『改善ぷちセミナー』稼働状況の捉え方
※当コンテンツは『面白狩り』の提供でお届けいたします。
1.稼働率と余裕率
稼働率は、作業者に与えられた工数に対して、付加価値を生む作業に使われた工数がどのくらいあるかを示す指標です。
もちろん高い方が望ましいのはいうまでもありません。
一般には次のような就業工数に対する実際工数の比で表します。
実際工数
総合稼働率 = ――――― × 100(%)
就業工数
ところが、実際工数は作業日報などで把握するので、その中には手待ちや作業遅れのほか、機械トラブル、不良手直しなどのロス工数も含まれている可能性があります。
この中身が見えないと、単純に稼働率が高いと喜んでいるわけにはいきません。
そこで、改善活動を行う場合などでは、もっと詳細に工数の中身を分類して稼働率を調査します。
実際に工場で行われていることを分類してみると……
この円グラフ全体を就業工数とすると、青い部分が稼働している工数で、それ以外はロス工数や除外工数と呼ばれる部分です。
つまり、全体に対する青い部分の割合が稼働率、それ以外の部分の割合が余裕率ということです。
2.稼働分析の方法
稼働分析としてよく使われるのが、ワークサンプリングと連続観測法の2つの方法です。
ワークサンプリングは、統計のサンプリング(抜取り)の考え方を応用した方法です。
あらかじめ観測時刻を設定し作業内容をリストアップしておき、その時刻に観測対象が何をしているかをチェックして記録します。
瞬間観測法ともいいます。
◇長所
・他の仕事をしながら観測することが可能です。
・一度に多くの観測対象を扱うことができます。
◇短所
・サンプル数が少ないとデータが信頼できないため、観測目的によっては数日を要することもあります。
連続観測法は、観測対象に密着して、作業の流れと時間を逐一観測して記録する方法です。
流れを見たままあるがままに捉えるので、生活研究、行動調査とも呼ばれます。
◇長所
・作業の詳細が観測できて、問題点の把握も容易です。
◇短所
・1日つき切りで観測しなければなりません。
→このため、現在はVTRを活用するのが一般的です。
・一度に一つの観測対象しか扱えません。
・観測日の特性(繁忙の差や行事の開催など)に影響されてしまいます。
ここでは、ワークサンプリングについて説明します。
連続観測法の進め方については、モーションマインドの項で説明します。
3.ワークサンプリングの進め方
1 ワークサンプリングの実施手順
2 作業分類と調査項目
調査対象の職場で行われている作業を洗い出し、下のような作業分類を参考にして層別を行います。
調査中に戸惑うことがないように作業の定義付けを十分に行って、調査の目的に応じて調査項目を決めます。
3 観測時刻の決定 観測時刻は乱数を用いて決めます
①乱数表を広げ、目をつぶって鉛筆の先を表の上に落とす。
②鉛筆の先が指した数字から右方に向かって数字を拾っていき、端までいったら次の段を左方に向かって拾っていく。
(例)34 58 92 61 20 18 49 76 72 08 80 29 17 04 02 63 88 68 57 ……
③このようにして乱数列を得たら、例えば1回の観測に5分かかるのであれば、隣り合う乱数の差が5より小さい場合はその数を省略する。
また60以上の数字も省略する。
(例)34 58 20 49 08 29 04 57 ……
④時数を付けて観測時刻を得る。
(例)8:34 8:58 9:20 9:49 10:08 10:29 11:04 11:57 ……
このようにランダムに観測するのは、観測時刻と作業サイクルが一致して偏った結果が出てしまうのを防ぐため、及び、被観測者による意図的な作業加速又は遅延を防ぐためです。
次のようにExcelの関数を利用しても乱数列が得られますから、参考にしてください。
4 記入用紙とサンプリング
①作業区分及び作業(調査項目)を記入する。
②乱数から求めた観測時刻を記入する。
③時計を見て観測時刻がきたら作業を見る。
④該当する作業の欄にチェックマークを入れる。
⑤観測時刻の間があいていたら、その間に観測回数の確認あるいは他の業務を行ってもよい。
⑥観測し終わったら、作業ごとにチェックマークの数を集計し、全体の割合を計算して集計欄にまとめる。
⑦観測データをExcelシートに入力して整理し、分析を行う。
5 観測回数と精度について
観測回数は、厳密な精度を必要としない改善の予備調査などでは、100~200回程度のサンプリングで十分です。
ただし、ワークサンプリングは統計手法の応用ですから、観測した結果は統計上の誤差を含んでいます。
調査の目的によっては精度チェックをして観測回数を決めなければならない場合があります。
通常は信頼度95%、精度±5%で満足できるものとします。
※計算式及び計算例については文末を参照してください。
4.調査結果と問題点のまとめ
観測結果をEXCELシートに整理して総括表を作ります。
パレート図を作って問題を見つけやすくします。
観測中に気付いた問題点や作業者工程分析の結果も一緒にまとめて、問題点一覧表を作ります。
優先度の高い問題から改善計画を立てて、検討します。
(参考)観測精度の計算
例)稼働率を求めようとしてワークサンプリングの予備調査を実施したところ、次のような結果が出ました。
観測回数 100 稼働 75 余裕 25
p=0.75、S=±0.05、信頼度95%とすると、上の表から a=1.96≒2 を得ます。
上の式を変形して計算すると、必要な観測回数 N は
534 – 100 = 434 で、さらに434回の観測が必要であることがわかります。
そこでさらに400回の観測を行ったところ、次のような結果を得ました。
観測回数 500(予備調査の100を加える) 稼働 385 余裕 115
したがって、p=385/500 = 0.77 となり、最初の式から
よって、±4.9%は期待精度が満足されますから、観測回数はこれで十分です。
すなわち、稼働率は77±4.9%の範囲にあり、その真の値は信頼度95%で、絶対誤差Sp=3.8%により、73.2~80.8%の間にあるということができます。