【年頭に寄せて】経済産業省 高田修三 製造産業局長
経済産業省 高田修三 製造産業局長
はじめに
明けましておめでとうございます。令和2年の年頭に当たり、一言御挨拶申し上げます。
まず、台風15号、19号など、昨年発生した自然災害において被災された全ての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。また、産業界の皆様からは、生活支援物資の供給など、様々な形で被災地支援に御協力をいただき、改めて感謝申し上げます。
景況観
アベノミクスの進展により、我が国経済は長期にわたる回復を持続させており、GDPは名目・実質ともに過去最大規模に達しています。また、雇用・所得環境も改善し、景況感の地域間のばらつきも小さくなっているなど、地方経済は厳しいながらも前向きな動きが生まれ始めています。
他方、製造業を取り巻く環境は大きく変化しており、これに対する対応を進め、不断の精進を続けていく必要があります。
通商
まずはグローバル経済の変化への対応です。米中対立が顕在化し、保護主義的な動きが広がるなど、通商を巡る国際的な動向に対し、昨年、私も多くの経営者の方々から、先行きの不透明さを懸念する声を伺いました。
これまで、日本は、いわゆるTPP11や日EU・EPAを通じて、質の高い通商ルールを構築してまいりました。米国との日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定も本年より発効します。これからも自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく国際経済体制を主導する役割を果たしていきたいと考えております。
第四次産業革命、デジタル化
また、デジタル経済の急激な進展への対応が不可欠です。AIやIoTといったデジタル技術の進化により、第四次産業革命という大きな波が押し寄せています。競争力を維持、強化し続けるには、この潮流に適切に対応していくことが肝要です。
例えば、自動車産業では、「CASE」と呼ばれる100年に一度の変革期を迎えていると言われております。これは、インターネット等を介して、情報と車の接続(Connected)、自動走行(Autonomous)、シェアリングサービス(Shared)、電動化(Electric)が進み、自動車の使い方が変化し、社会そのものの在り方にまで影響を及ぼすものです。
付加価値を巡って様々なプレーヤーの競争が激化し、自動車産業における世界的な地位が大きく入れかわる可能性もあります。リスクとして逡巡することなく、大きなビジネスチャンスと捉え、先手を打って行くことが必要です。なお、高齢化社会における交通安全を高めていく観点から、サポートカーを導入する支援の適切な執行にも取り組んでまいります。
日本の強みともいえる素材産業においても、新しい開発手法の成果が生まれつつあります。これまでは、研究者の経験と勘に基づき、試行錯誤を繰り返し、革新的な素材を生み出してきました。しかし、マテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる新しい開発手法では、AI等のデジタル技術を用いてビッグデータを分析することで、新しい素材を製造するためのレシピを知ることができます。開発期間の大幅な短縮につながり、まさにゲームチェンジが起こる可能性があります。
生産現場においても、デジタル技術の活用は必須です。これまでも、日本の製造業は、産業ロボットを導入し、世界最高レベルの生産性を誇っています。今後は、クラウド技術やAI技術を用いて、工場全体で最適制御していくことが求められます。更には、生産段階のみならず、開発、設計段階を含めた最適化も必要となります。
デジタル技術は、フロンティア分野でのビジネス創出にも役立ちます。宇宙産業では、衛星などから集められたビッグデータをプラットフォーム化し、新しいサービスを生み出す基盤として活用する、宇宙利用産業の時代に突入しています。また、ドローンは、災害監視、インフラ保守など様々な分野での活躍が期待されています。産業用ロボットも、工場の生産ラインだけでなく、サービス分野といった私たちの生活に近いところまで広がるでしょう。空飛ぶクルマなど、SFの世界が近い未来のものとなりつつあります。
今年は、5Gの導入もいよいよ本格化していくなど、デジタル化の動きが一層加速していくことは間違いありません。経済産業省製造産業局としても、産業界の皆様の取り組みを後押しすべく、昨年末に決定した令和元年度補正予算案や令和2年度当初予算案において、先端的な技術に関する研究開発、導入支援のための経費を計上させて頂きました。予算については国会でのご審議をいただいた上で、予算以外の取り組みも含め、今年も、全力で産業界の取り組みを応援させていただきます。
人手不足
自由で公平な通商・貿易の推進、デジタル経済への対応と同時に、少子高齢化に伴う中長期的な人材不足の問題も解決していく必要があります。特に製造業の現場では、いわゆる熟練工など技術を持った人材の不足が指摘されています。
ロボットの導入は、こういった問題を解決する一つの方策です。ロボットそのものの研究開発やロボットフレンドリーな環境の構築に取り組むとともに、中小企業向けの導入補助事業も強化していきます。あらゆる現場へのロボット導入などをサポートする人材の育成にも取り組んで行きます。
外国人材の活用にも取り組む必要があります。昨年4月に、改正入管法が施行され、製造業では3業種への特定技能外国人の受入れが開始されました。今年は、現地での試験を開始する予定であり、受け入れの拡大に向けて環境整備に取り組みます。産業界の皆様にも、受け入れた外国人が円滑に過ごせるよう、引き続きご協力をお願いします。
下請等取引適正化
サプライチェーン全体での競争力強化を図る上で、取引適正化は重要な課題です。昨年来、経済産業省製造産業局として、型管理問題や働き方改革に伴うしわ寄せ防止などに向けた取り組みを精力的に進めてまいりました。具体的には、「型取引の適正化推進協議会」において、型の廃棄年数など踏み込んだ内容を取りまとめ、規範性のある報告書に結実させた他、働き方改革に伴うしわ寄せ防止のため、例年にない規模での周知徹底を行ってまいりました。
本年も、取引適正化の更なる浸透に向け、発注側、受注側の相互理解・協力をより深く図るために、周知徹底を強力に進めるとともに、自主行動計画未策定の業界を含め、幅広い業界の方々とともに議論を深めていきたいと考えています。
福島
福島の復興は経済産業省の最重要課題です。製造産業局としても、福島県とともに、「福島イノベーション・コースト構想」の中核となる福島ロボットテストフィールドの整備等に取り組んでいます。福島ロボットテストフィールドは、ドローンの飛行試験や災害ロボットの実証実験を行える場としてニーズが高く、既に120以上の活用事例がございます。今春に全面開所予定であり、産学官の関係者に広く活用いただきたいと考えています。
加えて、今年には、ワールドロボットサミットを8月に福島で、10月に愛知で開催いたします。これは、世界中のロボット関係者が一堂に集まる、ロボットの研究開発及び社会実装を加速するための国際大会です。福島をロボットのイノベーションの中核地とすべく取り組んでまいります。
また、福島の産業復興を進める観点から、産業界の皆様にも是非、福島での拠点立地を検討いただければと考えております。経済産業省として、様々な支援メニューを用意していますので、御関心のある方は、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
万博
2025年に開催される大阪万博では「未来社会の実験場」をテーマにしています。多様な企業の参画・共創をはかり、万博を通じてイノベーションの促進をはかります。
日本国際博覧会協会事務局において、実証・実装の場として活用する「未来社会」のアイディアを幅広く募集されていますので、是非ご検討下さい。
おわりに
今年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。前回の東京大会は、日本の復興と成長のシンボルとなりました。製造業を取り巻く環境は、当時とは一変しており、複雑で困難な課題にも多く直面しています。しかし、日本人と日本の製造業は、必ずや課題を克服して、安定した成長を続けられると確信しております。
そして、第三回東京大会の頃に、「前回大会の年が日本の飛躍の始まりであった」と振り返ってもらえるよう、私自身も微力ながら力を尽くしたいと思います。
最後に、産業界の皆様の益々の発展と、令和2年が素晴らしい一年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。
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