『心理劇の特質―ドラマ探訪』でロールプレイの訓練

『心理劇の特質―ドラマ探訪』でロールプレイの訓練

8月に退職する際、会社に置いてあった書籍(私物)を、持って帰っても置く場所がないので会社の図書室に寄付した。

全部で52冊あった。切りのいいところで50冊を渡し、2冊だけ持ち帰った。2冊とも500ページ近くあり、結構重かった。

 

1冊は、『創造工学―等価変換創造理論の技術開発分野への導入とその成果』(市川 亀久弥、ラティス)である。これは絶版になっていたのを復刻したもので、なかなか手に入らないだろうと手元に置いておくことにした。値段は何と5000円である。

もう1冊が、『心理劇の特質―ドラマ探訪』(黒田 淑子、朝日クリエ)である。

これは、たまたま書店(多分、ジュンク堂)で見つけて買ったもので、多分もう二度と見つけられないだろうと思って持ち帰った。

後で気づいたのだが、私のお気に入りだった『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books) 』(楠木 建、東洋経済新報社)、『イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材』(トム・ケリー、早川書房)、『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント、ダイヤモンド社)も置いてきてしまった。いずれも、何度も読み返したので、卒業ということにしておこう。

 

今日の本は、『心理劇の特質―ドラマ探訪』である。

中学生の時、道徳の授業(そんなものあったっけ?)でサイコドラマというのをやって、結構楽しかった。日頃の家庭でのできごとをドラマにして演じて、皆で思ったこと、感じたことを話し合う、というものだったと思う。

それから50年を過ぎて、そういうものの存在すら忘れていた。本書は、サイコドラマの研究者の研究成果を集めたものである。事例とそこから学ぶことが、37の特質で分類されている。

実を言うと、学問的なことは興味はなかった。ここに出てくるドラマ例が、コンサルタントの研修で使えないか、と思ったのである。

 

退職までの7年間、私は人材開発担当者として、社員(主として若手のコンサルタント)の教育を行っていた。

主なものがコンサルタントの基礎スキルである、ヒアリング、ロジカルシンキング、プレゼンテーションである。さらに、管理職向けのコーチング、ファシリテーションの研修も行った。いずれもオリジナルの教材を使った体験型のもので、その中心にあるのがロールプレイであった。

ロールプレイにサイコドラマの手法を使ってみてはどうだろうか、が出発点だった。

 

ヒアリングにしてもプレゼンテーションにしても、相手の立場に立って、相手がどう感じているか、どう受け止めているかを想像できなければ、本心は聞き出せないし、思いは伝わらない。その訓練にロールプレイを使っていたのである。

 

ドラマの事例のいくつかは、研修の最初のアイスブレークのためのゲームで使った。

たとえば、旅に出てお土産を買ってきて渡す、というゲーム。これは生徒が結構乗ってくれた。また、町内会の秋祭りの打ち合わせを忘れて犬の散歩に行き、戻ってどう振る舞うか、というゲーム。これも、ロールプレイの前段としては有効だったと思う。

 

この本でサイコドラマというものを知ったことで、それ以前に行っていたロールプレイから大きく変わったのは、次の点である。

 

演じてはいけない。自分が感じたままに振る舞う。

 

それまでは、顧客先の専務になるとそれらしく威張って見せる、とか怒って席を立つ、といったことを面白がって演じることがあり、却って「お遊び」になってしまう傾向にあった。それを自分が専務だったらどう感じるだろうか、と十分考えることで相手の立場に立つ訓練ができるようになった。

これまでなら、本書はビジネスには無関係のように思えたかもしれないが、これからのビジネスで重要なことが学べる可能性がある。

※2013年9月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任