なぜ補助金で失敗する企業が増加するのか?

なぜ補助金で失敗する企業が増加するのか?

大学教授や有名SIerは信じてよいのか?

補助金をばらまいても生産効率が上がらない

現在、経済産業省・中小企業庁などが様々な補助金を出しています。私は2年半ほど前にこのコラムで、補助金を活用出来た(生産性を上げる事が出来た)企業と出来なかった企業がある事、そしてその原因を記載しました。

残念ながら現在でも、補助金が採択されても生産効率が上がらない、それどころかロボットが埃を被っている企業が非常に多いです。もし、このまま現状が放置されれば、何年たっても日本の生産効率はまったく上がらない事は火を見るより明らかです。

 
 

補助金が無駄になった一例

先日も、金型の加工を行っているある中小企業から「補助金でロボットシステムを導入したが、依頼したSIerに問題があるので、助けてほしい」と依頼があり、その工場に駆けつけました。

そのロボットシステムはSIerから納入されて数週間以上経っているにもかかわらず、埃を被っていました。(この企業の名前が分かってしまうので、あまり詳しく記載できませんが)このロボットシステムは、『今まで人が手で行っていた金型の加工をロボット化する』という名目で補助金が採択されました。

特に申請書で画期的と謳っていたのが、カメラがスキャンした金型のデータからSIerが提供したソフトでロボットを動かすプログラムが作られる事です。しかし実際は、このソフトにはそのような機能は無く、既存のプログラムを補正する事しか出来ない事が発覚しました。となると、この企業はプログラムを自分で作るしかありません。私が以前に記載した通り、加工のプログラムの作成は非常に困難な為、このロボットシステムが埃を被っていたのでした。

 

なぜ補助金が無駄になったのか?

では、なぜこのような事態になってしまったのでしょうか?

1つ目の理由は、この企業が知り合いの大学の教授から紹介されたSIerを100%信じてしまった事です。しかも、このSIerは日本に現在12社しかいない『SIer協会の幹事』の為、まったく疑わなかったそうです。

2つめの理由は、発注前にロボットでテストをまったく行っていなかった事です。多くのロボット初心者の誤解は、特に日本人は「ロボットはとりあえず導入すれば何とかなる」です。

ロボットは他のマシニングセンターのような設備とは全く違います。汎用性が高い為、素人がコンサルタント無しで導入すると痛い目に合う事が多いです。スポット溶接・ハンドリング等と違い、加工になると急に難易度が上がります。したがって、必ず『自社のワーク』『本番に近い環境』でテストを行い、納得のいく結果をその目で確認をした後に発注をすべきでした。

 

6千万円以上の設備が無駄に!

ではこの設備、いくらかかったかというと、6千万円以上です。そして、私がこのSIerの見積りで特に気になったのが、前述したソフトの金額です。6千万円の内2千万円がソフトの金額になっていました。

私は疑問に思い、このソフトの見積りを(まったく同じ内容で)調査したところ、なんと8百万円でした。つまり、国から補助金が出る事を見越して8百万円のソフトを2千万円にする『補助金あるある』です。これで本当に生産効率を上がればまだ良いのですが、現場でまったく役に立たないのであれば、目も当てられません。

更にソフトだけでなくハードも同様で、ロボットの先端に取り付ける加工ヘッドも、実際の価値よりも明らかに高額でした。

お金の事より致命的なのが、このSIerが「我々のソフトで出来ます!」とハッキリ言った同じ口で(設備の納品後に)「我々のソフトではちょっと・・・」と言った事です。しかも、責任を取るそぶりも見せなかったそうです。

 

補助金が逆効果

この一例は氷山の一角に過ぎず、多くの企業が補助金で導入したロボットシステムが埃を被っています。なお、この中小企業は解決策を探る為に富士ロボットに助けを求めただけまだマシで、殆どの企業は諦めてしまい、また手作業に戻ってしまいます。

つまり、補助金で喜ぶのはSIerと紹介料をもらう大学教授だけで、ものづくりの現場は生産効率が上がらないどころか、無駄な時間とお金を費やしただけ、という逆効果になっています。

 

補助金の申請書はどのようにチェックされるか

では、なぜこのようなSIerや大学教授が日本に多く存在するのでしょうか? それを知る為に、まず日本では補助金の申請書がどのようにチェックされるかを述べます。

中小企業庁や経済産業省に届く補助金の申請書は、一回の補助金で約1万数千件だそうです。それを1機関のわずかな人数で、しかも短期間でチェックをします。もうお分かりだと思いますが、全ての申請書をじっくりチェックする事は不可能です。しかも、チェックをする担当者が私のようなロボットのプロではありません。その為、(現在、少しは変わっていると思いますが)所定のキーワード、例えば『最先端』『地域活性』等の単語を検索し、ふるいにかけ、あとはその信憑性を簡略にチェックします。

 

お役人、SIer、教授の馴れ合い

補助金を採択させたいSIer(もしくは企業とSIerの仲立ちをしている商社)は、そのキーワード(採択されやすい単語)を喉から手が出るほど知りたい訳ですが、経済産業省・中小企業庁のお役人を接待すると法律違反になります。

ではどうするかというと、まずそのキーワードを大学の教授がお役人から聞き出します。そして、今度はSIerが大学の教授を接待漬けにし、礼金もたんまり渡してそのキーワードを聞き出す、というカラクリです。とても信じがたい話ですが、これが現実です。

もちろん、大学の教授やSIerの中には、富士ロボットと同様、真面目にその企業の発展や日本の将来を考えて取り組んでいる方々もいますが、残念ながらなかなか裕福になれないのが日本の悲しい現状です。

 

海外の補助金申請はどうチェックされている?

では、海外の補助金申請はどのようにチェックされるのでしょうか?(申請書のフォーマットの違いを挙げているとキリが無いので、そこは割愛します)

生産効率が年々上がっているドイツでは、第三者機関に『ロボットのプロフェッショナル研究所』があり、そこが申請書を非常に厳しくチェックします。厳しくチェックする理由は、採択された企業がロボット導入後に生産効率が上がらなかった場合、責任を問われるからです。

 

生産効率の報告方法も違う!

また、申請書のチェックの方法だけでなく、採択された企業が『どれだけ効率が上がったか』の報告の方法も全く違います。前述と同様に、第三者機関がロボットの導入前と後を厳しく比べます。

全て自己申告、しかもそれを国が簡単に認めてしまうのは、日本だけです。前述のロボットが埃を被っている企業の社長も「5年間の報告書は、いくらでも誤魔化せる」と言っていました。

 

海外SIerの効率を上げるノウハウ

余談ですが、海外と日本ではSIerの能力が全く違います。ドイツをはじめ海外のSIerは、『設備を組む』だけでなく『ロボットで優れた加工』『効率を上げる事』のノウハウをもっています。彼らが日本のSIerを見たら、「ロボットと周辺機器を電気的・機械的に繋げているだけ」に見えるでしょう。

 

訴えることもできない

さて、前述の悪徳SIerをこの企業は訴える事ができません。なぜなら補助金を受け取る側として、国から見たらこの企業はSIerと共犯者の為です。このSIerは、この事も計算にいれていたのかもしれません。もしそうであれば、かなり悪質です。このようなSIerが『SIer協会の幹事』とは、どういう基準で幹事になったのか私にはまったく理解ができません。

これを読まれた企業様は、決してSIerや大学教授を「有名だから」「元々付き合いがあるから」「近いから」などという理由で任せない事です。

 

プロフェッショナルの目が不可欠

日本のものづくりの生産効率を上げる為には、補助金を出す中小企業庁や経済産業省もドイツのようにプロフェッショナルの目を持つ(もしくは持った人に依頼する)事が絶対に不可欠です。

短時間でロボットシステムの良し悪しを判断できる私の目がどこかでお役に立てれば有難い事です。


富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。47歳。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。