『価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道』で10年前を懐かしむ
涼しくなって、早朝の犬の散歩も実に快適。ただ、5時前に家を出るのでそろそろ懐中電灯が必要かな。
本日の本は、『価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道』(延岡健太郎、日本経済新聞出版社)。著者の名前と「価値づくり」という言葉に惹かれて購入。1日で読めた。
延岡教授とは10年以上前にけいはんな(京都、大阪、奈良にまたがる研究都市)で行われたMOT(Management of technology)の1週間コースで講師と生徒として出会っている。年齢は私より10歳ほど下。当時は神戸大学におられたはずである。
そのMOT研修は企業の研究所長、研究部長を集めた合宿で米国から来られたMITの教授陣、トヨタなど日本のものづくり研究で有名な藤本隆弘教授(東大)らが講師として名を連ねていた。参加者は関西、関東の名だたる製造業から集まった20名ほど。そこに最年長の50代前半の生徒として私も参加していた。
この研修で今でも覚えているのが、“Value Creation(価値創造)”と“Value Capturing(価値獲得)”の違いについての講義である。
MITの女性の教授が、「日本はValue Creationで止まっている。Value Capturingまで追求しなければ世界では勝てない」と言われたのに対して生徒である我々は意味が理解できず、数人で講師に質問に行った。当時、企業の研究者、開発者にとっては価値を創造することが目標であって、その先何を獲得すべきなのかが理解できなかったのである。
その時の回答は「価値を作るだけでは足りない。それを市場に出して、そこから対価を獲得するまで考えるべきである」というものだった。意味は分かったが、腹落ちしていたとは言えない。
それから数年して、私は子会社に移り米国人の社長と出会うことになる。最初の全社ミーティングで言われた言葉は、“Make Money!”だった。その時、“Value Capturing”を本当に理解できたように思う。
本の話に戻る。
この本の最初の部分で、“Value Creation(価値創造)”と“Value Capturing(価値獲得)”が出てくる。しかも、いずれも“Value”が出てきてわかりづらいので、この本では、「ものづくり」と「価値づくり」として論じている。まるで自分のことを言われたようで懐かしいような、恥ずかしいような。
しかし、“Value Capturing”を「価値づくり」と言われたとたん、研修で感じたえげつなさ、社長から“Make Money!”と言われた時の頬をひっぱたかれたようなショックが薄れ、何だかお行儀よくなってしまったような気がした。
本書では、日本の製造業が「ものづくり重視」から「価値づくり重視」へと転換していくべきだとする一方で、「価値づくり」を追求するとともに、「ものづくり」も追求し続け、決して手放してはならない、と主張している。
また、「価値」を「機能的価値」と「意味的価値」に分類し、最終的に意味的価値を追求することを提言している。
そして、出てくる言葉が「深層の価値創造を目指す」というもの。何だか、また『U理論』のプレゼンシングの世界に踏み込んだのか(?)と思わせるが、こちらは「何かが下りてくる」的なものは全くなく、企業の底力(組織能力、積み重ね技術)によって顕在化していない顧客が喜ぶ価値(潜在ニーズ、意味的価値)を創り出そう、という至ってまともなものである。
価値づくりに成功している企業として、定番のアップル、日本企業としてのキーエンス、シャープなどを挙げているが、過去の事例を分析する手法だとやはりこういう例になるのかな。
ただ、シャープの現状などを考えると過去の事例から学ぶことの限界を感じてしまう。かといって、「何かが下りてくる」的な『U理論』には抵抗があるし……まだまだ悩まなければ。
※2013年9月に書かれた記事です。