『インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済』で顧客主導を再発見
3年ほど前に、人工衛星が撮影する画像をユーザーに提供する衛星画像のビジネスについて調べていた。
高額のコストをかけて撮影された画像を流通させるビジネスの規模が、あまりに小さいことに驚いた。
その後、3.11の東日本大震災の後、世界中から衛星画像が提供され、専門家がそれらを組み合わせて分析することにより、一般の人たちが震災の被害状況を詳細に知ることができたことを知った。
衛星画像は、撮影する人工衛星によって解像度、撮影範囲、撮影頻度などがさまざまである。
それらを別々に販売することでは、特定の顧客に対して限られた価値しか提供できない。
しかし、さまざまな画像を組み合わせることにより、ユーザーが求める情報が作れ、大きな価値を提供することができる。
つまり、衛生画像のビジネスは、人工衛星を飛ばす会社や組織主体ではなく、それから得られる情報のユーザー主体で行われなければならないのではないか、とその時気づいたのである。
さらに、ユーザー主導で情報を得ようとするにはエージェント(仲介役)が必要であることにも気づいた。
その時の気付きを再認識させてくれたのが、この本である。事例が豊富なので読み進むのが楽しいが、さらっと簡単に読める本ではない。
『インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (Harvard business school press)』(ドク・サールズ、翔泳社)である。
ここで一貫して述べられているのが、VRM(Vendor Relationship Management)である。
その対角にあるのがCRM(Customer Relationship Management)であるのはすぐにわかる。
CRMでは、売り手企業(ベンダー)が顧客の情報を集めて顧客を囲い込もうとするのに対して、VRMでは、顧客(ユーザー)が自らの情報を管理し、それに基づいてベンダーを選択し利用する。
VRMの特徴は、個人の情報を個人が管理するという視点であるが、もう一つはエージェントの存在が必要になるということである。
そうか、2年半前に考えたのはVRMだったのか、と考えが及んだとき、ちょっときついけれど、この本を最後まで読まなければと思った。
本書にも書いてあるが、まだまだVRMの本格的な実現には到達していない。
エージェントの仕組みの実現が難しい。
しかし、本書ではかなり実現に近づいていると言っている。
「顧客中心~」と「顧客主導~」は違う、という。前者は顧客の外から与えられるもの、後者は顧客自身が行うものである。
ここで目からうろこが落ちた。
「あなたのことを考えてご提供します」とベンダーからプッシュされるものが「顧客中心」であり、顧客自ら、エージェントの力を借りて適切なベンダーを探し出し、適切なサービスを受けるのが「顧客主導」である。
もちろん、顧客主導になっていくはずだろう。
娘の結婚式で留袖を着ることになり、着物の知識の無い私は三十数年前に親に仕立ててもらった留袖と帯を前に呆然としていた。
インターネットを検索しまくり、さまざまな知恵を授けてもらったお蔭で恥をかくことなく結婚式に臨むことができた。
しかし、それから2ヶ月以上経つのに、ネットで何かの記事を読むたびに、留袖のレンタル、袋帯などの広告が張り付いてくる。
全く無駄としか言いようのない宣伝ではないか。
ネットの世界では、私の行動や個人情報が洩れ洩れかもしれないが、私の行動の意味までは掴めていないようだ。
※2013年11月に書かれた記事です。