『経営センスの論理』で具体と抽象の教育を考える

『経営センスの論理』で具体と抽象の教育を考える

ITPro EXPO 2013に参加してきた。

5つの講演をぶっ続けで聴いたのだが、いずれも名の通った方々であり、話はとても面白いものばかりだった。

ただし、各講演は40分なので、理解できたつもりでいても、表面をなでただけの感覚は否めなかった。

 

一つの講演が、『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件(Hitotsubashi Business Review Books)』の著者の楠木建氏(一橋大学教授)であった。

この本は何度も読んだのだが、退職時に会社の図書室に寄付してしまい、今はない。

話は面白く、納得性もあったのだが、何となく物足りなくて(じっくりものを考える、ということからはほど遠かったので)、帰りに行きつけの書店(ジュンク堂)で、著書を買ってきた。

 

それが、『経営センスの論理』(楠木建、新潮新書)である。

 

全部で5章あるうちの最初の1章は、講演の内容とほぼ同じ。

ついでに言えば、東洋経済オンラインで書かれていることも一部重なっている。

多分、色々な場で話したり書いたりされているのだろう。

 

中でも、私が好きなのは、「ビジネスの根本原則は自由意志だ」という点である。

これは『U理論』のプレゼンシングにもつながるのだが、「こうしよう」という強い思いが経営層から末端までいきわたっていなければ経営は成功しないだろう。

ところが、「生き残りのためグローバル化せざるを得ない」と幹部から言われて頭を抱えている技術者を何人も見かけた。

 

結局、悪いのは世の中、ということで責任転嫁し、被害者意識の塊になるのがおちである。

本書の中心を流れる、「スキルだけでは経営はできない。センスが必要である」において、それではセンスはどうやって身に付けるのか、については、人材育成を生業とするものにとって大きな課題である。

しかし、最後に出てくる「アタマの良い人は具体と抽象の往復を、振れ幅を大きく、頻繁に行う」にヒントがありそうである。

 

抽象化の概念は教わって身につくものではなく経験の中から身に付くもの。

具体的なものをイメージできるのも経験あってこそ。

仕事の中のOJTと体験的なワークショップなどの研修で磨くことに挑戦してもよいのではないか。

※2013年10月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任