『ビッグデータの正体—情報の産業革命が世界のすべてを変える』:私の理解...

『ビッグデータの正体—情報の産業革命が世界のすべてを変える』:私の理解は違っていた?

1か月前までIT系のコンサルティングを生業にしている会社に勤めていたので、“ビッグデータ”という言葉は耳にタコができるほど聞いていた。

私の仕事は人材育成だったので、データサイエンティストをどう育てるか、などをよく議論していた。

その意味では、復習のつもりで手にとった本であるが、読むうちに、ひょっとして私の理解が間違っていたのかもしれない、と思うことが出てきた。

 

本書は、『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』(ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ、講談社)である。

 

早速、私が頭の切り替えを求められたのは、ビッグデータによる「3つの大変化」というものである。

 

第1の変化「すべてのデータを扱う」:大量のデータを扱う、とは思っていたが、「すべての」と言い切られたとき、なるほどそう考えるべきなのか、と納得した。

第2の変化「精度は重要ではない」(量は質を凌駕する):コンピュータによる翻訳の例が、まったく違った世界に入ったことを納得させてくれた。

第3の変化「因果から相関の世界へ」(答えがわかれば、理由は要らない):これは目からうろこが落ちた。と同時に、本当か? と疑問にも思った。

 

コンサルタントの育成カリキュラムでは、“仮説思考”“ロジカルシンキング”などが定番になっている。

まず仮説を立ててデータを集め検証を行う。仮説が違っていたら別の仮説を立ててデータを集めて……としきりに教えてきたものだ。

 

さらに、クライアントへの提言はロジカルに、納得してもらえるように説明すべきである、とプレゼンテーションの訓練を行ってきた。

ビッグデータの世界では、とにかく、乱雑なデータであっても全部のデータを集めて分析して、結果を出す。

結果に対しては因果関係など調べる必要はない。

 

でも、ビッグデータを使ってビジネスを変えていこうとしている経営者は、「答えがわかれば、理由は要らない」で納得するのだろうか。

人間は何らかの理由づけを求めるものではないのか。

 

すべてのデータを放り込んで最先端のコンピュータ・システムで分析して出たものだから、水晶玉を見つめて出た結果とは違う、ということなんだろうけれど、いまひとつ腑に落ちない。

いずれにしても、ビッグデータが新しいイノベーションの鍵を握っていることだけは、多くの事例を通じてわかった。

私も頭を切り替える必要がありそうである。

 

※2013年10月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任