『品質でもうけなさい』8-7.となりの芝生がきれいに見えます
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8-7.となりの芝生がきれいに見えます
【問題14】改善に成功している他社のやり方を参考にして、うちの品質も向上させたいものだ。
これまで何度もお話したように、他社のマネをしてもうまくいくとは限りません。
二番煎じに甘んじることなく、創意工夫して自社オリジナル技術を創造する気概を持ちなさいとも言いました。
このことは、実際のセミナーでも強調するのですが、それでも受講後のアンケートに、具体的な事例が少ない、もっと他社の事例が聞きたかったという感想を書き込んでくる会社があります。
指導に入っている会社でも、やたらに詳細な事例を聞きたがる人がいます。
しかし、結論から言うと、原則としてコンサルタントが自分の指導先における事例を一般に公開することはありません。
なんて言うと、あのA君なんかは……
……と鬼の首を取ったように大喜びするかもしれません。
ホンネのところを言えば、セミナーにせよ実地指導にせよ事例を使ってお話ができるなら、その方が簡単で楽なんです。
この商売を始めた頃、ある指導先で改善の進め方を説明するために、不用意に他社の検討資料を見せたことがあります。
そのときは黙っていましたが、帰りの新幹線の中で先輩のコンサルタントにこっぴどく叱られてしまいました。
なぜだと思いますか?
……事例を公開された会社は当然そう思うでしょう。
コンサルタントを使い慣れている会社から見れば、こんなふうにひょいひょいと会社の中身を明かしてしまうコンサルタントなんて、危なっかしくてとても信用できません。
特に品質問題は製品の固有技術・製造技術に絡んできますから、一層神経質になります。
通常は、指導先会社との間に守秘義務に関する契約を結んでいますから、指導先会社の了解がない限り、コンサルタントが事例をそのまま公表することはありません。
必ずマスキングやモザイクで見えなくしたり、内容を大幅に改変したものしか使うことができません。
要するにコンサルタントに生々しい事例を期待してもムダなんです。
公開セミナーは社内の改善事例発表会とは違います。
それでも、どうしても詳しい事例を聞きたいと思うなら、個々の会社に直接聞きに行くと良いでしょう。
最近は工場見学なんて一般的になってきましたし、いろいろ調べれば会社主催のセミナーというのもあるかもしれません。
ただし、どこまで詳しい話が聞けるかはわかりませんよ。
あなたの会社がそうであるように、どの会社でも簡単に(というより絶対に! )手の内を明かしたりしません。
自分で苦労しないで改善事例をマネしようなんて虫が良い話ですよ。
そんな当てにならない他社の様子ばかり気にしていないで、本気で改善するつもりなら、まず自分自身を見つめてください。
たまに、もっと会社の顧客満足度の「順位」を上げたいとか、品質経営度をランクアップするにはどうしたら良いかなんていう相談をされることがあります。
最初は「順位」とか「ランク」とか、何を基準に言っているのかよくわかりませんでしたが、大手新聞社と関連法人とが共催してそのような調査をやってるんですね。
これはみなさんの方が詳しいかもしれません。
このようなデータは、おそらく国や自治体の経済政策などには役に立つでしょうから、調査に協力するのは悪いこととは思いません。
それに、もし上位にランクされれば会社の宣伝になるかもしれません。
しかし、トップクラスはいつも日本を代表する企業が並んでいるだけで変わりばえしませんし、下の方でいくら順位が上下しようと注目されることはほとんどないでしょう。
そんなもの、問題解決とは何の関係もありませんから、あんまり気にするのもどうかなと思うわけです。
となりの芝生はきれいに見えるものです。
自社と他社とを比べれば、他社の良いところばかりが気になります。
でも、他社から見れば、あなたの会社もまんざら捨てたもんじゃありませんよ。
もっと自信を持って、会社の目指すところを目標に自ら問題解決を進めてください。
楽屋裏話 by『面白狩り』編集長
この節の内容とは相反して、自社の改善事例をバンバン公開してくれる会社もあります。例えば、トヨタとかソニー、パナソニックなど、日本を代表するお馴染みの企業がそうです。こういった会社は自動車や家電製品の他に、改善技術すらも自社ブランドの商品にしています。
もちろん、内容は参考になるものばかりですから、接するチャンスがあれば大いに利用するべきです。ただし、折角良いヒントをもらっても、自分の職場に戻ったときにそれを活用する意思がなければ、A君と同じことになってしまいます。改善とは事例のコレクションではありません 。
実際にやってみなければ何の意味もありません。必要なのはヒントを基に新たな改善事例を自ら作る心意気です。