『ワーク・シフト』に大いに共感

『ワーク・シフト』に大いに共感

8月に退職するまでの7年間、コンサルティング会社の人材開発を担当していた。

新卒者を採用して育てるということはほとんどなく、大半が経験者採用だった。常に人手不足の状態で、優秀な人材を採用することに追われていた。

世の中は、若い人の雇用が大きな問題になっているのに、高い給料がもらえる若手コンサルタントが不足しているとは、何て皮肉なことか。結局、コンサルタントに必要とされるスキルと、職を求める人が持っているスキルのミスマッチなのだ。

 

私が勤めていたコンサルティング会社の経営幹部は40歳代が大半である。40歳を超えてすぐにトップに近いところまで上りつめてしまった人たちは、これからどうするのか。それも心配なところである。

私と同じ65歳まで勤めるとして20年以上、多分これからは70歳まで働くことになるだろうからあと25年以上。気が遠くなる。仕事に対するモチベーションが持続するのだろうか。

そこで私が手に取ったのが、『ワーク・シフト(孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>)』(リンダ・クラットン、プレジデント社)である。

 

本書は、在職中に書店で最初の部分だけ立ち読みし、「日本の実情はちょっと違うから参考にならないかもしれない」と勝手に考えて買わずに戻したものである。でも、時間がある失業者なので(要するに暇人)思いきって読むことにした。

結論から言って、私の思い込みは全くの誤りだった。まさに私が最近感じていた「これからの働き方に対する心配」を論じていて、それに対する提言(3つのシフト)がとても腑に落ちるものだった。

 

まず、2025年の働く人たちのストーリーに引き込まれる。

「漫然と迎える未来」では、時間に追われ続けてものを考えることもできなくなっている女性、技術の進歩により人とのつながりが断ち切られた孤独なエリートたち、スキルがないために繁栄から締め出された貧困層の若者(2013年でも居そうな人たち)が物語として紹介されている。これらにはぞっとさせられる。

 

「主体的に築く未来」では、多くの人たちと力を合わせて大きな仕事をやり遂げる人たち(現在のクラウドソーシングの未来形)、ソーシャルな活動に積極的に関わりバランスの取れた生活をする人たち、自分のスキルを生かし、ITも駆使して起業する人たちが描かれていて、希望の光が見えてくる気がする。

 

3つの働き方のシフトとは、次のものである。

1.ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
2.孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
3.大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ

 

1については私も実感してきたことである。たとえば、ビッグデータがビジネスの話題になっているが、ここで必要なのは単なる統計の専門家ではなく、ビジネスも分かりITも使える人、あるいはそれらの人を取りまとめられる人であり、決して従来のゼネラリストでもなければ、単独の技術のスペシャリストでもない。

2については、すでに多くの成功事例が出ているので、今後さらに発展することは予測できる。

3は、マインドを変えるということである。「何かを諦めなければならない」ということも本書では書かれている。

 

驚いたのは、次のような記述があったことである。

「自分がどういう人間なのか、人生で何を大切にしたいのかをはっきり意識し、自分の前にある選択肢と、それぞれの道を選んだ場合に待っている結果について、深く理解しなくてはならない。」

これって、『U理論』のプレゼンシングのところで書かれていることとほぼ同じことを言っているのではないか。

つまり、私の「真の自己」とは“私のなすべき「真の仕事」とは”と内省するところである。

幸せとは何か、自分は何ができて、何をすべきなのか、考えるべき時なのかもしれない。

※2013年9月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任