『ビジネスモデル・ジェネレーション』でどこまでできる?

『ビジネスモデル・ジェネレーション』でどこまでできる?

大学の講師に加えて、昨年まで勤めていた会社のつながりで技術者向けのビジネス研修(戦略立案、提案)の講師もしている。

私の研修はロールプレイ中心であり、クライアントの気持ちになって自分で提案内容を評価する。

必ずのように受講生から言われるのは、「方法論を教えてくれ」「プロセスを教えてくれ」「模範解答を示してくれ」ということである。

 

それに対しては、「方法論は自分で見つけ出すもの」「クライアントが感動してくれるものが解答」とつれなく答える。

何かの方法論やプロセスに従えばクライアントが驚くようなビジネス戦略が出来上がるとしたら、誰もプロには頼まず自分でやるだろう。

 

以前から気になっていた本を遂に買ってしまった。

表紙の絵は軽いが本自体は重い。

『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書—ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック—』(アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール、翔泳社)

 

絵本のように、読んでいて楽しい。

ビジネス・モデルとは何かがすっと分かる気がする。

チームで新しいビジネスについて議論するのにとてもよいツールだと言える。

 

情報共有にビジュアル化は有効だから。

私にとってみれば、ビジネス・モデルについて頭を整理するのに役立つ書物であることは確かである。

このようなビジネス書でいつも行われることだが、執筆時点で最もイノベーティブと思われる事例を取り上げ、それがこのツールによって生み出せる、という説明をする。

 

本書もその例にもれない。

考えてみればわかることだが、後付けで適用してうまくいったように見えても、何もないところからそのツールを適用して同じものが生み出せるとは限らない。

また、そのツールを使わずに現に生み出されているのだから、その事例にとってはそのツールは不要ということになる。

 

このツールでイノベーションを起こせると思ってはいけない。

イノベーションを起こしそうな種を見つけることができた後で、それを周りの人と共有し、さらに協力者を募るのにはとても有効な手段である。

 

※2014年3月に書かれた記事です。

 


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任