どんな提案もバカにせず一度はテストしてみる|元トヨタマンの目

どんな提案もバカにせず一度はテストしてみる|元トヨタマンの目

1.現状

あるプラスティックの特殊素材で製品を圧縮成形で作っているが、どうしてもバリが発生するので、ヤスリでバリとりをしていた。

この特殊素材は硬くて脆(もろ)いので、あまり強くこすると欠けてしまい、弱くこするとなかなかとれなくて時間がかかる。

しかもヤスリがすぐへたってしまい、疲労の多い仕事であった。

 

2.改善の着想

「ドラムの中に、製品と研磨剤を入れて回転させ、摩擦によってバリとりをしよう」

 

3.研磨剤の選定

  • 研磨剤のトライ①……鋼球……品物の角が欠けて不良が多発
  • 研磨剤のトライ②……樹脂球……樹脂球の方が早く磨耗してしまい、製品のバリがなかなかとれず長時間かかってしまってい、能率が悪い

「なにか『ソフトで、しかも、鋭く切削できるもの』」という矛盾した要求を満足させる研磨剤はないだろうか?

製品の欠けも発生しなくて、しかも短時間にバリとりができる研磨剤はないだろうか?

 

そこで農家の次男坊だった社員の体験
「米の籾(もみ)の中に、土のついた芋と水を入れて攪拌すると、芋の皮がむける」

彼が提案
「籾を使ってみたらどうか」

全員が一笑にふす
「そんなもの、だめだよ(頭の中で考えているだけ)」

工場長
「だめでもともとだから、一度やってみよう」→大成功!

 

教訓!

われわれはよく、やってもみないで、頭の中だけで考えて「そんなことダメだよ!」と一蹴してしまうことがよくある。

しかし世の中には、「『とんでもない』ということでも、やってみなければ分からない」ということは、たくさんある。

いわゆる「常識」でもって、「そんなことできないよ」と万人が否定するようなことでも、実際にやってみると素晴らしい成果が出ることが多くある。

 

トヨタでは、創意工夫提案制度で、どんな内容の提案でも無条件に受け付ける。

その賞金は500円だ。

30年前にトヨタへ入社した時からずっと変わらない。

現在でも500円ならまあまあだと思う。

30年前の500円は、現在では2,000円ぐらいではないかと思う。

若かりしころは一生懸命提案して「小遣い」にした。

この創意工夫の賞金には所得税がかからないため、非常においしかった。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。