ある印刷業者の進化|元トヨタマンの目
ある中小の印刷業者があった。
昨今のIT化の波で、紙への印刷は激減している。
そこでこの業者はホームページの作成に進出した。やはりコンピューター化にのっていくしかないわけだ。
さらに印刷の関係で出入していた取引先の会社から取扱説明書の作成の受注も受けた。
原稿をデータでもらって、それを1ページずつ画面上で、図の配置や太字・細字など体裁を整えていく仕事だ。
パートのおねえさん達にお願いして、日がな一日画面に向かってコツコツやっていくしかない。
今後の日本企業は、製品をより多くの国に輸出して儲けていくしか方法はない。
そのためには、この取扱説明書を多言語化展開する必要がある。
言語が変われば、また新たに、日がな一日仕事を同じように展開するしかなかった。
しかしこんなことに膨大な工数をかけていれば、取扱説明書1つに何百万円もかかってしまう。
ある中小の輸出企業はなんと21言語も取扱説明書がいるそうだ。そうなれば何千万円もかかってしまう。
また21言語とかの受注を受けても、こんなことをしていては納期が間に合わない。
そこでこの印刷業者の技術者は次のような画期的な方法を考えた。
日本語の取扱説明書を1つ作る。
図の配置、言葉の位置、文字の種類等をすべて定型化してしまい、いわゆる『型』を作ってしまう。
他の言語の原稿をデータでクライアントから受け取り、それをそのまま『型』に流し込む。
そうすれば、ほとんど瞬時に出来上がってしまう。
さらに日本語と他言語のそれぞれの言葉を紐つきにしてしまうので、変更したい場合は、日本語を変更してしまえば、他言語も同時に変更されてしまう。
この方法を使えば、日本語1つ作ってしまえば、あとの言語はほとんど瞬時でできてしまうのだ。
クライアントにしてみると、「日本語の原稿を作る工数」「他言語へ翻訳する工数」が必要ということは、従来となんら変わらないが、この印刷業者に頼んでいた外注費用と納期が激減するのだ。
この印刷業者も、仕事のやり方に疑問を持ち、常に前向きに改善を進めた結果いいものができた。
昨日、この業者に私の知り合いの名古屋の輸出機械メーカーを紹介した。
一緒に話をきいていると、ここでは「日本語の原稿を作る」「他言語へ翻訳する」という社内業務の部分にもいろいろな問題があることが分かった。
そのような場合、この印刷業者の『型』に流し込むまなければならない、という制約を社内にかけることで、この社内業務の業務改善自体が進むような気がした。
話は変わるが、この印刷業者に私の会社のホームページを製作していただいた。
その際のアドバイスは次の通りだ。
「ホームページとはパソコンの世界にあり、非常に冷たい印象を訪問者に与えます。
それを解消するには、写真です!写真をふんだんに入れればとても暖かい印象を与えることができます。
さあ、青木さん、あなたの写真をとりますよ」
ということで、私のホームページには写真が多用されている。
このブログもそうだ。
私のホームページやブログへ訪問していただく方には、
「青木って、写真ばかり出して、何て自己顕示欲の強い奴なんだろう」
と思われているだろうと想像するが、この印刷業者の指示なので、許してほしい。
またこの印刷業者の社屋がいい。非常に質素な建物に入っているのだ。
一見、倉庫のような外観だが、その内部に入るときちっとしたコンピュータールームになっていて、電子機器がずらりと並び、美人?オペレーターがいっぱいいる。
まったく印刷屋のイメージはない。このように外見にこだわらない会社は伸びるのだ。
わがトヨタは、私が入社した30年前でもすでに日本有数の会社だったが、会社の社屋はとても質素だった。
それが今は、本社社屋や名古屋駅前のビルは、まさにカッコ良過ぎる。
どちらも私がトヨタを退社してからできた。
それをテレビで見るたびに、「俺って、こんなすごい会社に勤めていたんだ」と思ってしまう。
この2本の巨大ビルができて、すぐに大赤字とリコール問題が発生した。
会社とは、社員に「俺って、こんなすごい会社に勤めているんだ」と思わせた段階で凋落が始まるような気がする。
まさに、真の金持ちは外見からは判断できない。
外見から判断できる金持ちを「成金」といい、すぐに没落する。
ところで上記の印刷業者は「三愛企画」です。
P.S.
この印刷業者の技術者さんには、ホームページを作っていただく必要上、トヨタ生産方式を徹底的に勉強していただいた。
今回の画期的方法は、1個流し・標準化などトヨタ生産方式を学んだからこそ踏み出せたと言っていただけた。
印刷業もものづくりだから、横展がうまくいったようだ。
しかし、ものづくりは製造業のみならず、その他すべての産業の基礎だと思う。
従って、今後は、製造業以外の業種にも積極的にアプローチしていこうと思う。