『品質でもうけなさい』エピローグ
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エピローグ
今から2億2千万年前……。
※「ビリオンズ」より
あなたが働いている職場は高温多湿の密林の中だったか、あるいは深い海の底だったかもしれません。
あなたの周りには見慣れない生物がウロウロしていました。
彼らこそ、この時代の王者恐竜です。
その中で、最強と言われた王者の中の王者がティラノサウルス・レックス。
しかし飛びぬけて大きな脳を持ち、凶暴さの点でもTレックスを凌ぐと言われているのがドロマエオサウルスという小型恐竜でした。
そしてあなたはと言えば、物陰でふるえているちっぽけなネズミです。
6500万年前のある日、空に新しい星が現れ、見る見る大きくなっていきました。
わずか10キロメートルほどのその隕石がメキシコのユカタン半島近くに落下したとき、周辺数千平方キロメートルのすべての生物が一瞬で死滅しました。
※「ビリオンズ」より
衝突で空中に飛散した粉塵は、さらに高熱を帯びてアメリカ大陸を1日で焼き尽くし、やがて太陽光線をさえぎる暗闇となって全世界を覆っていったのです。
日照不足と酸性雨のために植物が次々に枯れ死に、食料不足は恐竜だけでなく哺乳類も含めたすべての生物に深刻な打撃を与えました。
そして、10万年後のある日、最後の恐竜が地球上から姿を消したのです。
哀れなネズミだったあなたは、霊長類ヒト科ホモ・サピエンスに姿を変えて生き残っています。
霊長類の霊長というのは万物の頭という意味です。
かつての霊長ドロマエオサウルスもTレックスも今はいません。
イギリスの生物学者チャールズ・ダーウィン。
彼がこんなことを言っています。
最も強いものでもなく、最も賢いものでもなく、環境の変化に柔軟に対応して変わることができたものだけが生き残れるのである。
含蓄のある言葉です。
昨日までの好況が突然大混乱に陥るなんていう話は珍しくもありません。
会社を取り囲む経済環境は一瞬先が闇。
いつ大隕石が落下してくるかわからないのです。
わが国有数の大企業であろうと最高のシンクタンクであろうと、今までと同じ延長線上に未来もあると思って経営をしていては、競争に勝つどころか生き残ることすらできません。
改善や改革はお祭りやイベントではありません。
会社が変わるためにやるものです。
ただし、ちょっとばかりの改善で簡単に変われるものなら苦労はしません。
小さなネズミが人間に変わるまで2億年以上もかかったのです。
本当に変わるためには時間をかけて問題を一つ一つ解決していかなければなりません。
会社のみならず、世の中、教科書通りにいかない問題ばかりということは、何度も言いました。
人間は神様ではありませんから、わからないことだらけです。
私たちはもっと謙虚になるべきです。
しかし、人間が現代の霊長として繁栄することができたのは、この未知なる物への挑戦、探求する心、知ろうとする力のおかげでした。
新しい知識と知恵を得るたびに人間は環境に順応する術を身に付けていったのです。
人間は本来、わからない、難しいから面白いということを知っている動物です。
このことを忘れて現状に満足し、問題解決を放棄する会社は必ず恐竜と同じ末路を歩むことになるでしょう。
ところで。
あの凶暴で狡猾なドロマエオサウルスが暗黒の氷河時代を耐え抜いて、実は現代に生き残っているという話をしたら驚く人も多いでしょうね。
古生物学者の研究によると、現代の鳥類の骨格構造が、ドロマエオサウルスのそれときわめて似ていることが確かめられています。
今では鳥こそが恐竜の子孫ということが定説になっています。
ドロマエオサウルスは問題を解決するためにうろこを羽毛に変化させ、その段階で彼らはもはや恐竜ではなくなり、鳥へと進化しました。
ダーウィンの言葉通り、環境の変化に対応して鳥に変わることができた結果生き残れたのです。
日本の品質管理の草分けの一人である唐津一先生のこんな言葉があります。
進歩とは変わることである。
これを結語として終わりにします。
お読み頂き有難うございました。
楽屋裏話 by『面白狩り』編集長
セミナーの内容をベースにして、簡単な改善エッセーを書くつもりだったのが、結構長ったらしい話になってしまいました。
もっと軽いコンテンツになれば良かったのですが、文章をまとめるっていうのは難しいもんですね。
実戦で喋っている方が全く楽です。