『品質でもうけなさい』6-4.システム思考で発想を変える
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6-4.システム思考で発想を変える
仮説設定・検証を執拗に繰り返せといっても、それで常に問題クリアできるほど現実は甘くはありません。
失敗を何度も乗り越えて得られた答だから価値があるんです。
それに、多少の失敗があっても、問題解決のシナリオから大きく外れていなければモチベーションは維持できます。
ところが、まるで深い山の中で道に迷ってしまったみたいに、問題の見通しが悪くなることもあります。
こんなときは一度立ち止まって大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けましょう……って、問題解決とは関係ない話に聞こえるでしょうが、そうではありません。
道に迷えば、だれだってパニックに陥ります。
ただし、経験の差というのはこういうときに出てくるもので、経験豊富な人ほどいち早く落ち着きを取り戻して現状を分析し、自分が置かれた状態を把握します。
なにごとも経験は大事ですよ。 今までの延長で考えていたら同じ所で堂々巡りになるので、きっぱり発想を変えます。
山で迷ったら尾根に出ろと言います。
尾根に出たら遠くの景色が自分の居場所を推測する手掛かりになるからです。
これは、改善活動でも同じです。
問題解決に行き詰まったとき、問題を見る視点を少し変えてみると、新しい見通しが開けてくることがあります。
いま、問題の対象をシステムとして捉えてみると、そこにシステムレベルというものが見えてきます。
システムについてはISOのところ(3-6)で少し触れましたが、詳しくは別の機会でお話します。
問題を見る視点を変えるというのは、問題の対象のシステムレベルを考えてみようということです。
このシステムレベルとはどういうものか、下の例で説明します。
ある精密部品の組立工場の例です。
TIG溶接機という機械の調子が悪く、溶接不良が頻繁に発生して、生産性も阻害しているという状況です。
溶接部分のクリアランスと電圧値を管理項目にして調整していましたがなかなか安定してくれません。
生産技術にも協力してもらいましたが状況は変わらず、だんだん改善活動に人が集まらなくなって、今では作業者任せの放置状態です。
たまに大きな不具合が発生して、改善の必要性が強調されますが、従来と同じ議論を繰り返すだけで一向に前進が見られません。
そこで、TIG溶接機をシステムとして捉えてみることにします。
覚えていますか?
システムを考える上で最も重要なことはシステムの機能(=目的)であるとお話しました。
まず、TIG溶接機の機能を考えます。
色々な意見があると思いますが、ここでは「部品の嵌合部分を固定する」と定義することにします。
次に、「部品の嵌合部分を固定する目的は何か?」、あるいは「部品の嵌合部分を固定するための手段は何か?」と問いかけていきます。
例えば、部品の嵌合部分を固定する目的は、電磁ブロックの部品を組み合わせて固定するため。
さらに、電磁ブロックの部品を組み合わせて固定する目的は、お客様の要求に適合した製品を製作するため……という具合です。
このように目的・手段の問いかけでシステムの機能を明らかにしていくことを機能展開と言います。
機能展開をすると、下のような目的・手段で結ばれた階層が見えてきます。
これがシステムレベルです。
今まで問題解決で戦ってきたレベルは、大体、溶接ユニットの辺りです。
例えば、溶接位置のクリアランスや電圧値のバラツキなどが検討の対象でした。
あるいはその下の溶接棒のレベルで、材質や先端形状などの調査も行いましたが、真因がわからず問題解決できていません。
これではいつまでたってもラチが明かないので、発想を変えて上位のレベルで考えます。
例えば、溶接工程のレベル。TIG溶接機以外の方法で電磁ブロックの部品を組み合わせて固定できるならば、現在の問題は解消します。
つまり全く新しい解決の道が開けることになります。
システムレベルには、このように、上位のレベルで問題が解決すると、下位レベルの問題は意味を持たなくなるという特徴があります。
今まで現場で苦労してきた当事者からすると、なんだかインチキをして問題から逃げているように感じるかもしれません。
もちろん、このレベルで執念深く戦い続ける意義は十分にあります。
その結果、新しいノウハウや画期的な製造技術が生まれる可能性もあります。
しかし、いつになったら実現するのか全く見通しのない状態で、同じところをウロウロできるほど現場に余裕があるのでしょうか?
やるとすれば、これは開発設計や生産技術などの専門スタッフのテーマです。
道に迷ったら、システム思考で発想を変えてみること。
困ったときに新しい解決の道を開くためにも、問題解決では他部門と連携したり専門スタッフに参加してもらうのが良いのです。
楽屋裏話 by『面白狩り』編集長
システムという言葉の起源は遠くギリシャ時代の昔にさかのぼりますが、科学的に研究され、経営改革に応用されるようになってきたのは20世紀半ば、アメリカのジェラルド=ナドラー教授のワークデザインあたりからです。
それ以後に開発された管理技術のほとんどがシステム思考をベースにしています。残念なことに、現在ではそれらの基になったシステム思考自体が忘れられた感じになっています。もったいない話です。
そこで、システムについては、別途にまとめておきたいなと思っています。ただし、話し始めると取りとめがなくなりそうなので、少し構想を練ってからにします。しばしお待ちを。