『GIVE & TAKE』でこれまでとこれからを考える

『GIVE & TAKE』でこれまでとこれからを考える

自分自身の読書の傾向としては、ビジネス書を読むことが多い。

最近は、大学の講師として教える内容に関係しそうなものを選んで読む。

直接関係のあるITビジネス関係のものではなく、学生が社会に出ていく上で知っておくべきこととしての「雇用」や「技術者倫理」の新たな理論である。

 

これらは新鮮な感覚で学ぶことができる。

その中で「君たちはどう生きるか」的な本に時々ぶつかってしまい、戸惑うことがある。

つまり、「もう遅いよ。今さらそんなこと言われても」という思いと、「いや、まだあと30年は生きるのだから(そのつもり)意識を変える価値はある」という思いが交錯する。

 

『GIVE & TAKE —「与える人」こそ成功する時代—』(アダム・グラント、三笠書房)は、ちょっと自分の生き方について考えさせられる本だった。

監訳者が楠木建氏である。

最初に監訳者の言葉があり、これがとても面白い。

 

ここだけ読めば分かる、と言いたいところだが、やっぱり本体を読まないと腹落ちしない。

それが分かっているからか、監訳者は先を読ませるように誘導している。

まずは、人間の思考を3つに類型化する。

 

1.ギバー(与える人)

2.テイカー(受け取る人)

3.マッチャー(バランスを取る人)

 

これだけだと、誰でも持っている3要素のように見えるが、そうではない。

 

1.の人は、「まず与える」。

見返りは要求しない。

結果としてかなり時間が経ってから自分によいことが来る。

 

2.の人は、「まず取ることを考える」

3.の人は、「見返りを得るために与える」「与えられたらお返しする」つまり、計算ずくということ。

 

本書で主張するのは、最終的に成功するのは1.のギバーであるということである。

ただし、成功するまでには時間がかかる。

当たり前のように思える。

 

多くの人たちがそう言ってきたようにも思える。

しかし、本書では、多くの事例や研究成果のデータでそれを納得させてくれる。

さらに、後半では、ギバーがテイカーの食い物にならないためにどうするか、を事細かに述べている。

 

まさに、「君たちはどう生きるか」的な本なのである。

私は考える。

自分はこの分類のどれだろうか。

 

2.のテイカーとは思えない。

他人から奪い取るようなことはとてもできない性格である。

3.でもないだろう。

 

あまり計算ずくで他人とつきあることがない。

であれば、1.だろう。

果して、私のこれまでの人生、それで成功したのだろうか。

 

結論から言えば、1.でなければもっとひどい人生になっていた気がする。

これから30年以上生きるとすれば(そのつもりだが)、その間に結果が見えてくるのだろう。

であれば、これからますますギバーでなければならない。

 

だって、みじめな最期は迎えたくないから。

 

※2014年4月に書かれた記事です。

 


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任