『U理論』からの考察

『U理論』からの考察

8月に定年を迎えた。ただ今求職中。まだ働くのかと言われそうだが、高い志を持って世の中に価値を提供するという信念からは、やはり家に籠ってはいられない。それでも、往復4時間の通勤が無くなり犬の散歩が朝の習慣になっているこの生活はいいなあ。

退職後最初に読んだのが、『U理論』(C・オットー・シャーマー、英治出版)。

在職中にちらっと(ほかの人が読んでいるのを)見て、「何だか宗教、スピリチュアル、マインドコントロールの類みたい。こういうのはちょっと……」と拒絶反応を起こしていたのだが、怖いもの見たさでつい買ってしまった。暇だということもあるんだけれど。

本体を読む前に、ネットのレビューやら解説やら関連する記事(中には2000年頃の野中郁次郎氏の英文の記事まで)を読みまくり、スピリチュアル的なものを取り払った本質を掴むための準備を整えた。

 

私自身、変化の激しい時代にどのようにしてイノベーションを起こしたらよいかについて考えてきたので、“過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術”というサブタイトルや、“未来から現実を創造せよ”という帯の文には共感していた。

だから自分の考えてきたこととの対比で書かれていることの本質を掴もうと考えたのである。

 

その結果、意識の源が4つあること、すなわち

① I in me
② I in it
③ I in you
④ I in now

は、さまざまな言い換えや図示があり理解できた。

 

それに基づく意識の領域を移るための観方の変化も言葉にすると意味不明だが、理解できた。

① → ② 開かれた思考(マインド)
② → ③ 開かれた心(ハート)
③ → ④ 開かれた意志(ウィル)

 

ここからが本番のU理論、意識の転換のプロセスである。

Ⅰ 過去のパターンで物を見てしまう「ダウンローディング」からの脱却
Ⅱ 現実を認識する「観る」
Ⅲ 自分の外側にある全体の場からものを見る「感じ取る」
Ⅳ 源から見る、出現する未来から自己にかかわる「プレゼンシング」

ここまでが、Uの左側。

Ⅴ 未来の最高の可能性からビジョンと意図を明らかにする「結晶化する」
Ⅵ 実行することによって未来を探索する「プロトタイピング」
Ⅶ 日々の実践で具体化する「実践する」

ここまでがUの右側。

 

本当に文字にすると意味不明であるが、さまざまな言い換えがされているので、読み進めると言っていることは理解できる(できたような気がする?)。

 

実はⅠからⅢ、ⅤからⅦは難しい表現をしているが、当たり前のことを言っている。

 

ⅠからⅢでは、過去の習慣でものを見るのではなく、まずよく分析し、さらに相手の立場、全体から物事を見ていこうと言っている。

ⅤからⅦで言っているのは、新たな見方を明確に示し、プロトタイプを作ることで具現化をしていき、最終的に新しい未来を具体化するということである。

ポイントはⅣのプレゼンシングにある。ここで、イノベーションが起きるはずである。それをさまざまな例によって示唆しているのが、本書の後半である。

で、やはりここからは「何かが下りてくる」的な記述になっているとしか思えない。

 

やはりスピリチュアルな世界に踏み込んでいくしかないのか。私にはここから先には行けない。

自分で納得いく解が見つかるまで、しばらく本書は飾っておくことにする。

 

※2013年9月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任