『クラウドストーミング』で次の一歩を踏み出せるか

『クラウドストーミング』で次の一歩を踏み出せるか

ビジネス戦略、ビジネスモデルが、毎年数多く出てくる。

その中には、すぐに頭に入り納得できるものとそれほどでもないものがある。

前者は、結構長く語られ、書籍も売れ続ける。

 

一つの例が『ブルーオーシャン戦略』だろう。

名前だけですぐ中身が理解できる。

あれも、これもブルーオーシャンだ、と例を挙げられれば、なるほどそうだ、と思う。

 

しかし、ではどうやってブルーオーシャンを見つけるのか、と言われると、既存の事例を後付けしたものをじっくり眺めても答えは出てこない。

しかも、既存の事例すらあっという間に激しい競争にさらされてどこかに行ってしまい、そういえば数年前ならブルーオーシャンだったかも……ということも多い。

いつまでもブルーオーシャンに居続ける戦略も欲しい。

 

もう一つの例が『クラウドソーシング』である。

これも、言葉を見ただけで納得できる。

世界中の知恵を集められればイノベーションが起こせそうだし、ウィキベディアやイノゼンティブを見ていれば、多数の力はすごい、と感心する。

 

しかし、人を集める前にテーマをどう選ぶのか、世界中の何万人、何十万人をどう管理するのか、と考えると、これは大変なことだと気付く。

お話としては面白いし、可能性は否定しないけれど、やっぱり無理なんじゃないか……などと思ってしまうのは私だけだろうか。

『クラウドストーミング —組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方—』(ショーン・エイブラハムソン、ピーター・ライダー、バスティアン・ウンターベルグ、CCCメディアハウス)は、クラウドソーシングを実現するための具体的な方法、プロセスをしっかりと記述した本である。

 

著者らは、大学の先生ではなくビジネス界で活躍するコンサルタント、ベンチャー投資家、クラウドソーシングの実務家である。

そのため、内容は実務に沿ったものとなっており、しかも無駄がない。

クラウドソーシングで新たなアイディアをビジネス化しようと思ったときに出る次の疑問に答える形で各章が記述されていく。

 

① 知的財産、機密保持、ブランドの問題は?

② どの段階でどういうテーマを投げかける?

③ インセンティブはどう決める?

④ パートナーシップはどう構築する?

⑤ 最良の人材をどう探す?

⑥ コミュニティをどう管理する?

⑦ 各参加者の貢献度をどう評価する?

⑧ 最善の策をどう選ぶ?

⑨ コミュニケーションのインフラをどう作る?

 

事例の数はそれほど多くはないが、こういった疑問への解を述べる際に何度も出てきて、理解を助けてくれる。

ツールは、ビジネス・モデル・キャンバス(「ビジネス・モデル・ジェネレーション」で記述されているもの)ぐらいしか示されていない。

しかし、イノセンティブのような実績のある仕組みが示されているので、目的さえ明確に定義できれば、実現可能性はありそうに思える。

 

本書(翻訳)の出版は2014年1月である。

あまり読まれていないのか、ネットのレビューは一つも見つからなかった。

私としては久々に読みごたえを感じたので、読まれていないとすればもったいないと思う。

 

※2014年3月に書かれた記事です。


1948年東京生まれ 石田厚子技術士事務所代表 東京電機大学情報環境学部特別専任教授 技術士(情報工学部門) 工学博士 ◎東京大学理学部数学科卒業後、日立製作所入社。コンパイラ作成のための治工具の開発からキャリアを始める。 5年後に日立を退職し、その後14年間に5回の転職を繰り返しながら、SEなどの経験を通じてITのスキルを身に着ける。その間、33歳で技術士(情報工学部門)取得  ◎1991年、ソフトウエア開発の生産性向上技術の必要性を訴えて日立製作所に経験者採用。生産技術の開発者、コンサルタントとして国内外にサービスを提供  ◎1999年 企画部門に異動し、ビジネス企画、経営品質、人材育成を担当。57歳で「高い顧客満足を得る商品開発への影響要因とその制御」論文で工学博士取得  ◎2007〜13年、日立コンサルティングでコンサルタント育成に従事。「技術者の市場価値を高める」ことを目的とした研修を社外に実施  ◎2013年 65歳で日立コンサルティングを定年退職し、石田厚子技術士事務所を開業。技術者の市場価値を高めるためのコンサルティングと研修を実施  ◎2014年 東京電機大学情報環境学部の特別専任教授に就任