イノベーションを促す組織の学習能力を高めるには?
現場と一体となってトライした開発業務の履歴、特に失敗の実績を一元管理できる体制はイノベーションを促すためには欠かせない、という話です。
1.高機能化の技術開発で役に立つ経営資源
既存商品(製品)の技術開発と製品開発では「高機能化」が目的になることがあります。
コスト削減を目指した生産性向上のアプローチとは異なり、その部品や製品の設計、開発段階にまで遡って検討をする事態に直面することが多いはずです。
この場合、モノづくりの核心に迫った工学的な問題を解決することで、高機能化という課題を達成できる。
自社製品、自社技術の本質をいかに深く理解しているかがポイントです。
技術開発を進める際には、まず、
第一段階:現行技術(製品)を知り尽くし極める。
第二段階:検討のフィールドを広げて、組み合わせる。
というように、今の技術を知り尽くすところから始めます。
長年、生産活動にかかわってきた現場にはノウハウや知識、経験が蓄積されています。
このような情報は共有化されて初めて価値を生みます。現場に埋もれた暗黙知のままでは、組織へ貢献してくれません。
こうした暗黙知を形式知へ変換しデータベースへ蓄積することで貴重な情報的経営資源となり、現場での研究開発業務の効率を高めるのに大いに役立ちます。
データベースだからと言って、ITを活用した仰々しいシステムを構築することは必ずしも必要ではありません。
手書きの報告書でも可。ちょっとしたレポートの形式でまとめた報告書で可。
そうした情報が、必要な時に後々、目を通すことができるように一元管理できていれば、それでいいのです。
現場でトライした様々な研究的、実験的な取り組みの結果は都度、整理して蓄積していく仕組みを構築したいです。
2.高機能化の検討は時間がかかる
高機能化はモノづくりの本質に迫ります。
ですから、乗り越えなければならない課題が工学的知識を必要とする場面が少なくなく、その検討にもお金や手間がかかることが多いです。
耐久試験や防錆試験などでは、長期的な試験計画が必要にあることもあります。つまり、片手間ではできない仕事です。
ある構造物の構成部品が錆びるので対策をお願いしたいという営業部隊からの要望に応えるため、当該部品の防錆力を高める検討をしたことがあります。
上司から検討をして欲しいとの指示があり、まずは、現状把握と共に問題解決のために使えそうな要素技術を洗い出しました。
当該部品は、従来、一般の配管用炭素鋼鋼管(SGPパイプ)をベンダーで曲げ、一部部品を溶接して塗装をするものでした。
そして、肝心の防錆機能は塗装(下塗り+色)によっていました。
当該部品は野外に暴露される環境に放置され、さらには、海辺近くで塩分の影影響を受けるケースもある……。
したがって、暴露される環境によっては錆びが発生する事例が散発していたようです。
そこで、錆びないための要素技術を洗い出しました。
塗装技術、溶接技術、加工技術(ベンダー)、そして材質変更……。
先の技術開発の水準で言えば、第一段階から第二段階にかけての展開です。検討項目は10項目以上ありました。
この当該部品の防錆力アップというテーマで過去どのような検討履歴があるのか事務所内では提示されませんでした。
かって検討した人がいたのか、いないのかもよくわからない状況でした。
そこで、現場にヒアリングにいきました。
先にあげた塗装技術、溶接技術、加工技術(ベンダー)等検討対象になる可能性の高い要素技術を担当している各工程のキーパーソンと話をしたわけです。
上司から検討の指示を受けた時点では、まだ、その現場での業務経験は浅く、これまでの経緯に関する情報をほとんど持っていませんでした。
このような私にとっては、まず、現場から情報を収集するというのが定石。
現場へヒアリングをした結果、…………。
3.現場の創意工夫は経営資源として蓄積する
同様なテーマで他の人が検討した実績があることを知りました。
現場にしてみれば、「また、同じことを始めたのか……。」です。
つまり、同様な目的で数年前、どなたかが検討し、その結果は特別に整理されることもなく、現場へ結果が知らされるでもなく、なんとなく上手くいかなかったという雰囲気で取り組みが終わっていた。
それにかかわった一部の人のみが、経験した実績を記憶しただけで終了していました。
現場にしてみれば、「またかい……。」となります。
往々にして、こうした研究開発の要素を持った仕事では、現場の頑張りがスマートに記録されず、属人的な形でしか結果が残っていないことがあります。
すると、しばらく期間を置いて、再び同じようなことを事務所の人間がやろうと考える。
すると、現場から「また同じことやるのかい……。」という声が上がる。
生産活動を優先する余り、技術イノベーションに欠かせない技術開発や製品開発の活動結果、特にうまくいかなかった事例、失敗した事例の重要性が見逃されていませんか?
もったいない対応をしているモノづくり現場が多いのではないかと感じています。
こうした工学的知識を必要とする水準の課題に対応する時は、現場にも工夫を求めます。
そうして現場も頭に汗かきながら知恵を出します。
トライした結果が上手くいかなくても、上手くいかなかったこと自体が極めて重要な情報です。
現場も創意工夫したが、こうして上手くいかなかったという情報は、先々問題を解決する取り組みの効率を上げるのに役立ちます。
現場での開発業務を速めるため、モチベーションを高めるためにも重要なことです。
結果も知らされず、実績も記録されないような環境にあっては、現場で技術イノベーションが生み出される可能性は当然低くなります。
こうした環境で仕事をやっていては、自らの有能性を感じる機会がないからです。
やりっぱなしでは、生産活動の合間を縫って協力してくれた現場に対して、失な対応になっていることにも留意すべき。
先の防錆力をアップさせるための検討においては、現場へヒアリングした結果検討すべき項目が半分くらいに減りました。
現場は過去にやって上手くいかなかった実績を記憶していてくれたからです。
同じ轍は踏まないことで開発業務の効率は格段に上がります。
根本的には、開発業務が属人的な対応になっていることが問題です。
さらには、開発業務が属人的な対応になっていること自体を問題視しない会社も感度が低いと言わざるを得ません。
現場の協力なくして技術イノベーションへ至るような技術開発や製品開発は成就しないことに気が付けば、生産活動ばかりではなく、研究開発業務に関連した仕組みの重要性に思い至るはずです。
現場と一体となってトライした開発業務の履歴、特に失敗の実績を一元管理できる体制はイノベーションを促すためには欠かせません。
手書きのレポートや記録でも構わないのです。
現場が生産活動の合間に試みた実験や試作、開発業務の実績を見える化することで、研究開発業務への現場の協力も得やすくなります。
現場も生産活動+αの取り組みにもやりがいを感じる。
これはモノづくり現場の存続と成長を左右する重要事項です。
なぜなら、イノベーションを促す組織の学習能力が問われるからです。
まとめ。
現場と一体となってトライした開発業務の履歴、特に失敗の実績を一元管理できる体制はイノベーションを促すためには欠かせない。
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