『発明家に学ぶ発想戦略 イノベーションを導くひらめきとブレークスルー』...

『発明家に学ぶ発想戦略 イノベーションを導くひらめきとブレークスルー』に唇を噛む

十数年前から1年ほど前まで、ロシア発の発明技法TRIZをビジネスのイノベーションに適用できないか、研究していた。

仕事とは関係ないので、自腹を切って海外の学会にもよく出かけた。途中で熱が冷めたりした時期もあるが、よくまあ続いたものだ。

 

確かに、技術的な発明の原理やパターンは新たなビジネスモデルの創出にも適用できることは確認できたのだが、それがビジネスのイノベーションになるか、というと疑問だった。

要するに、解決すべき問題がはっきりしていれば、解決策はTRIZで導けるのだが、その問題自体が見いだせないのである。

目に見えた問題を解決してもイノベーションにはならない。世の中の誰も気づいていない問題を見つけ出して解決すれば、それはイノベーションになる。

 

世の中にある発想法、発明技法は、解決策の見つけ方にフォーカスしていて、問題の見つけ方については曖昧なままなのである。

そんなわけで、1年ほど前からTRIZとはおさらばしてしまっている。

 

そして見つけたのが、『発明家に学ぶ発想戦略 イノベーションを導くひらめきとブレークスルー (Harvard Business School Press)』(エヴァン・I・シュワルツ、翔泳社)である。

 

本書は、TRIZのような発明のプロセスのパターン化を狙ったものではなく、多くの発明家にインタビューし、その活動の場に行き、彼らの発想のパターンを述べたものである。

やはりあった。「発明家というと問題の解決がうまい人と思われがちだが、それよりも問題の発見が得意な人と考えた方がよい」という記述が。

問題の本質を読み取れずにテクノロジーの面からとらえがちであることにも警告を発している。

 

では、問題の本質をどう掴むのか、については、プロセスなりロジックが示されているわけではない。

しかし、多くの発明家の事例を読んでいくと何となく掴めてくるような気がする。何度か読み返しが必要かもしれない。

 

私が一番心を打たれたのは、「システムとして考える」という章である。

ここでは例として、白熱電球の発明が挙げられている。すなわち、エジソンよりも何か月も前に白熱電灯の実演をしたジョゼフ・スワンよりも、トーマス・エジソンが後世に名を残した理由は、エジソンがシステムの見地から発明を考えたからだという。

エジソンは人々に明かりを届ける手段としてのシステム全体の開発を視野にいれていたため、白熱電球を既存のシステム(ガス灯)に組み込もうとしなかった。スワンは、ガス灯システムとの争いに敗れた。ということだそうである。

 

システムとして考えることは、問題の本質を掴むこととかなり似ている。というか、同じに思える。視野を広げ、既存の枠組みに囚われない発想が必要ということである。

何だか、十数年も問題解決パターンにこだわっていたことが無駄だった(?)ような。

 

よく、鳥の目で全体像を広くとらえ、虫の目で詳細をよく見るべし、ということを言う。当たり前だと思っていたが、ちょっと疑わしく思えてきた。

先日、鳥にカメラを付け、空を飛ぶとき何を見ているかを撮影した映像を見た。とても気持ちよさそうに飛んでいるのだが、全然全体像など見ていない。結構、心の赴くままいい加減に飛んで、いい加減に見ている。

意識してものを見る習慣を付けないと、鳥の目を持っていても全体像は掴めないのだ。

※2013年9月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任