現場の改善活動に生かすとしたらどのような場面で使えるだろうか、アイデアを出してみる。