もうかり続ける工場経営は「飛行機」からも学ぶ

もうかり続ける工場経営は「飛行機」からも学ぶ

現場のリーダーは生産ライン全体の統合力を、また各工程のキーマンは個の強さを発揮し、チームオペレーションを機能させる、という話です。

チームオペレーションを最大限に機能させるためにはどうしたらイイだろうか?

現場リーダーは、生産ラインのすべてを理解し、部分最適と全体最適を学びます。

 

そのために、計画的に、意識して人財教育をします。

各工程のキーマンには自発性を発揮できる環境を提供し、積極的な行動を促します。

MRJとHondaJetの話が参考になります。

1.今後の飛躍が期待される日本の航空機産業

2015年11月、三菱航空機と三菱重工業が開発した国産小型ジェット旅客機「MRJ」が初飛行に成功しました。

その様子がテレビでも報道されました。

航空機は部品点数が膨大で、100万点に及ぶと言われています。(ちなみに自動車は3万点程度)

 

自動車産業と同様に裾野の広がりがある航空機産業です。

その航空機産業は、今後、日本の基幹産業に成長することが期待されています。

そのような事情もあり、注目度が高まりました。

 

それに、ロケットなんかもそうですが、飛行機というのは、それ自体がなにか“夢”を感じさせます。

おのずと国産初の小型ジェット旅客機への注目が集まります。

また、ホンダも独自に7人乗りビジネスジェット旅客機HondaJetを開発しました。

 

ホンダ創業者の本田宗一郎は航空機業界への参入という夢を持っていました。

1953年の時点で、ホンダはすでに国産軽飛行機の設計者を募集していました。

HondaJetの開発を1986年に着手、そこからさらに約30年の期間を経て、ようやく製品化に至っています。

 

夢を持たねば継続できない事業です。

今では信じられないことですが、日本の航空機産業が世界有数の技術力と規模を誇っていた時代がありました。

1940年代、太平洋戦争の頃です。

 

米国、ドイツ、英国と肩をならべ、年間2万5000機を生産し、100万人の雇用を生んだと言われています。

戦闘機で有名なゼロ戦や隼などのプロペラ機だけでなく、ターボジェット戦闘機やロケット戦闘機なども開発されたというから驚きです。

しかし、1945年の敗戦をきっかけに日本航空機産業は長いトンネルに入りました。

 

それから現在に至るまで国内で開発された民間航空機はターボプロップエンジン方式(プロペラ機)の国産旅客機「YS-11」ですが、事業としては失敗に終わり、最終的に生産中止に追い込まれています。

一方、防衛分野では米国の戦闘機をライセンス生産することで国内の航空機関連メーカーは地道に事業基盤を整備してきました。

こうした状況下で、三菱とホンダという日系メーカーによって新たな航空機が開発されました。

 

日本の航空機産業がこれから飛躍することを期待したいです。(出典:『日経ものづくり』2015年12月号)

2.もうかり続ける工場経営は「飛行機」からも学ぶ

モノづくりの立場からMRJとHondaJetを眺めると、学ぶべき事項があることに気が付きます。

2つです。

・MRJでは、これからインテグレーター(統合者)の力量が問われる。
・HondaJetでは、「個の強さ」で統合的な開発力を発揮した。

 

中小モノづくり工場の現場をとりまとめる現場リーダーや各工程のキーマン。

その現場リーダーや各工程のキーマンのあるべき姿が浮かびあがります。

もうかる工場経営では欠かせない論点です。

 

2-1 MRJではこれからインテグレーター(統合者)の力量が問われる

世界の航空機産業で、日本は部品メーカーとしての存在感を高めてきました。

例えば、ボーイング社の中型旅客機「787」ではさまざまな部品を供給する日本のサプライヤーは60社にのぼります。

  • 東レ:炭素繊維複合材
  • 神戸製鋼:チタン合金
  • 前部胴体:川崎重工
  • 中央翼:富士重工
  • 主翼:三菱重工
  • IHI、川崎重工業、三菱重工業:ジェットエンジン部品
  • タイヤ:ブリジストン
  • リチウムイオン電池:GSユアサ
  • 機内AVシステム:パナソニック・アビオニクス

等々。

 

こうした航空機業界でくすぶっていたのが完成機を開発したいとの想いでした。

(日本メーカーは国際)共同開発を進めているとはいえ、構想設計/基本設計など、事業の初期段階への本格的な参画には至っていない。

このため技術基盤の核をなすシステム・インテグレーション能力を育成強化するうえ

では多くのことを期待できない。

本質的には何より(完成機)の自主開発を目指さなければならない。

2003年に日本航空宇宙工業会が発刊した「日本の航空宇宙工業50年の歩み」に掲載されている一節です。

製品は全体を造らないと本質を理解できない、ということです。

日本の複合材料、最適設計を可能にするコンピューター・シミュレーション技術等の要素技術のレベルはとても高いです。

 

しかしながら、それを統合して航空機に造り上げるシステム全体のマネジメント力はノウハウや経験がないために低い。

日本の航空機産業は部分最適化には優れるが全体最適化の力に劣るというわけです。

いよいよ、日本もMRJを通じて航空機産業でのインテグレーターとしての能力を磨く機会を得ました。

 

今は、まだ、そうした全体を統合する能力が不足しているので、計画が遅れたりする事態になるのかもしれません。(実際、納期が遅れるような報道があったようです)

けれども、国内自動車産業の強みと指摘されるように、もともと日本人は摺り合わせの能力に長けています。

部分部分を調整し、摺合せ、全体の最適化を図る力です。(インテグラル型アーキテクチャーです)

 

こうした本来日本人が持つ強みを生かせばMRJの事業も成功すると期待されます。

こうした経緯を踏まえると、モノづくりは継続性がとても重要であることを実感します。

現場に存在するノウハウを維持するために、事業を継続することが大切です。

 

モノづくりを一旦やめてしまうと、そのノウハウはことごとく消え、再度、事業に挑戦しようと考えた時には、取り返しがつかない残念なことになっています。

また、自社製品が、個と個を摺り合わせて調整し、全体を仕上げる製品であるならば、そのノウハウは極めて貴重です。

自社工場を見渡します。

 

各工程には強みとなっている固有技術があります。

切削、プレス、溶接、曲げ、熱処理……様々な要素技術がそうです。

ただ、モノづくりは、その工程単独では成立しません。

 

工程と工程をつなぐところにも工夫が存在しています。

モノづくりでは、全体最適の視点が欠かせません。

そこで、個別の要素技術に加え、摺り合せのノウハウも把握しておきたいです。

 

このノウハウは、最適コストでの生産を実現するために欠かせません。

こうした情報は設計部隊と共有します。

現場の摺り合せノウハウは、設計力、特に組立容易性を考える力を高めます。

 

モノづくりの部分最適化と全体最適化という視点で現場を眺めます。

 

2-2 HondaJetでは「個の強さ」で統合的な開発力を発揮した

HondaJetの姿を目にすると、その特徴をすぐに理解できます。

通常、エンジンは、主翼の下に懸架装置でつりさげられています。

ところが、HondaJetでは、エンジンが主翼の上側に配置されています。

 

シミュレーションを繰り返して空気抵抗が低くなる最適な位置を見つけました。

さらに、「自然層流翼」技術を導入しています。

特徴的な主翼の形状になっています。

 

こうした技術により、競合する小型ビジネスジェット機と比べて、最高巡行速度では

30〜60km/H上回る778㎞/Hを、また燃費効率では20%程度上回っています。

このHondaJetの全体設計は一人のエンジニアによってなされています。

 

ホンダ エアクラフト カンパニー社長の藤野道格氏です。

航空機を開発するとき欧米企業では技術者の役割分担が細かく決められています。

マネージャーの役割はこれを統合し、全体システムとして仕上がるようマネジメントすること。

 

航空機業界は、一般的にこうした分業体制がきっちりしているので、航空機を航空機全体から考える力は弱い。

一方でホンダの藤野氏は設計をすべて一人で進めました。

その結果が、特徴的な外観を呈するHondaJetの姿です。

 

革新的な「自然層流翼」技術は翼型と機体全体を別々に設計すると発想はできなかった。

全体最適の視点があってこその成果です。

さらに藤野氏はリーダーの役割について、次のように語っています。

大規模システムをつくる上では、リーダーがしっかりとシステム系全体をシステマチックに理解する一方、要素技術などのディテールもきっちり理解する必要があります。

技術的な細部まで理解しながら全体をまとめることが必要だ、と言うと、そんなことはできるわけがない、と反発する人も多いですが、私は努力をすればできることだと思っています。

 

さらに、「個の強さ」について次のように語っています。

 

たとえ1人でもお金がなくても頑張れば結構なことができるという、そういう考えの人が何人か集まったときこそ、本当の意味で大きな仕事ができるのではないかと思います。

まず最初は個としてチャレンジすることが大切なんです。

(出典:『日経ものづくり』2015年12月号)

3.現場のリーダーは生産ライン全体の統合力、現場キーマンは「個の強さ」

経営者の方が常に現場にいることはできません。

しかしながら、現場の状況をしっかりと把握しておくことは工場運営では欠かせないことです。

ですから、いつもいるわけでないその経営者の替わりに、現場の状況をしっかり把握しておくためにチームオペレーションを機能させます。

 

各工程のキーマンと現場を取りまとめ、経営者の右腕役を担う現場リーダー。

藤野氏の言葉はチームのメンバー役割、かくあるべき、という点で共感できます。

現場リーダーは生産ラインのすべてを理解している状態が望ましい姿です。

 

生産ラインの全体最適化には、生産ライン全体を掌握している必要があります。

生産ラインで発生するトラブルの原因には必ず設備的な要因を含みます。

トラブルを認知した瞬間に思い浮かばねばならないのは推定原因です。

 

具体的な対象設備です。

こうした判断力は生産ライン全体を理解していないとできないことです。

現場リーダーは各工程の要素技術が分かっているし、ライン全体も理解できる。

 

こうした状態に至った現場リーダーは自分の業務に自信を持つことができます。

また、現場全体が、その現場リーダーの力量や存在を認めることで、

現場リーダー自身も自覚が促されます。

 

ただし、当然、現場リーダーがそうなるまでには時間がかかります。

ですから、計画的に、意図的に人財教育を進めたいです。

全体を理解している現場リーダーが育った現場はまとまりがイイです。

 

経営者の方も安心して任せられます。

現場リーダーを、時間をかけてじっくり育てる意識はとても大切です。

また、現場リーダーを支える各工程キーマンには自律性、自発性を発揮してもらいます。

 

ですから、自律性や自発性を発揮しやすい環境を整備します。

藤野氏も語っていますが、まずは、一人ひとりのチャレンジの気持ちです。

個として強い、個として積極的な人財が集まったときにこそチームオペレーションが最高のパフォーマンスを示します。

 

依存性が強い、他のメンバーが何とかしてくれという姿勢ではチームは機能しない。

チームではあるけれど、取りまとめ役に現場リーダーがいるけれど、まずは、自分が積極的に動いてヤルノダ!!という姿勢があって初めて、チーム力が発揮される。

現場のキーマンには自律性、自発性を発揮できる環境をつくることがキモです。

 

自律性、自発性から生まれるやる気こそが積極性の源泉であり、ヤラサレ感からは絶対に湧き上がってこないエネルギーです。

現場のやる気を引き出す環境づくりを特に意識します。

まとめ。

チームオペレーションを最大限に機能させるためにはどうしたらイイだろうか?

 

現場リーダーは、生産ラインのすべてを理解し、部分最適と全体最適を学ぶ。

そのために、計画的に、意識して人財教育をする。

各工程のキーマンには自発性を発揮できる環境を提供し、積極的な行動を促す。

 

MRJとHondaJetの話が参考になる。

現場のリーダーは生産ライン全体の統合力を、又各工程のキーマンは個の強さを発揮し、チームオペレーションを機能させる。


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)