そもそも、計画とは思い通りに進まないものである

そもそも、計画とは思い通りに進まないものである

  • モノづくり事業で豊かな成長を実現する前提条件は、現場のやる気を引き出すことだ。
  • そもそも、計画とは思い通りに進まない。

だからこそ、中長期計画を活用する、という話です。

 

中長期計画を策定しない理由は何ですか?

中長期計画にどのような役割を期待していますか?

1.中長期計画を強くお勧めしている理由

半数以上の中小経営者は中長期計画を策定しています。

中長期計画の大切さを理解している経営者は、現場からやる気を引き出す重要性をご存知です。

中長期計画は経営者のためだけにあるのではない

 

将来への不安を取り除くためには、5年先、10年先の見通しをはっきりさせることです。

見通しを明確にすれば、厳しい状況を乗り越えられます。

夜明けの来ない夜はない、春の来ない冬はない。

 

そして、工場の見通しを立てることは経営者にしかできない仕事です。

ですから、見通しを立て、進むべき方向を現場へ示します。

これこそが、経営者が何よりも優先しなければならない仕事なのです。

 

見通しがあっての、具体的な仕事の組み立てです。戦略を立ててから、戦術を組み立てます。

見通しや戦略を現場へ宣言し、現場と共有してから、経営者は具体的な手を繰り出す。

この手順を省くと現場から、持続するやる気を引き出すことは、ほぼ不可能です。

 

また、見通しを立てることは、そもそも、曖昧で漠然としたイメージを明確にする仕事でもあります。

中長期計画を考える過程では、多様な観点が必要です。抽象と具体、定性と定量、部分と全体、等々。

楽な仕事ではないです。楽な仕事ではないですが、その結果、5年先、10年先に向けての羅針盤を手にします。

それまで経営者の頭の中にしか存在していなかった、漠然としたイメージが明確な形になるのです。

 

経営者は自らの想い、5年先、10年先の見通しを現場へ図示できます。

図示されたものは、伝わりやすいです。現場は、こうして経営者の想いを理解し、共感していくのです。

ここに至れば、現場は自らやるべきことを考え、自発的に動き始めます。

経営者が口を挟まなくても自律的に動きます。

中小現場は、人生をかけた自分の会社や経営者のために頑張りたいと考えているからです。

中長期計画は現場からやる気を引き出す重要な役割も担っています。

モノづくり経営は他人に活躍してもらってなんぼのもの。

 

多くの経営者様に中長期計画を強くお勧めしているのはこうした理由があるのです。

10年ロードマップではコア技術に着目してカイゼン、5Sとイノベーションを連携させた中長期の計画を策定します。

 

2.中長期計画を策定しない経営者の誤解

中長期計画を策定する経営者がいる一方、計画を「策定しない」経営者も半数近くいます。

中長期計画を策定しない理由は何でしょうか?

 

2016年版中小企業白書(p447)に帝国データバンクによる調査結果があります。

「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月実施から。

アンケートで中長期の事業計画を策定しない理由を尋ねています。

調査対象の企業数はn=1,046です。

 

理由のトップ3が下記です。(複数回答)

 

1.計画通りに事業が進むことがないため(43.5%)

2.日々の仕事に追われて作成する時間がないため(29.8%)

3.作成コストに見合う効果が得られないため(25.5%)

 

限られた経営資源の中では、どうしても足元の収益確保が優先されます。

今日、明日の収益を確保できずして、どうして将来の話がデキルノダ!

多くの経営者の偽らざる言葉です。

 

ただし、自社と現場の将来の豊かな成長を願うなら、5年先、10年先を見通す必要があります。

ですから、経営者自身が踏ん張って、未来へ向かって目指すべき状態を設定いただきたいです。

簡単な仕事ではありません。しかし、知恵を絞り、頭に汗をかいた分だけの成果を手にします。

 

中長期計画を策定しない理由のトップ3には多くの「誤解」が含まれていると感じます。

そこで、中長期計画を活用している経営者の考え方を参考にします。

そうして、視点を変えて、中長期計画に期待する役割をとらえ直すのです。

 

中長期計画を活用する最大の理由は、従業員と共有し成長への動機づけを行うためでした。

中長期計画は経営者のためだけにあるのではない

目指すべき目標を知らされている現場と知らされていない現場。

目標に向かってベクトルが揃っている現場と揃っていない現場。

持続したやる気を引き出すために、どちらが経営者にとって好ましいかは言うまでもありません。

 

モノづくり事業で豊かな成長を実現する前提条件は、現場のやる気を引き出すことです。

現場から持続的、継続的なやる気を引き出すこと。チームワークが機能する環境を整備すること。

これらが、モノづくり経営者にとっての最優先課題です。

ですから、それを実現させる道具があるのならば、経営者はそれを手に入れたいはずです。

 

中長期計画は経営者のためだけにあるのではない、との視点を持てば「策定しない」2番目、3番目の理由に対する不安や不満は解消されませんか?

工場経営は「他人に動いてもらって、なんぼのものである」という原則に乗っ取れば、中長期計画は欠かせなくなります。

 

さて、「策定しない」理由の1番目。計画通りに事業が進むことがないため(43.5%)。

立派な計画を立てても実行できなければ絵に描いた餅。

どうせ考えても、その通りに進まないのだから計画を立てもムダだと考えがちです。

しかし、ここで思い出していただきたのは、今後、私たち中小モノづくり現場が直面する状況です。

市場も、競合も、現場も大きく変わります。どれもこれも、変わらざるを得ないでしょう。

現場ひとつをとっても、情報通信技術が現場へ導入され、それらを活かせる現場と活かせない現場での格差が広がる懸念があります。

ですから、変化に対応するための道具が必要です。そもそも、計画はその通りに進まないものです。

1年、3年、5年と時間軸が長くなればなるほどそうです。

 

ですから、中長期計画を進めるうえで経営者が果たさねばならない重要な仕事があります。

それは、「修正」することです。

 

これからは、内部環境も外部環境も、予想通り進むことの方が少ないでしょう。

ですから、マイルストンを設けることが欠かせません。

計画の継続性の観点から、進捗具合を判断基準と比べることは重要な仕事となります。

撤退、停止も重要な意思決定です。

 

逆に言うなら、予想通り進んで、概ね目標を達成できると考えるならば計画は不要です。

思い描いたとおりに進むのですから、比較し、修正する必要がありません。

中長期計画に限らず、「計画」とは、当初、考えているようには物事が進まないからこそ、活用すべき道具なのです。

 

  • 現場のやる気を引き出すことが、モノづくり事業で豊かな成長を実現する前提条件である。
  • そもそも、計画とは思い通りに進まない。

 

この2つのことを噛みしめると、中長期計画の必要性がご理解いただけます。

中長期計画を策定し、是非、使い倒して下さい。

カイゼンを引き金にした10年ロードマップ戦略で羅針盤を手にして下さい。

 

中長期計画を策定しない理由は何ですか?

中長期計画にどのような役割を期待していますか?

 

まとめ。

  • モノづくり事業で豊かな成長を実現する前提条件は、現場のやる気を引き出すことだ。
  • そもそも、計画とは思い通りに進まない。だからこそ、中長期計画を活用する。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)